法人と個人事業主の違いって分かりますか?漠然と「全然違う!」ことは、なんとなく理解はしていますが…実際に「じゃぁどこが違うのか?」という話になったとき…なかなか正確に答えられません。
ということで、さまざまな視点で、この両者の違いについて触れていきたいと思います。主は、経費や消費税を含めた税金関係、そもそものメリット・デメリットの比較になってきます。
目次
そもそも「法人」と「個人事業主」の違いって何?
まずは基本中の基本…法人と個人事業主が、そもそも何が違うのか?を理解していきましょう。
辞書から見る法人と個人事業主
法人を辞書で調べると、次のように解説されています。
「自然人自然人以外のもので、法律上の権利義務の主体とされるもの。一定の目的のために結合した人の集団や財産について権利能力(法人格)が認められる。公法人と私法人、社団法人と財団法人、営利法人と公益法人・中間法人・NPO法人などに分けられる。⇔自然人。」(※デジタル大辞泉(小学館)より引用)
対して…個人事業主は、以下のように解説されています。
「法人を設立せず個人で事業を営んでいる人。個人事業者。自営業者。自営業主。こじんじぎょうしゅ。」(※デジタル大辞泉(小学館)より引用)
ということで…辞書でも法人と個人事業主は対をなすモノとして扱っていることが分かります。余談ですが、個人事業主という言葉、意外と多くの人が「こじんじぎょうぬし」と読んでいます。
正しくは「こじんじぎょうしゅ」なので注意しましょう。
手続きがまったく異なる
「事業展開をして何かしらのサービスを提供する」という目的は同じですが、その体制に大きな違いがある両者…。したがって、個人事業主になるまでの手続き、法人になるまでの手続きも、当然、まったく異なるものになってきます。
個人事業主は誰でも気軽になることができる、法人は誰でもなることができるけど少し複雑といったところです。
となると、前者の個人事業主を選んだ方がよく感じますが、当然、法人にすることで多くのメリットを得ることができます。
したがって、総合的に判断をして「どちらにするのか?」を選ぶことが大切です。具体的に何が違うのか?ですが…登記をする・しないという部分が一番の大きな違いになります。
さらに、法人の場合は「うちはこういう会社ですよ!」という定款も作成して登記するため、いろいろ会社としてのルールを決めないといけません。
さらにさらに…登記することになるため、登記費用も発生してきます。ということで、より「法人って面倒じゃん!」と思うかもしれませんが…次に説明する「税金の違い」の部分で、法人化するメリットが理解することができます。
税金は根本的に考え方が違う
個人事業主にかかる税金は、単純に「個人の利益に対して課税される」ことで、法人は「会社の利益に対して課税される」ことになります。
そして、昨今の日本では、経済が元気になるようにと、会社に対して税金を優遇する傾向がスゴく強いです。
例えば…消費税が免除されたり、さまざまな出費が経費として落とせるようになったり、給与控除が大きかったりと…。だからこそ、いろいろな面倒な手続きがあったとしても、法人化を目指すわけです。
最たる例は、やはり「所得税(法人税)」の違いです。個人事業主の場合、税率が最大で40%を超えてきますが…法人の場合は20%を超える程度でおさえることができます。
同じ1億を稼ぐにしても、4,000万円の税金を支払うのか?2,000万円の税金を支払うのか?を比較したら…言うまでもなく後者の方がお得ですよね。
これくらい、税金は根本的に考え方が違うのです。
社会的な信用に差が出てくるのは当然
あくまでも、2020年8月現在の世間一般のイメージのお話ですが…やはり個人事業主と比較をして法人の方が信用度の点では勝っていると言わざるを得ません。
例えば、まったく同じサービスを提供している場合…。会社名を見たとき個人事業主の名前だけと、株式会社の冠名があったとき…直感的にどちらを選択するか?と言われると、どうしても後者の株式会社を選択する人が多いです。
単純に、まだまだ知名度も低く、なんとなく「誰でもなれるのがでしょ?個人事業主って…」と「なんか会社経営をしている凄い人」、ものすごいイメージの差があるので、致し方がないわけです。
ただ、時代とともに、この手の信用度は大きく変わることもあるため、どちらがよい?というのは、都度都度、判断していくしかありません。
ともあれ、このように信用度の部分で違いがどうしても出てきます。
経費・控除などさまざまな視点から見る両者の違いとは?
法人と個人事業主の違いを理解したところで、もう少し掘り下げて説明をしていきたいと思います。結局のところ、個人事業主にするのか?法人にするのか?の比較なので、より詳しい部分をみていきましょう。
資金調達
法人化するメリットとして、個人事業主よりも資金調達しやすくなることが挙げられます。これは事実で間違いありません。
ただし「融資を受けやすくなる」という話であれば、少し意味合いが異なります。融資元といえば、当然、銀行だったり、信用金庫だったりと金融機関になります。
そして、この融資する人たちは「どのような事業をして融資に値する内容で将来性はあるか?」を見てきます。
個人事業主だから…株式会社だから…合同会社だから…と、どのような形態なのか?はあまり意味はなしません。
とにかく内容が勝負となるわけです。例えば、長年、個人事業主として活動をして安定して利益を挙げているような人が、しっかりと練り上げた計画を提示した場合…。
逆に、今まで事業をしたことがない人が株式会社を立ち上げて、なんとなく儲かりそう!だから融資して!という計画を提示した場合…。
言わずもがな、前者の方が融資される可能性が高いです。銀行からの融資の他にも資金調達の方法は、いろいろとあります。
例えば、知人や家族、友人からお金を借りたり、補助金や助成金を活用するなどです。さらに、昨今では「クラウドファンディング」という方法で資金調達することができる時代にもなっている状況です。
これらすべて、個人事業主でも、法人でも、どちらでも可能な資金調達方法なので、正直なところ、大きな差はないわけですね。
では、何が違うのか?という点ですが…個人事業主は出資を受けることができないことが挙げられます。
つまり、資金調達の最たる例である「投資家に出資をしてもらって資金調達をする」ということができない制限が個人事業主にはあります。
理由はスゴく単純で「株式や持ち分など出資してくれた人への見返りを渡す仕組みがない」からです。
ちなみに、クラウドファンディングを利用する場合、販売型や寄付型、購入型などいろいろとありますが、中でも投資型は当然、利用することができません。
決算日
個人事業主の決算日は毎年12月31日です。つまり、年末に固定されています。対して、法人は特に定められておらず、経営者側で決定することができます。
これが違いになるわけですが…決算日に関してちょっとしたお話を紹介したいと思います。法人が決算日を自由に決められると聞いて…「じゃぁ、3月31日かな」と思った人も多いことでしょう。
確かに、3月31日に設定する法人は多いですが…実は、全法人の21%にしか上らないのです。つまり、5社に1社の割合しか3月31日に設定していないのです。
続いて多いのが9月末(11%)で、6月末(10%)、12月末(9%)の順となっています。なぜ、こんなにバラけているのか?というと、一番利益を上げることができる時期が違うからです。
諸所の理由があるため一概に言えませんが、基本的には決算日は「売上がよい」と世にアピールする場でもあるため、こういった流れになることが多いわけです。
社会保険加入
個人事業主は国民健康保険、法人は社会保険に加入することになります。国民健康保険は、日本の社会保障制度であり、社会保険を始め保険制度に加入していない人のすべてが加入。
社会保険は、会社に正社員として働いている人は強制的に加入なので…給与天引きで自動的に保険料が徴収されるわけですね。
社会保険は「健康保険」「年金保険」「雇用保険」「労災保険」の4種類があり充実しています。さらに、扶養することもでき、家族なども同様の内容で保険が適用することができます。
法人化することで、この社会保険に加入することになるわけですが、年金給付金が上がったり、保険料が抑えることができたり、節税ができたりと多くのメリットが。
その結果、個人事業主よりも法人化を選択する人も多いのです。
生命保険料
生命保険料は、個人で加入している場合「生命保険料控除」として、最大12万円まで所得から控除することが可能です。
サラリーマンにとっては、年末調整のときに、いろいろと記入する人も多いと思うので、馴染み深い控除の1つともいえるでしょう。
したがって、個人事業主の場合、個人で加入することになるため、一般的な控除が適用されることになります。
法人の場合は…かなり毛色が変わってきます。というのも、法人が契約者になって生命保険に加入ができるからです。
つまり、会社役員に対して生命保険を掛けることができ、その払込をするの人は「法人」となるのです。法人が支払うことになるため、当然、経費として扱うことができます。
その結果、生命保険料控除よりも大きな効果が期待することができることになります。ただし、経費で落とすことができるということで、節税に繋げることが可能です。
となってくると…必要以上に生命保険に加入する人が出てくることが懸念されます。そこで、このような不公平感が出ないよう経費にできる割合が決まっていることは理解しておきたいところです。
給与
個人事業主と法人の違いの中でも最たるモノが、この給与の考え方になります。まずは…個人事業主の場合、利益がそのまま自分自身の給与になってきます。
つまり、個人事業主が上げた事業所得が給与になるわけですね。対して、法人の場合は、あくまでも「会社から社員に対して給与が支払われる」という形になります。
一人社長であっても、この考えに例外はありません。売上は、一旦、会社に預けられ、そこから給与という形で支払われるわけです。
また、配偶者や子供を始め家族従業員への給与支払いも大きく扱いが異なってきます。個人事業主は、家族へ支払う金額を、あらかじめ税務署へ届けておく必要があります。
対して、法人の場合は、単純に社員へ支払いを行っているだけなので、当然、届け出の必要はまったくありません。その結果、発生する税金も大きく変わってくるわけです。
社宅
個人事業主は、そもそも「社宅」という概念がありません。あくまでも、個人で賃貸契約を結ぶ形になるため、ごくごく普通に「家(アパート・マンションなど)を借りるだけ」のお話なのです。
対して法人は、あくまでも法人名義で家を借りることになるため、根本的に違うわけです。そして、法人名義の物件を社宅契約を結ぶことで、家賃の一部を法人の経費として落とすことができます。
その結果、家賃を安くすることができるので「社宅は安い」という構図ができる仕組みとなっています。余談ですが…自宅兼職場として使っているケースはどうなるのか?と気になるところですよね。
自宅の半分を事業用として使用しているのであれば、実は…家賃を按分して経費として落とすことができるようになります。
日当
個人事業主の場合、どれだけ遠方の出張をしたとしても日当を支払うことはできません。法人は、役員であっても日当として支払うことができ、かつ会社側としても経費として落とすことができます。
非常に大きな差があることが分かりますね。そもそも、日当というのは、出張をしたときにかかってしまった細かい出費を補填する目的があります。
つまり「会社命令として出張へ行かせる」ということになるため、当然、会社がある程度は補填してあげないといけません。
しかし、個人事業主の場合は自由意志のため、補填する必要もないわけです。その結果、このような違いが出てくるのです。
ちなみにですが、日当は、あくまでも補填の側面があるため所得税の課税対象とはなりません。
したがって、出張が多くなるような事業の場合は、法人化した方が何かと便利なことが理解できますね。
個人事業主と法人の比較
先で紹介した内容を一覧にして比較ができるようにしておきます。
ぜひ参考にしてみてくださいね。
個人事業主 | 法人 | |
資金調達 | ○:融資 ○:借入 x:出資 |
○:融資 ○:借入 ○:出資 |
決算日 | 12月31日 | 自由 |
社会保険加入 | 加入できない | 加入(健康保険・年金保険・雇用保険・労災保険) |
生命保険料 | 最大12万円まで控除 | 一定額の控除が可能 経費として扱うことも可能 |
給与 | 利益が給与 | 会社から支払われる 給与所得控除の利用が可能 |
社宅 | 社宅契約することができない | 社宅契約が可能 賃貸料金を経費として扱うことが可能 |
日当 | 日当支払いはできない | 日当の支払いが可能 |
結局の所…法人化(法人成り)はどのタイミングですればいいの?
個人事業主には個人事業主のメリットとデメリットがあり、法人には法人のメリットとデメリットがあるわけですが…やはり多いのは「個人事業主から法人にする」パターンと「最初から法人を選択する」パターンになります。
では、どのタイミングで法人化をすればよいのか?と頭を悩ませてしまいますよね。サクッと説明をすると、タイミング大きく2つで「信用度アップを図りたい」「節税をしたい」となります。
前者の「信用度アップ」は、やはり個人事業主と法人を比較した場合、信用度の面では、後者の方が高いです。よく例として挙げられるのが「人を集める効果に差がでる」というモノ。
事業を拡大するために、人手が欲しいと求人票を出した場合、集まりやすいのは、やはり法人です。
正社員になりたい!安定した収入を得たい!という考えで求人票を見ている人は、個人事業主と目についた時点で「直ぐに倒産しそうだからやめよう」というイメージがとにかく強いわけです。
他にも新規開拓をしようと思い、新しい取引先を探したとしても「おたく…個人事業主でしょ?」と、色眼鏡で見られてしまうことも多々あります。
つまり、信頼度アップをさせたいタイミングとは、事業拡大をしたい場合と重なることも多いともいえます。
後者の「節税をしたい」は、個人事業主として事業が成功して収入が増えてくると、支払う税金額がどんどん大きくなっていきます。
そして、収益がとある数値を超えると、法人化した方が税金が安くなるわけです。
ではいくらが境目になるのか?が気になるところですが…ケース・バイ・ケースです。一応「収益が○○○万円を超えると、所得税の税率が○○%以上になるから、法人税の最大税率である○○%が低くなってお得になる!」という考え方があります。
ただ、これはあくまでも収益だけを見ただけの話で、話はそこまで単純なモノではありません。他にも、消費税が免除される条件を満たす、給与所得控除の条件を満たす、収益はそこまでだけど出張業務が多くなってきたなど。
兎にも角にも、税金とは、さまざまな面で徴収されることになるため、総合的に判断することが必要になります。
個人で、これを考えるとなると、それこそ税理士並みの知識が必要となってくるため…税金が高くなってきたなーと思ったら、相談してみるとよいかもしれませんね。
法人化(法人成り)する場合に知っておきたい注意点とは?
個人事業主と違い、法人化するためにはいくつかのハードルを超えていかなければなりません。大きなところでいうと…個人事業主のような自由度は小さくなるということです。
法人化するということは、資産はすべて「会社のモノ」となります。個人事業主の場合は、すべて個人の資産なので、好き勝手に利用することができるわけですが…基本、会社のモノとなるので、いろいろと制約がでてきてしまいます。
また、会社設立をするまでの道のりも、それなりに険しいことが注意点です。登記する必要があったり、資本金をいくらにするのか?だったり、そもそも株式会社にするのか?合同会社にするのか?を判断したりしないといけません。
さらに、定款を作成しないといけなかったり、思いも寄らない費用が発生してしまったりと…。
上記は、あくまでも「実際に法人化するときの注意点」なので、専門業者や自身で勉強したりで解決できます。
ただ…もう1つの注意点として挙げておきたいのは「法人化して何をしたいのか?のビジョンを明確にしておく」ということです。
節税のためだったり、信用度アップのためだったりタイミングを見計らって法人化するわけですが…。そのあと、どうするか?をしっかりと決めておくことが重要です。
例えば、実際に人を集めることができたとしても、行き当たりばったりだった場合、逆に出費が増えてしまってスグ倒産なんて、目も当てられない状況になる可能性もあります。
だからこそ、法人化する場合は、目先の利益も重要ですが、長期的な利益も視野に入れることが最大の注意点です。
まとめ
事業展開をして収益を得ようとする場合、やはり「個人事業主」と「法人」の選択をしないといけません。両者ともメリットとデメリットがあるため、どちらが正しいということはありません。
ただし、状況によって「個人事業主の方がいい!」という場合、「法人の方が得策!」というタイミングが必ずあります。
これをきっちりと見極めるためにも、ここで紹介したような両者の違いを理解しておく必要があるわけですね。
特に「税金」の面は、複雑怪奇な状況にもなるため、理解するには、なかかなの意気込みで挑まないといけません。
ケースによっては、専門家に相談した方がよいこともあるので、柔軟に対応できる柔らかい頭にしておくことも重要です。
ともあれ、違いを理解し全体像をイメージし、将来を見据えて「どちらにするのか?」を、定期的に確認をするようにしましょう。