会社設立に関して、一般的には個人が発起人になるケースが多いイメージがあります。
ですが、実は、株式会社などの法人も発起人になることができます。
法人が発起人となる場合は、書類や目的の書き方も若干異なります。
現在の会社と新しい会社の事業目的のつながりを作っておくことなど、手続きをスムースに進めるための注意点も存在します。
当記事では、会社設立の際に法人が発起人となる場合の必要書類や手続きに関して、わかりやすく説明します。
目次
法人が発起人になるケース
まず、「発起人」とはどのような役割なのかについて説明します。
発起人は、株式会社などを設立する際の出資者兼主要人物(組織)になります。端的にいうと、会社経営のための「お金を出す人」です。
「発起人」という名称の響きから、個人しか発起人になれないと思いがちです。
しかし、株式会社などの法人も発起人になることが可能です。発起人の立場は、あくまで「会社のためにお金を出す人や会社組織」という立ち位置になります。
法人が発起人になる場合は、条件や書類など注意する点がありますので、解説します。
法人が発起人になる場合の必要書類
法人が発起人になる場合は、下記の書類が必要となります。
- 法人の印鑑証明書(発行日から3ヶ月以内)
- 法人の履歴事項全部証明書(いわゆる登記簿謄本、発行日から3ヶ月以内)
- 法人の発起人・設立に関する代行業者など、代わりに行ってもらう相手がいる場合は相手に対する委任状
- その他必要書類があれば都度提出
また、会社設立の書類等に法人の実印を押印する必要もあります。
履歴事項全部証明書(登記簿謄本)とは?
履歴事項全部証明書(登記簿謄本)に関しても、概要を説明します。
履歴事項全部証明書とは、会社の設立時から現在までの、社名・役員・資本金・事業目的・各種変更事項などが記載されている、いわば「会社の経歴書・履歴書」といえます。
以前は、「登記簿謄本」という名称が一般的でしたが、現在は「全部事項証明書」という名称が一般的です。
ただ、現在も「登記簿謄本」という言葉を使う人も多く、「登記簿謄本」=「履歴事項全部証明書」として捉えておきましょう。
余談ですが、会社の登記簿謄本(履歴全部事項証明書)というと、重要な書類で、土地の権利書のように捉えられがちです。
しかし、実際のところは、全部事項証明証明書というのは「法務局に登記された、会社に関する重要事項をまとめたものの写し」という意味合いを持ちます。
この履歴事項全部証明書は、会社でなく、個人や関係のない第三者、つまり誰でも取得することができます。
法務局の窓口などで、会社の名称・所在地などの情報がわかれば、1社につき600円で請求することが可能です。
法人が発起人となる場合の注意点
法人が発起人となる際に、注意点があります。
どんな法人でも制限なく、会社の発起人になれるわけではなく、発起人になる会社の「目的」の内容に関し、条件があるということです。
この点は心得ておく必要があります。
ただ、最初に書いておくと、この制限は、後から登記されている会社の「目的」を変更することで、事後対応ができますので、その点はご安心ください。
では、どういう場合に発起人になれるのでしょうか。
原則として、法人は設立時に定めた(もしくはその後の変更登記で)定款で、「目的(事業内容)の範囲」でしか、業務を行うことはできません。
現在の会社で行っている事業と、今後の会社で行う事業に、目的の同一性が見られるかがポイントとなります。
例えば、新会社がIT導入のコンサルティングに関する事業を行う場合、新会社の発起人になる会社も、会社の目的部に「コンピュータ機器の導入・コンサルティングに関する事業」のように、「今の会社で行っている事業と、新会社で行っている事業は、関連性があるんだな」ということがわかるような、目的の共通項を作っておく必要があります。
登記を管轄する法務局の登記官に、発起人の会社と、新しい会社が行う事業は、関連性があるのだな、と理解してもらえれば、「目的の同一性」が認められます。
考え方を変えると、例えば現在行っている事業の目的として定めた内容が「農作物の生産・農産物の販売」という農業法人だったと仮定します。
この会社と取締役が発起人となり、農産物をWebサイトで販売するという会社を設立する場合、「農産物の販売」という点では共通性がありますので、専門家や法務局への確認は必要となりますが(最終的に、登記に関し判断するのは法務局の登記官ですので)、基本的には関連性があるとみなされる可能性が高いでしょう。
一方、この農業法人が、「農業と全く関連性のない、Webサイト作成業を立ち上げる」となった場合は、司法書士に依頼するなどして、法人の定款にWebサイト作成業に関する目的を追加してもらう必要があります。
農業法人だからと言っても、農業以外の事業を目的とすることがいけないわけではありません。
あくまで、農業が主たる事業ということは前提になっても、付随的な物であれば、農業以外の事業を入れても問題はないのです。
もちろん、一般の法人でも同じです。
「今うちの会社は建設業をやっているけど、ドローンの利用レクチャーをする会社を立ち上げ、そこに出資したい」という、会社を設立して、違う業態に取り組みたいという考えも出てくるでしょう。
その際は、会社の目的に「ドローンの使用に関する指導・教育事業」など、司法書士と相談して、新会社の事業と明確な関連があることがわかる適切な目的を追加すれば、問題ありません。
法人は、発起人にはなれるが、取締役にはなれない
注意点として、法人そのものは、会社の取締役・代表取締役に就任することはできません。
会社の取締役・代表取締役になれるのは、自然人、つまり法人ではない個人のみです。
このケースでは、法人の代表者が個人としても発起人になるか、会社の中で新会社を任せたい人物を発起人にするかなどして、自然人を取締役・代表取締役として定める必要がある点は注意しましょう。
法人が発起人になる場合の定款の記載例
法人が発起人となる場合は、定款にどのように記載する形となるのでしょうか。
記載例としては、
第○条 発起人の氏名、住所及び発起人が設立に際して引き受けた株式数は次のとおりである。
住所 東京都千代田区霞が関1-1-1
名称 株式会社法務商事
株式 300株 600万円
のように、株式会社等会社の種別も含めて書く必要があります。
また、定款の最後に、
第○○条 この定款に規定のない事項は、全て会社法その他の法令に従う。
令和2年10月10日
発起人 株式会社法務商事 代表取締役 法務太郎 (氏名の横に法人の会社実印を押印)
などとし、会社名・代表取締役名と、会社実印に当たる印鑑(個人の印鑑ではなく、会社設立時に法務局に登録した印鑑)を押印する必要があります。
その他、会社の目的に関しても、司法書士など専門家か、法務局の登記相談窓口に相談し、現在の会社の目的と、新会社の目的につながりがあるとみなされるかを確かめておくことが重要です。
まとめ
以上の通り、法人が会社の発起人になる場合の注意点は、
- 会社の定款を変更しないといけないケースが出てくる可能性があること
- 発起人に法人が就任することは可能だが、取締役・代表取締役など、会社の運営実務を行うポジションには自然人(個人)を就任させる必要がある
という点が主なものです。
このように、必要事項は後から修正できるので問題はないものの、細かい決まりはあるということを心得ておく必要があります。
ぜひ、手続きをスムースに進めるためにも、新会社設立で法人が発起人に就任する場合には、会社設立・登記に詳しい専門家のアドバイスを受けるようにしておくことが望ましいといえます。