会社を新しく設立するためには資本金を払い込む必要があります。設立前なので、当然会社名義の口座は存在せず、代わりに発起人の1人の口座に資本金を払い込むことになります。それでは払い込んだ後はどのような手続きが必要なのでしょうか。
今回は資本金の払い込みに関する書類や手続き、会計処理について詳しく解説します。
目次
会社設立時に行う資本金の払込手順はたった5つ
資本金の払込手順は5つあり、一見すると難しく思えますがやっていることはとても簡単です。
(1)発起人の個人口座を用意
振込口座は発起人の誰の口座でも構いません。一般的には代表発起人の口座を用意します。
(2)資本金の振り込み
代表口座1つを決めたら発起人全員が振込を行います。振込方法は比較的自由で次のどの方法でも構いません。
発起人が個別に振り込む
(例)出資金が30万円で発起人が3人10万円ずつ出資する場合、2人が別々に代表発起人の口座に10万円ずつ振り込み、代表発起人は10万円自分の口座に入金する。
代表発起人が一括して入金する
(例)出資金が30万円で発起人が3人10万円ずつ出資する場合、あらかじめ代表発起人が2人から10万円ずる預かり、自分の10万円もあわせて30万円を入金する。
(3)発起人の通帳をコピー
入金が済んだら、登記書類の1つである「払込証明書」を作るために、通帳をコピーします。
コピーする箇所は3ページ
通帳のコピーは「表紙の見開き」と「氏名が書いてある次のページの見開き」、「入金がわかる箇所の見開き」の3ページをコピーします。片面ではなく、見開きにしてコピーしてください。
(4)払込証明書を作成
払込証明書とは、資本金をいくら入金したかを記載した書面です。最後に会社名と代表取締役の名前、会社の実印を押印します。
※払込証明書は登記申請の際は「払い込みがあったことを証する書面」という名前になります。
(5)通帳と払込証明書をまとめる
最後に払込証明書と通帳のコピーを合綴(がってつ)します。合計4ページで1冊になります。
割印を忘れずに
ここでよくある注意点をご紹介します。払込証明書と通帳のコピーをホッチキスで2か所止めますが、そのあとにページごとに会社の実印の割印を必ずしてください。割印が無いと登記書類と認められません。
会社設立時の資本金払込の理解が進む一問一答
払い込みに関してよくある疑問点や間違いをご紹介します。
(1)発起人が一人の場合も振込むの?
振込または入金が必要です。必ず払い込んだという事実を作ってください。
(2)すでに口座にお金が入っています
よくある疑問ですが、すでに口座に資本金と同じ金額が入っていても、「一度引き出してから入金」が必要です。
(3)資本金の払込タイミングはいつまで?
払込のリミットは設立登記の申請日までで問題ありません。しかし、払込の開始日は必ず「定款認証」の後に行ってください。
定款を作って初めて会社の大枠ができたという認識なので、その前に払い込んでしまうと会社の大枠が存在せず、何もないところにただお金を振り込んだだけということになります。
誤って認証前に払い込んでしまった場合には再度入金が必要です。
(4)インターネットバンキングでも可能?
通帳がないインターネットバンキングでも問題ありません。その場合は「金融機関名」「口座名義人」「口座番号」「払込日と金額がわかる入金明細」をプリントアウトしてください。
(5)口座がゆうちょ銀行の場合の注意点は?
ゆうちょ銀行とほかの銀行の違いは、2015年10月1日以前に発行された通帳に限り、口座名義人の住所が記載されているという点です。
ここで注意が必要で、住所が記載している通帳に限り、通帳記載の住所と口座名義人である代表発起人の現住所と一致している必要があります。
住所が昔のままの場合は?
通帳の住所は古いままで、現在の住所と異なっている場合は通帳の住所と現在の住所の繋がりを証明する必要があります。
1つ前の住所の場合には「住民票」、転々としている場合には「戸籍の附票」を添付します。
また、住民票などを用意するのが大変である場合はゆうちょ銀行の窓口に行って住所を消してもらうことも可能です。
(6)資本金の払込はどう仕訳する?
会社が無事設立されると、翌年の3月には確定申告が待っています。その際に資本金の仕訳も入力しなければなりません。
仕訳の種類には「複式簿記」と「単式簿記」の2つがあり、青色申告を行う場合は「複式簿記」で帳簿をつける必要があります。2つの違いを、まずは図で確認してみましょう。
単式簿記
日付 | 項目 | 備考 | 支出 | 残高 |
---|---|---|---|---|
9/30 | 接待交際費 | 会食 | 10,000 | 90,000円 |
複式簿記
日付 | 借方勘定科目 | 借方 | 貸方勘定科目 | 貸方 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
9/30 | 接待交際費 | 10,000 | 現金 | 10,0000 | 会食 |
2つを比較すると、単式簿記は何となく、「家計簿」のようなイメージがあります。「いつ、何をして、いくら減ったか」を簡単に書いてあります。
複式簿記というのは、単式簿記をさらに細かくしたもので、お金の出入(取引)を記載しています。「借方」や「貸方」といわれてもよくわからないと思います。そんな時にはこの3つのフレーズだけ覚えてください。
- 勘定科目という袋にお金が入ってきたらプラス。お金が出て行ったらマイナス。
- プラスは左(借方)、マイナスは右(貸方)
- 勘定科目の「現金」は会社の財産のこと
今回の会食の例でいえば、接待交際費という袋に10,000円が入り、現金という袋から10,000円が減ったというイメージです。
これを踏まえて資本金の仕訳をしてみましょう。資本金が30万円だとして、それを銀行口座に入金しました。イメージは「資本金という袋からお金が出て、現金(会社の財産)という袋に入った」ということです。
つまり、プラスなったのは「現金」、マイナスになったのは「資本金」です。
日付 | 借方勘定科目 | 借方 | 貸方勘定科目 | 貸方 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
9/30 | 預り金 | 300,000 | 資本金 | 300,000 | 資本金の払込 |
このようになります。ここで1つ疑問が出てくると思います。「現金」の箇所が「預り金」となっています。
本来であれば会社の財産が増えているので、「現金」になるはずですが、法人口座は設立段階ではまだできておらず、発起人が預かっている状態です。
30万円は発起人の財産ではないので「現金」とは記載をせず、法人口座ができるまでは「預り金」になります。この後会社の法人口座を作り、個人口座から法人口座に振り替えた場合はこちらになります。
日付 | 借方勘定科目 | 借方 | 貸方勘定科目 | 貸方 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
10/30 | 現金 | 300,000 | 預り金 | 300,000 | 資本金の払込 |
これで法人口座にお金が入ってきたので、現金がプラス。預り金が減ったので、マイナスになります。
(7)資本金をドル出払うことはできる?
払込の最後ですが、発起人の1人が海外にいて、日本に「円」でお金を振り込むことができなかった場合でも外貨で払い込むことは可能です。その際の注意点として、為替レートに注意してください。
極端な例ですが、振り込む際の為替レートが「1ドル=100円」だとして、100ドル(10万円)振り込んだら「1ドル=90円」になっていて9万円しか払い込めていないことになります。
そのため、不安であれば、すこし多めに振り込んでおくとよいです。なお、その場合は払込証明書には、払い込んだ日の為替レートで計算した金額を記載すれば問題ありません。
まとめ
今回は資本金の払込に関する詳しい解説と確定申告の際の仕訳の方法をご紹介しました。
出資金の入金方に指定はありませんが、必ず定款が作成された日付(正確には定款認証をした日)と同日以降にしてください。
この日付と払込日の間違いはよくある話で、この場合は再度定款認証をやり直すか、入出金を再度行わなくてはなりません。
また、仕訳も簡単に説明しましたが、まだまだ分かりづらい点もあるかと思います。今回ご紹介した仕訳は簡単で分かりやすいものでしたが、お金の出入りを理解したうえで、簡単な仕訳から始めてみましょう。