作成日:2020.09.18  /  最終更新日:2020.12.11

会社設立に必要な発起人とは?意味と役割、株主や取締役との違いを解説

会社設立について調べていると、よく目にする言葉があります…「発起人」。本記事では、この発起人について特化したお話をしていきます。

そもそも発起人とは?

「発起」を辞書で調べてみると…「その企てを起こすこと」「思いたって事を始めること」と解説されています。そこに「人」を足し算すれば…その企てを起こす人だったり、思いたって事を始める人と予想できますね。

一般的な意味としては、このような理解で間違いはなく、そのままの意味として捉えても問題ありません。ですが、会社設立をするときに活躍をしてくれる “発起人” は、かなり意味が異なってきます。

誤解を恐れずに単純に一言で説明をすると…「会社をつくってみようかな?」と考えた人のことをいいます。例えば、飲み屋でちょっとしたお金を稼ぐアイデアを友人と熱く語り合っていたとします。

実際に深く考えてみたところ、面白そうな事業で成功するのでは?と思った人が「会社作って実際にやってみよう!いろいろな手続きとか面倒なことは任せろ!」と声を挙げました。

そして、実際に会社設立をしてくれる人が発起人です。ということで、まずは「発起人ってどんな人?」を理解していきましょう。

発起人とは会社設立の手続きを行う人のこと!

会社設立をするとき「設立を企画して定款に署名をした人」のことを発起人としています。つまり、発起の意味の「企て」が「会社設立の企画と定款の作成」とイコールの意味と捉えることができるわけですね。

それを実施する人だから発起人となります。もう少し掘り下げて説明をしていくと…会社設立をするためには会社法と呼ばれる法律に則って手続きを進めていきます。

株式会社でも、合同会社でも、その他の持分会社であっても、同様です。その手続きの中には「どんな会社にしていくのか?」「どのような人が役員になるのか?」「どのような定款にするのか?」など、いろいろなことが含まれています。

これらの作業を実施していく人が「発起人」と呼ばれるのです。ちなみに、複数人が協力し合って手続きを進めることもあるため、実は発起人は1人でないケースもあります。

(固定概念で「発起人は1人しかダメ」と思い込んでいる人も多いです)

発起人はどのような役割を持っているの?責任の範囲は?

発起人のイメージとしては、先に説明をした通りですが…。実は会社法26条にて…発起人について《会社設立にあたって出資し、定款に記名・押印した人物》と明確に定義されています。

この章は、これを踏まえつつも、もっと掘り下げた「役割」と、その「責任の範囲」について説明。この2つを理解してくると…発起人が想像以上に重要な役割を担っており、スゴく重要な人物だということが理解できます。

まず知っておきたい発起人視点での会社設立の手順

何度も伝えておりますが…会社設立をするためには、会社法に則って手続きを進めていく必要があります。そもそも会社法とは、会社設立をするときの、株式発行だったり、機関設計、帳簿計算、定款作成、解散、清算まで、非常に細かいところまで詰めてある法律です。

会社の骨格を網羅しているモノであって、これができなければ会社の設立はできません。正直なところ、難しそうですよね。それをすべて担っていくのが「発起人」となります。

会社設立は、通常発起人組合を組織することから始って、続いて定款の作成…。その定款を “公証人” と呼ばれる人から認証を受けます。その後、発起人が株式を引き取って出資を実際に行っていきます。

そして…最後に会社設立の登記をして完了という流れです。

発起人が担う4つ役割

ここからは、より具体的な発起人が担う4つの役割について説明をしていきます。

定款の作成を行う

発起人の役割は、すべて重要度の高いモノではありますが…もっとも重要と言っても過言ではないのが「定款の作成」です。設立する会社の「心臓部」になってくるため、適当に決めていくことは絶対にしてはいけません。

会社自体のルールブックですから…その重要度は “言わずもがな” です。会社法は、定款について絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項の3つに大別して作成をしなさいと記載されています。

相対的記載事項と任意的記載事項は、記載しなくても問題はないものです。しかし、こちらもしっかりと仕上げて記載することを強くおすすめします。

ちなみに、絶対的記載事項は「事業目的」「商号」など基本的なことを記載、相対的記載事項は、代表者を定めたり、取締役会のルールなどを記載。

そして…任意的記載事項は、定時株主総会や配当金の内容などを記載していきます。相対的記載事項、任意的記載事項の内容を見ても、決して端折ってはいけない内容ということが理解できます。

ちなみに、定款に記載しておかないと法的な効力が発生しないため、出来得る限りのことは記載しておいた方が無難です。

会社設立するための手続きを行う

とにかく会社設立をするためには、さまざまなハードルを乗り越えていかなければなりません。中には専門的な知識を有していないと分からないことも多いため、かなり苦労します。

発起人の役割としては、この会社設立までの手続きを順次こなしていくことも非常に大切な仕事になります。

したがって、発起人のレベルが低いと、進むものも進まないという残念な状況になってしまうことも多々あるようです。

自分自身で発起人になるのであれば問題はありませんが、もし他人に任すのであれば、しっかりと見極めてから依頼をすることを強くおすすめします。

資本金の出資

定款で決めた資本金額を決定した会社用の口座へ振り込みます。ですが、まだ「会社設立中」で、会社自体は存在していません。

したがって、発起人の個人口座へ資本金を用意します。その後、会社設立後に、会社専用の口座へ発起人が責任を持って入金するわけです。

資本金は、基本的に定款認証が完了した後に、準備するのがルールとなっています。場合によって、定款認証される前に準備することもあるため、臨機応変に対応していくことが重要になってきます。

設立する会社の事業内容の決定

登記するとき、設立する会社が、どのような目的を持って、どのような事業をしていくのか?を明記します。それを決定するのも発起人の重要な役割の1つです。

会社法で、記載することは定められていることは留意しておいてください。ちなみに、会社形態によって「認められている業種」と「認められない業種」が存在します。

こちらも注意して会社設立をするのも発起人の仕事の1つです。

発起人が果たすべき3つの責任

続いては、果たすべき3つの責任について説明をしていきます。こちらも会社法に明記されており、かなり重たい責任を担っていることが分かります。(会社法52条~56条まで)

発起人とは、それだけ重要なポジションの人だということが改めて理解できるかと思います。

不足金額の補填(会社法52条)

いわゆる「財産価額填補責任」のことです。会社設立時にお金を用意するわけですが、何かと出費が重なって足りなくなってしまうケースがあります。そのときは、発起人が責任を持って不足分を補填をしなければなりません。

具体的には、会社設立のとき、現物出資だったり、財産引受があったにも関わらず、定款で決めた価額に全然足りなかった場合です。

現物出資とは、お金の出資ではなく、あくまでも「モノ」で発起人が出資することを言います。たとえば、自動車だったり、パソコンだったり、会社に必要なモノを “モノ” で “発起人” が出資するわけですね。

財産引受とは、第三者から財産を譲り受ける、または買い受けることを言います。こちらも「モノ」で引受をすることになりますが、大きな違いは発起人の出資ではなく、第三者の出資だということです。

つまり、定款で決めた会社資産の価額(客観的に評価された金額)に、資本として集めたモノ(現物出資・財産引受)の価額がまったく足りなかった場合に補填することです。

定款で「これくらい資本を集めよう!」とルール化したのに、集められなかったわけですから、当然の責任になるわけです。

職務怠慢で発生した不利益の賠償(会社法53条)

小難しく書いてありますが…平たく言えば「発起人が仕事をサボったことによって発生した損害を賠償しないといけない」というお話です。発起人とは、いわゆる「会社設立ができるスキルを持った人」になります。

このスキルを発揮せずに適当に会社設立をして何かしらの問題が発生してしまった場合、やはり責任の所在は「発起人」ですよねと言っているわけですね。

くわえて、会社設立は一人で行うものではなく、さまざまな人の協力を得てできるものです。つまり、職務怠慢で発生してしまった不利益は、他の人たちも影響してしまうことになります。

この「他の人たち」に対しても賠償をする必要があります。ちなみに、54条では「連帯責任」ということで、このような不利益が発生した場合は、設立時監査役や取締役も一緒に賠償しなさいよという内容です。

会社設立失敗時の行為に対しての責任(会社法56条)

会社設立ができなかった場合、発起人は連帯して会社設立のために起こした行動に責任を負います。さらに、会社設立にかかった支出費用を負担します。

これが会社法56条の内容になるわけですが…正直なところピンと来ませんよね。例えば、会社設立をするために賃貸借契約だったり、パンフレット作成だったり、公式サイト立ち上げだったり、さまざまな費用が発生しますよね。

これらの費用をすべて負担しないといけないということです。なかなかシビアな責任ではありますが、先にも触れた通り「会社設立ができるスキルを持った人」が発起人のため、会社設立ができて当たり前です。

であれば、このような大きな責任を持つことは当たり前のことといえるでしょう。

さらに言うと…発起人以外で責任を負うことができる人がいるのか?と質問された場合、紆余曲折はあるものの最終的には「発起人」と結論になるのも、また事実です。

つまり、結局のところ責任を負うことのできる妥当な人が発起人しかいないというわけです。

「責任の免除」について(会社法55条)

発起人が大きな責任を負わないといけないわけですが、救済措置も会社法で定められています。それが、会社法55条で「責任の免除」です。

そもそも会社設立ができない要因は多種多様で、発起人にすべての責任を押し付けることが酷なケースがあるのも事実です。

そこで、責任の免除として、総株主の同意があれば免責することが可能となっています。

発起人はどのようにして決めるのか?どんな人がなれるのか?

この発起人…どうやって決めるのか?そもそも、どんな人がなれるのか?を、以下より簡単に説明をします。

どうやって発起人を決めるのか?

発起人の決め方は非常に簡単です。「発起人をしたい人がやればいい」というだけの話です。つまり、あみだくじでも、じゃんけんでも…どのように決めてもなんの問題もありません。

注意しておきたいことは「発起人決定書」という書類を作成して登記する必要があることです。ちなみに、ケースとして多いのは、会社設立をしたいと思った人が発起人になるというもの。

最たる例が、個人事業主が節税をするために、従業員数1人の会社を設立をする場合、必然的に発起人になります。

どういう人が発起人になれるの?資格について

発起人になれる資格は「15歳以上」という制限があるのみです。後は、どのような人でも発起人になることが可能です。

しかも「発起人」と “人” という漢字がつくぐらいなので、人でないといけないと思われますが…実は法人でも発起人になれます。

ただし、以下のような注意が必要です。

  • 《法人》設立する会社の事業目的が発起人となる法人の事業目的と類似性がないといけない(定款の認証が受けられない可能性がある)。
  • 《未成年》法定代理人(親権者)の同意があること。加えて、法定代理人の同意書・印鑑証明・戸籍謄本が必要となる。
  • 《外国人》資格証明書などが必要。ただ、状況によりけりで用意する証明証が異なる。都度、公証役場に問い合わせすることが無難。

発起人の人数は?

1人からでも問題ありませんし、複数人でも問題ありません。上限は特に設けていないため、発起人が何人いても構いませんが…常識の範囲内であることは念頭に置いておいてください。

では「発起人は何人ぐらいがいいのか?」という部分が気になってきますよね。こればかりは、状況によって異なるため、一概にも「○○人にすべきです!」とはいえないのが正直なところです。

(とはいえ…それでも敢えて言うのであれば2~3人ぐらいにしておくとよいです)したがって、1人の場合と複数人の場合とのメリット・デメリットを比較して決めることを強くおすすめします。

発起人が1人の場合のメリット・デメリット

■メリット

  • 会社設立までの流れがスムーズになりやすい(発起人同士での衝突がない)
  • 責任の所在がハッキリしている(言わずもがな…1人しかいないため)

■デメリット

  • 発起人のスキルが低いと逆に会社設立までの流れが煩雑になる
  • 1人で資本を用意しないといけない

発起人が複数人の場合のメリット・デメリット

■メリット

  • 複数人から資本を用意することができる
  • 作業分担ができ責任を分散することができる

■デメリット

  • 責任を分散することで逆に責任のなすりつけ合いが始まる
  • 保有株式など資金に関するトラブルが多くなるリスクがある
  • とにかく意見がまとまらない場合があり設立後もギクシャクすることがある

「発起人」について気になるあれこれ

ここでは、発起人についての素朴な疑問にお答えしていこうと思います。

発起人と取締役と何が違うの?

発起人はあくまでも「会社設立をするための人」で、企画者であり出資者になります。取締役は、株主から「会社運営をよろしく」と依頼さらた人のことで、株主総会によって選出されます。

発起人と株主と何が違うの?

発起人は…先に説明をした通り、会社設立をする人で企画者であり、出資者です。株主は、株式会社を設立後、その会社の株券を保有していること人を指します。

そして株主は、取締役を選出したり、経営方針に意見したりできる権限を持ちます。発起人は、会社設立が完了したらお役御免となり、特に権限は持ちません。

発起人の株式比率はどうするの?

状況によりけりです。1人で100%保有する場合もあれば、お世話になった人にお礼という意味も込めて多少保有してもらうこともあります。

ただ…発起人が複数人いた場合、ケースによっては非常にシビアな保有比率の割り振りをしていかないといけません。

特に気を付けておきたいのは…発起人が3人で2人に結託されてしまうようなケースです。例えば、発起人が3人だったとしましょう。

出資金の割合は「4:3:3」で、株式比率も「4:3:3」で割り振った場合…もし比率が”3″ の2人が結託してしまったら…。単純な足し算で…比率は「4:6」となり、会社が乗っ取られてしまうケースもあるわけです。

意外と多いトラブルなので、慎重に株式比率を決めていく必要があります。

発起人を複数人する場合の注意点は?

先に説明をした発起人の株式比率が最大の注意点ですが…他にも頭に入れておきたいことは多くあります。例えば、数の暴力が横行する可能性があるということ。

5人の発起人がいたとして…そのうちの1人がメイン出資者で、かつ会社設立を持ちかけた言い出しっぺとしましょう。

当然、このメイン出資者が強い思いを持っており、会社設立後の明確のビジョンもあるはずです。

しかし、その1人の想いが強くても、他の4人が同意せず民主的に多数決で物事を決めていくことになってしまう可能性もあるわけです。

その結果、すべて多数決で決められてしまい、メイン出資者が思い描くビジョンとは、まったくかけ離れている会社になる可能性も。

このように、思い通りにことが進まないケースもあるため、本当に信頼のおける人だったり、同じ価値観だったり、主従関係がしっかりしてたりと、決定権などを明確にできるようにしておくことが重要です。

資本金管理のルールを明確にしておく

結局、発起人を複数人にするとお金の関係でトラブルになることが非常に多いです。ですので、注意点のお話ついでに…資本金管理の方法についても触れておきたいと思います。

発起人が活動しているということは…すなわち会社自体がまだ「ない」状態です。そのため、発起人の個人口座に資本金を一時的に集めておくことは先に説明をした通りです。

では、複数人がいる場合は「誰の口座に集めておけばよいのか?」となってきます。基本的には、発起人の中の代表者の個人口座に集めておくことが多いです。

その場合、誰がどれだけの資本金を用意して振り込むのか?を明確に決めておく必要があります。また、入金は振り込みを基本としておいて証拠書類を残します。

証拠書類は、入金したことが分かるモノを用意しておけば問題ありません。例えば、ネットバンクを活用した場合は、銀行名、預金種別、口座番号、名義人、振込金額、日付が分かる画面をプリントアウトすれば良いです。

まとめ:発起人とは会社設立をする人

最後、発起人について簡単にまとめます。発起人とは「会社設立をする人」で、15歳以上であれば誰でもなることが可能です。1人から発起人を務めることができ、上限はありません。

ただ、複数人にする場合は、余計なトラブルを避けるためにも、可能な限り少人数(2~3人程度)にとどめておくとよいです。

複数人で務める場合は、信頼関係が築けている人を基本として、会社設立をする前に、株式比率だったり資本金管理だったりを明確にしておくことも重要です。

発起人は会社設立が完了をすればお役御免となり、会社運営は取締役、経営方針は株主で進めていくことになります。あくまでも、会社設立するまでが仕事です。

また、以下の4つの役割と3つの責任を持つことになります。

■発起人4つの役割

  • 定款の作成
  • 会社設立するための手続きを行う
  • 資本金の出資
  • 設立する会社の事業内容の決定

■発起人の3つの責任

  • 不足金額の補填
  • 職務怠慢で発生した不利益の賠償
  • 会社設立失敗時の行為に対しての責任

ただし、責任については、株主総会で同意が得られれば免責することも可能です。