作成日:2021.03.19  /  最終更新日:2021.03.05

会社設立の際に、「社員・家族」を会社役員にするメリット・注意点は?

会社設立を考える際に、自分一人だけで経営を行うのではなく、経営パートナーや家族を役員として選任しようと考える方もおられると思います。

経営パートナー・中核となる社員を役員に選任すること、家族を役員に選任することはそれぞれ、経済的・社内的なメリットが存在します。この「役員」という存在の位置づけを考える上で、「どういう立場が本当の意味での役員なのか」という点をまず明確にする必要があります。

加えて、自身のみが役員であるときと異なり、自分以外の役員が存在する場合は、様々な点に配慮する必要があります。また、株式会社・合同会社各々で注意すべき部分も存在します。

法人の形態による違いも踏まえ、経営パートナー・中核となる社員及びに、妻・子どもなどの家族を取締役・監査役などの役員として選任することのメリット・注意点についてまとめます。

会社役員の正しい定義

世間で役員と一般的に見られるポジションとして、代表取締役・専務取締役・常務取締役・執行役員などが存在します。

本当の意味での役員は、代表取締役・専務取締役・常務取締役であり、執行役員ではありません。(ただし、取締役と執行役員を兼務しているケースは多くあります)取締役は会社法上での役員に該当しますが、執行役員は、会社法においては従業員に位置づけられます。

そのため、当記事では会社法上の役員にあたる「取締役・監査役」に関して述べていきます。

経営パートナー・中核となる社員を役員にするメリット

経営パートナー・中核社員を役員にする最大のメリットは、「立場・責任の自覚」と言えます。また、役員報酬は法人税法の損金として認められますので、節税という点でもメリットがありますし、従業員と異なり、労働基準法の適用を受けることがありません。(ただし、実態が意志決定に当たる役員ではなく、実務を行う従業員と見なされる場合は、労働基準法が適用されたり、残業代を請求されるケースはあります)

経営の中核人材としての自覚

会社を設立する上で、経営パートナーとなる人材や、会社の営業・製品開発・経理・総務などを担う人材に対し、「経営において、中核となる立場となり、その責任感・自覚を持ってほしい」人を役員に据えるということは重要です。

良く言われることではありますが、「立場が人を作る」という言葉があります。

自身の身や、企業の勤務経験が長い人は、先輩や同僚に重ね合わせてみると想像が付くかもしれません。一社員である時のふるまいと、グループリーダー・課長・部長・役員であるときの振る舞いは、相当異なります。

自身の自覚もですが、役員なり、執行役員、部長なりの肩書きが付くと、周囲もその人に対し「相応の地位を持った人」として対応します。

また、上に立つことで「人を育てる」ということも重要な任務となります。自身が仕事に対するあるべき姿を率先垂範して示すとともに、部下に対しても的確に教育する必要がありますので、必然的に本人も育っていくことになります。

時間ではなく成果に対し報酬が支払われることの自覚

執行役員という、「取締役営業部長」のような、社員兼取締役という立場の場合、実質としては従業員のトップとして、通常通り労働基準法に基づき出勤し、業務を遂行する必要があり、「役員の決定事項を現場に落とし込む」という役割が求められます。

一方、取締役等会社法上の役員は、毎日出勤する義務こそないですが、経営に関し責任を負う者として、ストレートに「数字で成果を出す責任」が問われます。

いくら努力しようが、結果が伴わなければ、役員の座を去ることとなる、「結果が全て」の世界です。

一方、前述の通り、役員だからいくらでも残業をさせて良いというわけではなく、実態が従業員と見なされれば、残業代など実態に即した手当を支給することがありますので、長時間労働はさせないよう注意する必要があります。

取締役にすべき人・従業員にすべき人

取締役として役員に据える人材には、「トップの決断が必要な意志決定を除き、自身で考え、結果を出せる人」を据えることが重要です。

一方、実務を行って欲しい人、役員として抜擢するには、まだ成長が必要な人の場合は、従業員として据え、その後の実績や会社に対する意欲に応じ、適宜役員抜擢の機会を与える形にすることが安全と言えます。

合同会社の役員に関する注意点

株式会社の場合、代表取締役が過半数~3分の2以上の株式を有することで、経営権を守ることができます。

一方合同会社の場合、出資金額にかかわらず、社員(ここでいう社員は、出資者にあたります)や業務執行社員(出資を行い、実務も行う人)は、それぞれが一人一票の議決権を持ちます。

そのため、合同会社の場合、いくら代表社員が多額の出資をしていても、業務執行社員や出資者である社員が「代表社員は社の代表にふさわしくない」と判断すれば、代表社員が会社を追われることになる可能性もありえます。

万一会社を追われることになった場合でも、出資分は残ります。ただし、出資分の買取請求権や、会社解散後の残余財産の受け取りなど、株式会社における「株主」の権利は残る一方、配当に関しては、合同会社の場合、出資割合に関わらず自由な配当をできてしまうため、通常の株式会社のケースに比べ、配当が限られる可能性があります。

そのため、合同会社の場合は、自身のみや自身の家族などクローズドな人間での運営や、本当に信頼の置ける人との運営以外の場合は「代表権に関するリスクを抱える可能性がある」
ということを念頭に置くべきです。

役員報酬を活用した節税

中核人材を役員に据える上では、税理士等専門家のアドバイスを踏まえて、適正に年間の役員報酬設定を行う必要があります。

また、損金として認められる役員報酬、例えば、事前確定届出給与・利益連動給与(同族法人は利用できない)・ストックオプション・退職金等の設定を、税理士と綿密に協議した上で設定する必要があります。

また、役員に対する賞与は、支給はできるが損金と見なされない、課税対象になることも留意する必要があります。

家族を役員にするメリットは?

配偶者・子どもなどを役員にするメリットは、比較的明確です。

メリットを端的に言うと、節税がしやすい、裏切られることが少ないという2つの点に集約できます。

裏切られることが少ない

時折会社における親子・夫婦・親族間によるお家騒動が新聞を賑わすことがありますが、基本的には、血族・姻族による経営トラブルというのはまれと言えます。(夫婦げんかというのはあるかもしれませんが・・)

信頼が置けるか不確定な人材を役員としておくより、当面の間は、家族を役員として置き、意志決定・業務などの仕事を手伝ってもらう(実際、役員である以上は、業務参画の実態が必要です)ということも、一つの考えでしょう。

あわせて、子どもが成人で働ける年齢の場合、子どもを会社の後継者として育成することにより、会社の承継や体制の安定化を図ることも可能です。

家族を役員にすることで、節税できる

家族を役員にすることは、節税に繋がります。前提として、先ほど書いた「役員として意思決定・業務を実際に行ってもらい、また役員報酬の支給先を分散することで節税にも繋がります。

ご存じの通り、日本は所得が高くなるほど、連動して税金・社会保険料も高くなる、累進課税制度を採用しています。

そのため、役員一人で1,500万円の報酬を受け取るより、配偶者に手伝ってもらい、代表取締役900万円、配偶者を役員にして600万ずつの報酬を受け取る方が、税金・社会保険料や各種控除の負担が減ることとなり、結果として家庭に残る財産が増えることになります。

また、通常財産を相続するときは、相続税がかかりますが、子どもを役員に就任させ、実務を担わせる代わりに、役員報酬として報酬を支給すると、贈与税・相続税をかからなくすることができます。

家族を社会保険に加入させることで、老後の保障・現役時の万一の保障が手厚くなる

社会保険料というのは、会社の代表者として社員に支払う分には大きな負担になります。しかし、家族が社会保険に加入する場合は、家族が老後受け取るお金を増やすことができます。

また、国民年金だけの場合は、年間の最大限の支給額でも一人78万円程度となり、実際の支給では最大約65,000円か「それ以下」で生活することになります。

一方、厚生年金に加入している場合は、加入期間や掛け金にもよりますが、厚生労働省の示す、国民年金分も含めた標準的な年金は、夫婦2人で月額約22万円と、大きな違いがあります。

さらに、給与が高く保険料を多く納めた分は、年金の支給額も連動して上がるため、老後の暮らしに余裕を持つことができたり、万一現役の時に亡くなったり、後遺障害が残った場合でも、遺族厚生年金・障害厚生年金・障害一時金などの給付を受けることができます。

このように、家族を役員にすることは、節税だけでなく老後や万一への備えもプラスすることができるのです。

h2:まとめ

以上、社員を会社役員にするメリット、家族を会社役員にするメリットに関して、人材活用・お金の側面・事業の継続性など、様々な面から触れてきました。

現実的な部分としては、節税の方にどうしても目が行きますが、その他にも役員というポジションの活用は、会社・当事者にとって様々なメリットを生じさせます。

ぜひ、税理士など専門家との綿密な相談を踏まえて、最大限有利になる制度活用を行っていきましょう。

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