作成日:2020.12.12  /  最終更新日:2020.12.28

タイの会社設立にかかる費用・必要書類を徹底解説

海外進出の一環として、タイは候補として挙がりやすい国かもしれません。タイは以前から親日国と言われ、微笑みの国といわれる国民性もあり、アジアの中では既に進出している日系企業が多いです。

実質GDPについては2.4%と、他の成長著しいアジア諸国と比べると落ち着いてはいますが、2017年時点でタイに進出した日系企業は5,444社と、多くの企業がタイに進出しています。

他のアジア諸国同様、現地職員の賃金上昇や質の確保など課題はありますが、様々な製造業で、製造拠点をタイに移す会社は増えています。

特に近年、機械や食品、日用品などで、Made in Thailandという文字を見かけることが増えました。それだけタイが製造拠点として魅力的であるということの表れでしょうが、実際にタイで会社設立を行う場合、費用や必要書類はどのようになるのでしょうか。

タイで会社設立するとかかる費用

タイで会社を設立するとかかる費用については、資本金・オフィス賃料・会社の設立登記費用・ビザ申請手数料の初期コストに加え、法人税・ビザ申請手数料など、毎月・毎年の運営コストも踏まえ、ある程度まとまった資本金、その他各種費用を用意する必要があります。

また、会社を設立する上では、タイ人の出資者が必要になるなど、人の側面も含め、様々な検討をする必要があります。

当項目では資本金の問題や、雇用も踏まえた資本金設定も含め、解説を行います。

(1)資本

資本金に関しては、最低資本金の制限はないため、日本やシンガポールの1円、1SGDのように、1バーツ(2020年10月26日現在、3.34円)で設立を行うことは「制度上」可能です。

しかし、他の国と同様、資本金が少ない=信用をほぼ得られないということは織り込んでおく必要があります。

さらに、登記を行う登記官も資本金が少ない状態だと、「この会社は本当に大丈夫だろうか?」という目で見てくるおそれがあります。

一般的には最低で100万バーツ(334万円)以上、日本の法人、つまりタイにとっての外国企業ががタイで支店を設立する場合は、最低でも200万バーツ(668万円)以上が要されます。

加えて、外国人事業法の規制業種に基づく、特別の認可を取得する必要のある業種に関しては原則300万バーツ(1,002万円)以上を用意する必要があります。

さらに、就労ビザの延長にかかる年度会計報告では、会社の資産額が100万バーツ(334万円)以上であることが問われるため、会社の資産にも注意する必要があります。

(2)オフィス賃料

オフィスを借りる際の賃料も注意する必要があります。

具体的な費用に関しては、オフィスの場所・条件により大きく異なる可能性があるため、具体的な金額の記載は控えますが、概ね都内の6割前後の賃貸料と言うのが相場と見ておくと良いかと思います。

日本やシンガポールほどではないですが、タイ自体の経済力向上に伴い、賃料相場は上昇しています。

今後も賃料が上昇する可能性があることは、想定しておいた方が良いでしょう。

(3)会社設立登記料

会社設立登記に関しては、二段階で行う仕組みとなっています。

「基本定款登記」を行うのがまず第一段階です。

作成した定款に、3人以上が署名する必要があり、基本定款の登記料は、資本金の額を基準に決まります。

資本金10万バーツ(334,000円)につき、50バーツ(1,670円)ですが、最低基準として5,000バーツ(16,700円)~最大25万バーツ(835,000円)の登記資本金が必要になります。

第二段階として「最終登記」という形で、登記局に会社設立登記料を支払います。

こちらは資本金10万バーツ(334,000円)につき、500バーツ(1,670円)です。最低限度額もあり、5,000バーツ(16,700円)が最低額となっています。

なお、最大の場合は835,000円です。

(4)法人税

タイの法人税は、原則としては20%です。

納入タイミングとしては、期末決算と中間決算の報告の年二回、利益に応じて納めることとなります。

なお、日本の税制のように、資本金が少ない・売上が一定以下の企業への優遇もあります。

具体的には、払込済資本金500万バーツ(1,670万円)以下、かつ収益が年度で3,000万バーツ(1億20万円)以下の中小企業の場合、

所得額 税率
1~30万バーツまで 0%
30万超~300万バーツまで 15%
300万バーツ超 20%

と、所得額の段階ごとに、ステップ的に累進課税が適用されます。

(5)ビザ申請上の必要費用と手数料

まず、ビザ申請を行う上では、日本人1人を雇用する度に資本金が200万バーツ(668万円)が必要です。例えば2名の日本人を雇用予定の場合は、日本円にして1,336万円の資本金が必要となってきます。

日本人を雇用する手数料以前の問題として、資本金の準備というポイントについて考える必要があります。

これはタイ国籍以外の、あらゆる外国人の雇用に全て適用されます。

また、資本金の証明に関しては、タイ人名義の口座に、資本があることが必要です。(具体的な証明方法に関しては、会社設立代行会社・会社事務所などのアドバイスに基づく必要あり)

加えて、就労ビザの延長に関しても、会社の資産額や年商が問われます。

延長の際に提出する年度会計報告の中で、

  • 会社資産額が100万バーツ(334万円)以上である
  • 年商は年間60万(約2百万円)バーツ以上で、雇用されているまたは代表者外国人の給料相当額を超えない

 

ことが必要とされます。

(6)会社運営費用

会社運営費用については、製造業と非製造業、職種等で給与に幅があります。

一般的には、能力のある若者を雇用するだけでも、25,000~30,000バーツ(83,500円~100,200円)の月給、3ヶ月分のボーナス、社会保険等各種雑費で給与の20%近くを加えて、人件費を考慮する必要があります。

日本の相場と比べると、確かに安いかもしれませんが、今後タイの経済成長に沿い、上昇傾向をたどる可能性はあるでしょう。

また、タイの首都、バンコクのオフィス賃料は東京23区と比較しおよそ6割程度で、1平方メートル当たり600~900バーツ(2,004円~3,006円)程度が目安です。

なおタイの場合、日本と比べ賃借人より賃貸人の権利が強いので、賃借に関するトラブルも意外とあるとも言われています。

できるだけ会社設立代行会社や会計事務所、コンサルタントなどに信頼できる仲介業者を紹介してもらうのが無難と言えます。

タイで会社設立する際の手続きと必要書類

タイで会社設立を行う際の手続・必要書類を、ジェトロの記事を元に、かみ砕いて説明します。

一般的な会社設立の流れは概ね、下記の4つのステップを通して行います。

会社設立登記に要する日数は、書類のやりとりがスムーズに行けば、1カ月~1カ月半で設立されます。

商号の予約

他のアジアの国と同様、まず「商号(社名)」の予約を行う必要があります。

新しい会社の発起人が、商号予約を行うことが必要です。

当然、タイ国内の企業と、同一・類似商号は認められません。

会社名(商号)を管轄当局に予約申請し、「類似商号がない」、「省令で禁止する商号でない」という状態であれば、新会社に使用する許可は基本的におりると見て良いでしょう。

確認に要する期間は2~3日程度です。

また、他の一部アジア諸国と同じで、登録商号の有効期間は30日で、この期間内に基本定款の登記を行わないと、再度手続を行うことになります。

2回の会社設立登記

タイでの会社設立登記は、前述の通り「基本定款の登記」と「会社の登記(最終登記)」の2ステップです。

流れを表にしてみましょう。

 

流れ 内容
基本定款の作成・署名 3人以上が集まり,各自の名前を定款(基本定款)に署名することで株式会社を設立・組織。

要件としては、

1 会社名

2 登記資本金、発行株式数、1株当たりの額面価額(多いのは100バーツか1,000バーツ。日本円で334円~3,340円)

3 設立目的 外国人が事業を行う場合は、制限される業種も)

4 発起人の氏名、住所、職業、国籍、署名および各人が出資する株式数(発起人は最低3人の個人であり、法人はNG、1人最低1株以上を引き受ける)

5 登記した会社事務所が所在する県名

6 取締役の負う責任の範囲

基本定款の登記 基本定款が完成すると、登記を行う。

基本定款の登記料は500バーツ(1,670円)、期間によっては安くなる例外もあるため、これは会社設立代行会社や会計事務所などに確認すること

まずここまでが、法人設立のファーストステップになります。

設立総会の開催と最終登記

基本定款の登記が完了すると、次は設立総会を開催し、最終登記を行います。

流れ 内容
設立総会の開催 発起人は、設立総会を開催し、下記の事項を検討・承認を得る必要がある。

1 付属定款の採択(株主総会・取締役会等の会社の規定)

2 発起人の設立準備行為に関する承認

3 当初の取締役の選任と権限の取り決め、および監査人選任

4 株式引受人の氏名、地位、住所、引受株式数等のリストの承認

5 株式対価の支払い方式に関して

注意点としては、監査人は、タイ人の公認会計士が監査を行う必要があり、監査を担当する公認会計士の氏名と免許番号を報告できるようにしておく必要がある

設立総会終了後、株式費用の支払いを受ける 設立総会が開催されると、発起人から取締役に事業がバトンタッチする。

設立総会終了後に、発起人や株式の引受人に、株式の費用支払いを要求することになるが、日本のように最初から100%ではなく、最低25%からとなっている。

全発起人・株式引受人から株式の費用支払いを受けると、取締役が会社の登記申請を行う。

最終登記の書類作成 株式の費用が払い込まれた後、下記の登記事項に関する書類を作成。

1 株主氏名、住所、職業、国籍、持株数(株主は、常時最低3人必要)

2 取締役および代表取締役の氏名、住所、職業

3 代表取締役の代表権(サイン権)の形態(単独署名か共同署名か)および署名

4 本社および会社の各支所の住所

5 付属定款(株主総会、取締役会等に関する会社規則)

株式により受領した初回資本金払込総額(登記資本の25%以上)

外国人の労働許可の条件となる資本金額(1人につき最低200万バーツ)は実際に振り込まれた額が基準となるため、人数に応じた資本金を振り込んでおく必要がある。

なお、登録資本が500万バーツを超える場合(働く日本人が3人以上の場合)は、下記の追加書類が必要となる。

6 サイン権を有する取締役が資本金払込額、設立のための申請書を受領したことの商業銀行による証明書(登記日に提出)

7 実際に振り込まれた資本金額に基づき、資本金が株主から当該サイン権を有する取締役により集められ、会社に振り込まれたことの証拠として、商業銀行による証明書(会社登記の日から15日以内に提出)

8 現物出資の場合(不動産または正式な所有権の登録のある資産)には、会社は、自身がその資産の所有者になったことを証明する証拠登記日を基準に、90日以内に提出。

9 他の資産による現物出資の場合には、会社は出資のために供される資産の価格を示した資産リスト(同じく90日以内に提出)

最終登記手続 会社の取締役が3ヶ月以内に、会社の登記申請を行う。

登記局に支払う登記料は5,000バーツ。

2020年12月31日までであれば、インターネット上の登記の登記料は3,500バーツ、特定経済開発区内に本社を有する会社の登記であれば2,500バーツであるが、インターネット登記手続きはタイ語のみで、英語・日本語に未対応であることに注意する必要がある。

また、設立総会の開催日を基準に、3ヶ月以内に登記がされない場合は、会社設立ができなくなるので、設立総会の開催後、できるだけ早く準備を行う必要がある

 

以上のように、登記手続は複雑な点が多いです。

そのため、タイでの会社設立代行会社、会計事務所等、実務経験の豊かな会社に設立手続の代行をお願いすることが必須となってくるといえます。

税務番号の申請

ここまではかなり手間のかかる手続でしたが、まだこの後も手続が残っています。

税金の納付にかかる、タックスID番号の取得と税務登録です。

以前は、タイの法人税率は30%でしたが、段階的に引き下げが行われ、2016年からは、法人税率が恒久的に20%となりました。

外国企業の場合、法人設立または事業開始日(タイに法人を設立しない場合)を基準として60日以内に、歳入局に対してタックスID番号の税務登録申請を行う必要があります。

こちらも流れをまとめてみましょう。

流れ 内容
タックスID番号取得のための、必要書類を用意 必要書類は、基本的に下記の通り。

  • 賃貸契約書のコピー
  • 登記場所の地図および物件の写真
  • 家主のその場所の住民票のコピー
  • 家主の住んでいる住民票のコピー
  • 家主のIDカードのコピー(法人の場合は書類が異なる)
付加価値税(VAT)の登録準備 タイにおける会社設立に伴い、商品販売やサービス提供などのビジネスを予定している場合は、同時にVATの登録申請書類を準備。

必要書類はタックスID番号申請時とほぼ同じ

タックスID番号取得・付加価値税の登録手続 歳入局に対して行う。

こちらも、極力会社設立代行会社や会計事務所など、タイでビジネスを行う際の手続のプロフェッショナルに任せることが望ましい

まとめ

基本的な手続は以上となります。

タイも他のアジア諸国と同様、独特の制度があるため、タイでの会社設立に精通した会社設立代行会社、会計事務所、コンサルタントなどプロフェッショナルに依頼することが重要になります。

特に、各種書類の作成や取得は、現地にいる人材に動いてもらい、行う必要があります。

会社設立代行サービスを考える場合は、他の地域と同じく、「いかにタイの事情に精通しているか」が重要になります。

タイも、不文律や日本の制度とは異なる制度が少なくない中、現地の事情もわからずに会社を設立しようとしても、タイで会社設立することの価値を享受できない可能性があります。

また、国民性に関して、日本に比べおっとりとしている傾向があるとも言われています。

日本の感覚で考えると、もしかすると違和感を感じる人もいるかもしれません。

上記のように、想像と現実のギャップを防いだり、新型コロナウイルスが世界で蔓延している状況で、「タイのリアルな状況はどうなのか」、「人の動きはどうなっているのか」などという現状はなかなかわかりません。

テレビやネットで断片的な情報は手に入っても、やはり現状をリアルに感じ取れるのは、「タイ」という国に身を置いている人です。

現地にスタッフが身を置き、そして現地の実情・空気感も含めたリアルな状況を教えてくれる存在として、タイでの事情に精通した会社設立代行会社・会計事務所の力を借り、ヒアリング・調査を行った上で、タイでのビジネスがふさわしいかを検討する必要があります。

そして進出する場合は、プロフェッショナルの意見を大いに参考にし、またプロの人脈も活用しながら、タイでのビジネスを進めていくことが必要と言えましょう。