会社設立を考えていると、周りの既に法人成り・会社設立をした友人などから、「社会保険支払うの大変だし、無理して社会保険に最初から入ると大変だよ?」とか、「会社作っているけど、いろいろ面倒だから社会保険には入っていないよ」などという話を聞くことはありませんか?
しかし、社会保険の加入を先送りにしたり、さらには社会保険の通知を無視したりすると、大きなトラブルに発展する恐れがあります。
社会保険に未加入だと、どのような問題点・リスクがあるのかをまとめました。
目次
一人社長が社会保険の通知を無視した場合のリスク
法人である以上は、一人社長であっても、会社として社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する義務があります。
ただ、規定上は加入義務があるのですが、実際のところ、創業したての一人社長の場合、会社が社会保険に入っていないというケースも少なくありません。
大きな理由として、以下の通りです。
- 社会保険の費用負担の重さ(健康保険・厚生年金あわせ給与の約30%近く)
- 法人には、従業員がいなくても社会保険の加入義務があるということが認知されていない
- 日本年金機構の年金事務所からすぐに通知が来るわけではないので、税金と違って先延ばしになってしまう(税金の場合は税務署からすぐ通知がくる)
という点が挙げられるかと思います。しかし、未加入でいることは、トラブルの原因となってしまいます。具体的にどのようなトラブルがあるのかを見てみます。
未加入リスク(1)収入保障を受けられない
社会保険に加入することは、実はいざというときの収入補償という側面があります。
まず健康保険で、協会けんぽの例を見てみましょう。
協会けんぽの場合、障害手当金という形で、支給開始日から1年6ヶ月分まで、
「支給開始日以前の継続した12ヶ月の隔月の標準報酬月額を平均した額÷30日×3分の2」
を、傷病手当金として支給してくれます。
条件としては、
- 仕事外の傷病に限る(業務中の傷病は、労働災害保険、いわゆる労災を利用する必要があります。通勤災害によるものや美容整形などは支給対象外となります)
- 実際に仕事に就くことができないと医師など療養担当者が判断したこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと(ただし、給与と手当金の二重取りはだめと言うことですが、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。)
上記に当てはまるケースで、役員報酬の3分の2が補償されます。(なお、役員報酬に関しては原則は12ヶ月間一定が前提です。しかし、役員の負傷・病気などやむを得ない事情がある場合は、株主総会・取締役会の決議を経て変更できます)
未加入リスク(2)障害や死亡の保障が手薄になる
社会保険未加入の場合は、重い後遺障がいを負った場合や死亡の際の補償が手薄になってしまいます。
厚生年金に加入していれば、遺族基礎年金・遺族厚生年金を受給できます。しかし未加入の場合は、子供がいる場合に遺族基礎年金を受給できるのみで、子供がいない場合は遺族基礎年金を受給できません。
遺族厚生年金の場合は、遺族厚生年金が子供の有無にかかわらず支給され、子供がいる場合はあわせて遺族基礎年金も給付されます。
未加入リスク(3)倒産した際の将来の蓄えが乏しくなる
社会保険に加入して、保険料を払い続けておくと、万一会社が倒産した際、将来に対する蓄えが可能になります。
経営者が、金融機関から借入を行う際に、個人として連帯保証をしているケースがあります。
その場合、会社が倒産すると、連帯保証人である個人に請求が行われます。多くのケースでは債務が大きく、個人では弁済できないので、個人も同時に自己破産せざるを得なくなります。
自己破産を行った場合、生活に必要なものと、現預金などを99万円まで残し、あとは破産管財人により処分・競売などで換価されるため、ほとんど手元には残りません。
(なお、最近は、経営者ガイドラインという制度で、経営者個人が会社に対する連帯保証を行わなくて良いというケースも増えています)
しかし、厚生年金で積み立てた保険給付に関しては、倒産・経営者の自己破産があっても、減額・没収されることはありません。
逆に言うと、社会保険に加入しないと言うことは、将来給付される年金が減るため、将来の蓄えが乏しくなることに繋がります。
未加入リスク(4)ハローワークに求人が出せない
ハローワークへの求人掲載は、社会保険に加入していることが前提となっています。
ハローワーク経由の募集は、無料で行えるだけでなく、ハローワーク経由で雇用した人材に対する助成金・補助金などが給付されるケースもあり、ハローワークに求人を出せると言うことは社会保険加入の大きなメリットです。
未加入リスク(5)助成金・補助金を受けられない
多くの補助金・助成金では、「社会保険の加入」を受給条件としています。特に店舗・設備などハード面へ負担のかかる事業にとっては、補助金・助成金を受給出来るかどうかは大きなポイントとなります。
未加入リスク(6)強制加入で保険料2年分を徴収される
社会保険は、法人である以上、加入する義務が定められています。会社設立後、社会保険に加入しないままでいると、年金事務所より手紙・電話などの形で調査文書、社会保険加入の推奨など来ることがあります。
ちなみに、年金事務所はどのようにして未加入の事業所を確認しているのかというと、国税庁などの情報を参考に、加入を促進する事業所を選定しています。
この時点で年金事務所に対し連絡し、話し合いを行えば問題ありません。しかしそのままにしておくと、年金事務所の方から立ち入り調査の対象とされる可能性が高まります。
年金事務所の初期の連絡で、自主的に届出を行った場合は届出を行った月から支払義務が生じることで済みます。
しかし、立ち入り調査の対象となった場合は、年金事務所が調査で確認した範囲で最大で2年間さかのぼり、一括で保険料を支払うことになり得ます。
そのため、強制加入扱いで過去の分もさかのぼり一括納付することになる前に、会社設立時(原則は設立後5日以内です)やできるだけ早い時期に社会保険に加入することが重要です。
未加入リスク(7)懲役や罰金を課せられる
社会保険未加入、虚偽報告、無視などを行った場合、健康保険法第208条により、事業主が6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金を課せられる可能性があります。
摘発されるケースというのは表面上目立ちませんが、マスコミなどに報道された場合、信頼を大きく損なうことがあります。
国・厚生労働省・日本年金機構としても、社会保険への加入を促進し、全事業所の社会保険加入を推進しています。そのため、悪質な事例に関しては一人社長のケースであっても、摘発対象になる可能性もあると言えましょう。
一人社長で社会保険の負担を減らす方法
とはいえ、一人社長で社会保険を支払うということは非常に負担が大きいのも事実です。
一人社長という前提で、社会保険料の支払いを節約する全うな手法としては、下記の方法があります。
方法(1)役員報酬を減らす
一人社長の場合、実質会社=社長という側面があります。まず、役員報酬自体を減らすことで、健康保険・厚生年金の支払いが削減されます。
方法(2)小規模企業共済を活用する
給与に回す部分を小規模企業共済に加入、掛金とすることにより、費用を全額所得控除でき、いざというときには事業資金の借入の担保となるため、節税と万一の備えを得ることが可能です。
他にも、社会保険料の適正化という触れ込みで、投資商品・不動産・その他裏技などを推奨するものもありますが、法律的・制度趣旨の面でグレーゾーンの手法もあり、お勧めは出来ません。
まとめ
社会保険の加入は、保険料支払いという負担の側面もありますが、ハローワークや助成金・補助金の活用、万一の際の補償、退職後の備えなどを考えると、ぜひ早いうちに社会保険の手続きを行うことをお勧めします。