作成日:2020.12.05  /  最終更新日:2020.12.28

一人社長が知るべき社会保険のルール【計算方法や手順はどうする?】

一人社長が会社設立をした際、「社員は雇っていない」というケースでも、社長が会社から報酬を受け取る限りは、社会保険へは必ず加入しなければなりません。

(ただし、例外のケースもあります。)

原則としては、会社設立日から5日以内に、事業所を管轄する年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出する必要があります。

一人社長だと、社会保険は特に関係ないと感じる人も少なくないようです。

しかし法人である以上は、一人社長であっても加入する義務が存在する社会保険が2つあります。

当記事では、社会保険の基本的なことから、健康保険・厚生年金の加入条件・計算方法・必要書類・手続き方法をわかりやすく解説していきます。

一人社長の社会保険の基本知識

社会保険に加入するというと、「え、それ社員を雇っている会社の話でしょ?」という一人社長の方も多いかと思います。

また、「うちは人使っているけど、業務委託契約だから、実質誰も雇っていないよ」というケースもあるでしょう。

しかし、法人である以上は、誰も雇用していなくても、前述の通り社会保険に加入しないといけません。

では、一人社長の法人が必ず加入すべき社会保険は、どのようなものになるのでしょうか。

答えは、「健康保険」と「厚生年金」です。上記2つに関しては、一人社長の法人であっても、加入する必要があります。(その他、業種・年齢などにより加入が要される社会保険もあり、こちらは後述します)

社会保険の種類

社会保険としては、上記の健康保険・厚生年金以外にも、労災保険・雇用保険・介護保険などがあります。

ただ、一人社長の立場で直接関わってくるのは、健康保険と厚生年金の2種類です。

また、労災保険(一部業種強制適用、その他任意)、年齢など一部条件によっては介護保険の加入義務が生じます。

今回は、健康保険・厚生年金をそれぞれ詳しく確認するとともに、労災保険に関しても概要を見てみましょう。(介護保険に関しては、今回は省略します)

(1)健康保険

皆さんも健康保険は、「病院に行ったときに保険証を提示する事で、医療費が原則3割負担になるものだよな」という認識はお持ちかと思います。

この健康保険には複数の種類が存在します。協会けんぽ(全国健康保険協会)の健康保険(中小企業・一人社長向け)、組合けんぽの健康保険(大企業向け)、学校などの共済組合の健康保険などです。

ただ、一人社長が健康保険に加入する場合は、協会けんぽの一択と考えて良いでしょう。

(2)厚生年金

年金に関しては、一人社長の場合であっても、厚生年金への加入が義務づけられています。

年金は、国民年金と厚生年金に大別され、厚生年金は国民年金に上乗せされて支給される形となります。

国民年金は、令和2年度の日本年金機構の発表によると、毎月の満額は65,141円年間に換算すると、781,692円となります。
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/20200401.html

国民年金は、基本的に自営業・個人事業主など、定年なく働く人を想定しています。そのため、国民年金単体の支給額自体はけして手厚いと言えません。

一方、リンク先のページのモデルケースでは、厚生年金に加入していると、夫婦2人分の老齢年金(国民年金)を含めて、支給額は月額220,724円とされています。(年間にすると、2,648,688円)

額だけを見ると、厚生年金は非常に手厚いように見えます。

ただ前提として、「平均的な収入(平均標準報酬・ボーナス含む月額換算で43.9万円で40年間」就業と、現代ではなかなか難しい条件です。

そのため、表示された額面通りの金額になることは難しいと考えた方が良いでしょう。

(ただし、国民年金だけよりは確実に手厚い支給額となります)

(3)労災保険

労災保険に関しては、一部業種を除き、従業員を雇用しない限りは適用事業ではないため、一人社長の場合、加入義務は生じません。

しかし、建設業など労働災害発生の可能性がある現場で働く一人社長の場合は、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託することにより、「特別加入」という形で労災保険に加入することができます。

なお、業務中のケガ・業務による病気は健康保険の対象外であり、労災保険でカバーする必要があるため、業務上必須でない場合でも、労災保険に加入できる場合は、入っておくことが望ましいと言えます。

加入条件

社会保険には、原則全事業所が加入するという前提がある一方、例外のケースも2つ存在します。

加入条件について、見ていきましょう。

加入は必須

基本的には全ての法人が加入必須です。株式会社・合同会社等持分会社・一般社団法人など会社の種別を問わず、加入義務があります。

ただ実務上は、年金機構の側からすぐに加入を促すとは限りません。

事業を行っていて、数ヶ月、1年と経ってもなかなか加入をしない段階になって初めて、日本年金機構の側から加入の催促が行われるケースが出てきます。

当初は郵便でのアンケート・お願いや電話で、自主的に加入することを促す形が一般的ですが、要請を無視すると、年金事務所からの呼出状等が届く恐れがあります。

この段階になる前に、きちんと事業所を管轄する年金事務所へ相談して、社会保険の加入に関して相談し、加入手続きをすることをお勧めします。

この時点で加入手続きを行えば、当月からの社会保険料徴収となり、過去にさかのぼることはありません。

それでも通知に応じない場合は、事業所への立入検査が行われる恐れがあります。

こうなると最大2年分、さかのぼって未納の保険料を一気に納めることになる可能性があります。

いずれにしても、加入手続きは、できるだけ早めに行い、自身で難しい場合は社会保険労務士のような専門家に依頼した方が良いでしょう。

2つの例外条件

役員報酬が0であったり、売上が極端に少なく、報酬が低すぎて社会保険料を支払えないなど、社会保険料をそもそも支払えない状況だと、社会保険への加入ができないこともあります。

さすがに日本年金機構も、事業者に収益がない状態で、社会保険料の支払い義務を課すのは、事業者に不要な負担を与える事になってしまうのでどうか、という考えがあるのかもしれません。

一人社長の社会保険料の計算方法

社会保険料はどのように計算されるのでしょうか。

ざっくり言うと、社会保険料関係(健康保険・厚生年金)は、毎月の標準報酬月額の30%近い大きな負担となります。

サラリーマンの時は、健康保険・厚生年金共に半分のおよそ15%負担で済むのですが、経営者になると自分で労働者・使用者双方の保険料を全額支払わないといけません。

具体的な計算式を、これから見ていきます。

健康保険の計算方法

協会けんぽ保険料(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)
(標準報酬月額)×9.87%を労働者・使用者で折半

協会けんぽ保険料(介護保険第2号被保険者に該当する場合)
(標準報酬月額)×11.66%を労働者・使用者で折半

健康保険は、第1級の5万8千円から第50級の139万円までの全50等級に区分されます。都道府県に応じ、等級の計算方法は異なりますので、協会けんぽの保険料率を参照してください。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/

例えば、東京で20万円の報酬を毎月受け取っている場合、14等級、労使で毎月19,740円(介護保険被保険者に該当しない場合)を折半して支払うことになります。

これが一人社長の場合、経営者・使用者双方の保険料として、全額をそのまま支払う必要があります。

なお、一番高い標準報酬月額(50等級)の場合、月額1,355,000円以上が対象となり、介護保険被保険者に該当しない場合は、毎月労使双方で137,193円を支払う必要があります。

厚生年金の計算方法

厚生年金保険料
(標準報酬月額)×18.3%を労働者・使用者で折半

厚生年金の計算に関しては、31等級まで存在します。上記と同じく、東京で20万円の報酬を毎月受け取っている場合は17等級となり、労使で36,600円を折半、一人社長の場合は全額をそのまま支払うことになります。

つまり、一人社長で1ヶ月の報酬が20万とすると、社会保険料として合計56,340円を支払う必要があります。大まかに4分の1を社会保険料に拠出する計算となるので、負担感は大きいと言えます。

ちなみに、厚生年金で一番高い31等級の場合は、労使折半で113,460円を毎月納付する必要があります。

一人社長の社会保険加入で必要な書類

一人社長が社会保険に加入する際は、状況に応じて提出する書類が異なります。

必要書類

  • (1)健康保険・厚生年金保険新規適用届:会社設立より5日以内に、事業所を管轄する年金事務所に提出する必要
  • (2)登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の原本(コピー不可、かつ発行より60日以内のもの)
  • (3)出勤簿またはタイムカードのコピー
  • (4)代表者の年金手帳
  • (5)役員報酬を決定した際の臨時株主総会議事録のコピー
  • (6)事業所が本店所在地と異なる場合は、事業所の賃貸借契約書のコピー
  • (7)保険料口座振替納付申出書
  • (8)健康保険・厚生年金被保険者資格取得届:代表者を含めた役員・社員を社会保険に加入させるために必要な書類
  • (9)健康保険被扶養者異動届:被扶養者が存在する場合(10)国民年金第3号被保険者資格取得届:役員などの配偶者が国民年金の第三号被保険者となる場合

一人社長が社会保険に加入する方法

一人社長が社会保険に加入するためには、事業所を管轄する年金事務所に社長自身が行くか、多忙で難しい場合は労務の専門家である社会保険労務士に委任し、手続きを行ってもらう必要があります。

また、単純に新規で会社を設立するケースでなく、脱サラ、法人成りなどのケースでは若干事情が異なってきます。

脱サラして会社を設立するケース

脱サラして会社を設立するケースでは、役員報酬の支給開始前と支給開始後でパターンが異なります。

健康保険

支給開始前については、国民健康保険に加入するか、会社を退職してから最大2年間、「任意継続」として、サラリーマンの時の健康保険を引き継ぐか、どちらか選ぶようになっています。

方法(1)国民健康保険に加入

居住地の市区町村で、国民健康保険に加入します。

サラリーマン時の健康保険より、保障が薄い上に、前年度の所得が高かった場合は国民健康保険料も連動して高くなります。

サラリーマンの時によほど給与が低かった場合でもない限り、次に挙げる任意継続の方が良いでしょう。

方法(2)会社員時代の健康保険を任意継続

退職日の翌日から20日以内に、勤務先の組合等で手続きを行う必要があります。

注意点としては、勤務時は会社が半額保険料を負担していたのが「全額になる」、つまり健康保険料が倍になると言うことです。

また、一度でも支払を遅れると、健康保険の任意継続は自然に消滅します。

上記の注意点はありますが、それでも一般的には、国民健康保険より負担が少ないパターンが多いです。

方法(3)会社設立後、健康保険に加入

会社設立が完了すれば、健康保険に加入できます。通常は、中小企業向けの「協会けんぽ」を選ぶケースが多いです。

厚生年金

厚生年金は、退職後会社設立完了までは国民年金、会社設立後は会社で社会保険に加入する形となります。

方法(1)

退職後は、国民年金の第一号被保険者となる必要があります。保険料は令和2年の場合、収入を問わず16,540円です。

方法(2)

会社設立完了後、厚生年金に再加入します。

給与に応じ厚生年金の負担額も変わるため、当初の役員報酬は抑えめにした方が良いと言えます。

給与設定や社会保険の負担のバランスに関しては、税理士・社会保険労務士と相談することをお勧めします。

個人事業主から法人成りするケース

個人事業から法人成りする場合は、脱サラ時と異なります。

会社設立前までは国民健康保険・国民年金、設立後は会社での社会保険・厚生年金加入となります。

健康保険

国民健康保険が会社の社会保険に変わります。

方法(1)

法人設立までは、これまで通り国民健康保険の保険料を払い続けます。

方法(2)

会社設立後は、会社が健康保険(他のパターン同様協会けんぽ)に加入し、保険料を支払うというケースとなります。

厚生年金

厚生年金に関しては、法人設立完了までは国民年金のままですが、設立後は厚生年金に加入することとなります。

方法(1)

国民年金から厚生年金への切り替え
会社設立後、厚生年金に加入することにより、国民年金から厚生年金に切り替わります。

他のケースと同様、社会保険料の負担が大きくならないよう、当初の役員報酬は抑えめにすることが望ましいと言えます。

まとめ

国民健康保険と会社の健康保険(協会けんぽ)、国民年金と厚生年金の違いを考えると、後々のことも含め、協会けんぽ・厚生年金などサポートが手厚い社会保険に加入することが良いと言えます。

社会保険への加入は、会社全体としての負担金額は確かに大きくなります。

しかし、加入者本人や従業員自身だけでなく、老後の給付額、配偶者・子供への万一の保障を考えると、国民年金・国民健康保険のみのケースよりも、各種社会保険制度の方が充実していると言えます。

例えば厚生年金の場合、以下のメリットもあります。

  • 扶養配偶者については、保険料を納付する必要がない
  • 障害・死亡時の給付が手厚い
  • 国民年金にはない、障害等級3級が存在する

社会保険というと、保険費用の支払いに目が行きがちですが、給付や万一の際の保障にも目を向け、検討すると良いでしょう。

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