新型コロナウイルスが以前より落ち着きを見せる中、新規開業や、海外への拠点展開も含め、会社設立を考える方もいらっしゃるかと思います。
その中で海外拠点の候補としてよく挙がるのが、シンガポールです。
シンガポールと言えばマリーナ・ベイ・サンズのような近未来的な建物、最近であればマリーナベイに浮かぶアップルストアのように、近未来を具現化したような施設やオーチャードロードのような商業施設が増えつつも、チャイナタウンのような懐かしさを感じさせる空間も残っています。
シンガポールは、新型コロナウイルスに対して徹底的な封じ込め対策を行っています。
2020年7月より、日本とシンガポールの航空便も再開され、物理的な往来ができる状態となりました。今後も徐々にですが、さらなる増便・往来の緩和が期待できます。
また、今後のアジアにおける金融センターとして、大きな存在感を有しています。
このように今後も成長が期待できるシンガポールについて、会社設立にかかる費用や必要書類を解説します。
制度の概要に関しては当記事で説明しておりますが、実際の設立手続きにおいては、ぜひシンガポールでの会社設立に通じた事業者に依頼することをお勧めします。
目次
シンガポールで法人設立するとかかる費用と法人の形態
シンガポールで法人設立を行うと、おおよそどれくらいの費用がかかるのでしょうか。
シンガポールで拠点を作る際には、現地法人の設立という形態だけでなく、複数の事業形態が存在します。
費用面で、資本金や会社設立費用、オフィスの賃料、従業員給与他、諸費用を踏まえて説明するとともに、事業形態に関してどのようなパターンがあるのかを抑えておきましょう。
事業形態に関しては、主な形態として4種類があります。(個人事業も存在するが、外国人が行うことができず、シンガポール国籍や永住権、就労許可などが必要なため除外)
それぞれの特徴は、下記の通りです。
- 1.シンガポール現地法人
シンガポールで本格的に事業を行いたい場合は、現地法人の設立が一番と言えます。
法人格を有するため、シンガポール国内での営業・販売活動なども当然自由に行えます。
形態として、公開会社と非公開会社の2種類がありますが、日本の会社・日本人がシンガポールに進出する場合は、一般的には非公開会社という形で、株主を50名以下とし、株式譲渡に制限をかけるケースが多いです。
なお、公開会社の場合は株主が50名以上存在することが必要で、公募による資金調達も可能です。
- 2.現地支店
日本に法人を有しており、そこからシンガポールに進出する場合は、現地支店という形を取ることも可能です。
法人格が存在するため、現地法人のように営業活動ができますが、軽減税率などの税制優遇措置がないため、金融業等一部の業態を除いては、あまり活用するメリットが見当たらないといえます。
- 3.駐在員事務所
駐在員事務所は、駐在員5人未満、本社設立後3年経過、売上が25万米ドル(ドル円105円換算で、日本円にして2,625万円)以上など、既に日本である程度事業が軌道に乗っていることが前提となります。
加えて、あくまで駐在員事務所という位置づけのため、マーケット調査やPR活動など、正式な進出前の下調べ的な活動はできるものの、肝心な販売・営業活動ができるわけではありません。
既に日本にある企業が、正式に進出する前の準備として駐在員事務所を設立するというくらいで、あまり使われることはないでしょう。
- 4.パートナーシップ
基本的には、弁護士・会計士など専門職の個人が集まり、共同事務所のような形態で営業活動を行う業態です。
パートナーシップは、2人~20人という人数制限があります。
以前は、日本の合名会社のように、全員が無限責任という形態でしたが、LLP(リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ)という形で、1人以上の無限責任パートナーと、1人以上の有限責任パートナーで構成される、日本でいう合資会社のような形態も取れるようになりました。
ただ、こちらも一般的な企業の進出においては適していません。
以上を踏まえると、基本的にはシンガポールへの進出は、現地法人の設立が一般的と言えます。
(1)資本金及び会社設立費用
シンガポールの会社設立は、日本において1円から会社が設立できる資本金制度と類似しています。
具体的には、会社設立当初は、1SGD(シンガポールドル・2020年10月22日のレートで約77円)を資本金とする形となります。
ただし、実務上においては、当初は資本金1SGDで会社設立を行いつつ、口座開設後に増資という形を取るのが一般的です。
日本と同様、各種手続きや信用面等を考えると、ある程度まとまった額の資本金を増資できるように準備しておくと良いでしょう。
また、シンガポールで事業を開始する上では、会計企業規制庁(ACRA)にて会社名の承認申請(他社との重複などないかの確認)を行う必要があります。概ね期間は2週間程度かかります。
手続きは、ACRAのBizfileというオンラインシステムを利用します。
ACRAに会社名の承認申請を行い、問題ないとして承認された場合、社名の確保(予約)手続きを行います。
社名確保手数料として15SGD(1,155円)がかかります。
具体的なオンラインでの作業手順は、実際のサイトで行うか、シンガポールでの法人設立に詳しい専門家にご確認ください。
ACRAの認可が下りると、手数料として300SGD(23,100円)が必要になります。また、有限責任保証会社の場合は、600SGD(46,200円)がかかります。
あわせて、設立確認証明書の発行が必要な場合は、50SGD(3,850円)の手数料がかかります。
設立許可後は、取締役会を開催、取締役選任、銀行口座開設等の必要手続を確認し、ビザ申請を行う必要があります。
基本的には、手続で代行事業者に依頼できる部分はできるだけ依頼する方がよいでしょう。
会社設立手続の中で、法人の銀行口座開設は重要かつ難関のため、詳しく説明します。
シンガポールは金融立国であるため、マネーロンダリングなどの不正行為が発生しないよう、厳しく目を光らせています。
銀行口座開設に関しては、一般的に下記の書類が必要です。(さらに追加書類を求められる可能性も)
- 口座開設申請書
- 法人の口座開設に関し、取締役会で承認を行ったという議事録
- シンガポールでの会社登記情報の写し
- 定款の写し
- 取締役自身の身分証明書(パスポート)
- 取締役で、開設時に署名を行う人の住所証明
- その他銀行が求める書類
加えて、事業実態があることを明確にするために、
- 会社のホームページのアドレスや、ホームページを印刷したものの写し
- 取引先との業務委託契約書・業務提携契約書など
- 取引先からの請求書・領収書など
他にも、金融機関が「この法人は確かに事業実態がある」と確実に判断できるレベルの資料を、書面ベースで用意する必要がある可能性があります。
せっかく法人を開設しても、肝心な法人口座が開設できなければ、取引もできませんので、会社設立・登記をした意味がなくなってしまいます。
事業内容の説明等各種疎明に関しても、銀行に自社の事業実態が確かなものであると説明する必要がありますが、自分だけでなく、極力サポートしてくれる事業者の力を借りる必要があると言えます。
一方で、会社の住所に関しては日本より柔軟な傾向があります。
日本の場合、バーチャルオフィスで登記をしていると、銀行によっては口座開設が難しくなるケースがあります。(もちろん、バーチャルオフィスでも事業実態やその他の要素を勘案し、口座が開設できるケースもありますので、金融機関の考え方によるところも大きいです)
一方、シンガポールの場合は、会社設立サポート事業者が手続きを行う際に、会社の住所をサポート事業者の住所にしているケースが多いです。
そのため、バーチャルオフィスの状態で口座開設手続きを行えば問題ありません。(ただし、自宅など、明らかにこれは仕事の場所ではないでしょう、というところはNGとなります)
さらに、資本金に関してもチェックされる可能性があります。
日本で1円設立の会社が信用されないのと同様、シンガポールでも1SGD設立の会社が信用される可能性は、極めて低いと考えられますので、会社設立事業者と協議し、自身のビジネスにふさわしい資本金を事前に決めておくことが重要です。
さらに、口座開設手続きは、口座を開設する銀行の行員との面談が必要になります。
現在はコロナ禍のため、リモートによる面談に対応している銀行がある可能性も想定できますが、基本としては、法人の代表者が窓口に出向き、直接面談を行うのが原則です。
口座開設の面談では、
- 口座開設の理由
- 法人の事業内容
- 資本金はどのようにして拠出したか
- 会社の事業計画・年間の売上見込み
- 銀行をどれくらいの頻度で利用するか
- 各種説明を補強できる資料の提出
など、会社設立サポート事業者と、事前に対策を練っていないと大変かと思います。
なお、口座開設に関しては、即日ではなく、1週間~3週間程度、期間を見ておいた方がよいでしょう。
加えて、どの金融機関に口座開設をするかに関しても、素直にサポート事業者のお勧めする金融機関を選ぶのが無難といえます。
シンガポールの現地法人に関しては、
- 設立日から18ヶ月以内に株主総会を開くこと
- 財務諸表をACRAに提出すること
等が義務づけられております。
(2)オフィス賃料
シンガポールで法人運営を行う場合、様々な形態でオフィスを確保することができますが、まず会社設立登記を完了させるまでは、会社設立を行う事業所(会計事務所等)の住所を、設立登記用に一時的に利用するケースが多いです。
その後、会社設立登記が完了し法人格ができると、オフィスが借りやすくなるため、改めて変更登記を行うというケースが多いです。
オフィスと自宅が同じ場合
自宅をオフィスとして利用することは、基本的には禁止されています。
例外として、申請を行い、業種や規模によっては住宅をオフィスとして使用することができますが、極めて小規模なビジネスに限られ、賃貸物件の場合は大家さんの同意も必要になりますので、あまり現実的ではありません。
登記住所のみを取得する場合
会社設立の際は、前述の通り会計事務所の住所を登録するケースが多いと言えます。規模を拡大したり、現地でのオフィスの必要性を感じたら、後述のサービスオフィス、一般のオフィスに移っていくのが望ましいです。
サービス・オフィスを賃貸する場合
シンガポールのオフィスの賃貸料は非常に高額です。
そのため、会社設立直後は、日本のシェアオフィスと似た形態の「サービス・オフィス」を活用することが望ましいです。
フロアを区切った簡素な形態ですが、当初の拠点としてはちょうど良いと言えます。
一般のオフィスを賃貸する場合
一般のオフィスを賃貸する場合は、契約期間が一定の間定められており、原則契約期間が終了するまで利用することになります。
そのため、事業が軌道に乗り、人を複数雇用し、組織として業務を行う段階になってから一般のオフィスを賃貸するのが望ましいです。
(3)従業員の給与
従業員の給与に関しては、最低賃金に関する規定はありません。(清掃・警備など一部業種は除く)
職種や職位に応じ、様々な賃金レンジがありますが、シンガポール自体の国の成長ゆえに、年々賃金は上昇しています。
日本人がEP(エンプロイメントパス)を取得する際は、月額固定給与が最低4,500SGD以上(約35万円)以上、実際は年齢やポジションによりそれより高い給与・学歴が要されます。
現地採用という手もありますが、適正な給与は現地事情に詳しい専門事業者と相談することが望ましいでしょう。
(4)ビザ申請手数料
シンガポールでのビザ申請費用は、概ね申請代金+事業者への手数料で1人当たり1万円前後となります。
代行事業者により価格は異なりますので、申請時に確認する事をお勧めします。
(5)その他の費用
シンガポールで会社を設立した後は、暫定取締役、会社秘書役、会計費用など、その他の費用も発生します。
暫定取締役の費用
年間2,000SGD(154,000円)~4,000SGD(308,000円)、それ以上になることもあり、価格に幅があります。
行ってくれるサービス・価格等も含め総合的に検討すると良いです。
会社秘書役にかかる費用
会社秘書役を置くことも必要で、概ね年間1,000SGD(77,000円)~2,000SGD(154,000円)程度を見ておく必要があります。
こちらも、どこまでが業務範囲かという点と、価格だけでなくサービス内容も踏まえて考えましょう。
会計に関する費用
こちらも記帳代行・決算報告書作成・税務申告等含めた総額で幅がありますが、概ね年間で4,000SGD(308,000円)前後と、日本の法人同様、けして安くはない費用がかかると考えておく必要があります。
シンガポールで会社設立する際の必要書類
シンガポールで会社設立をする際の基本的な決めておくべき事項・必要書類は、下記の通りです。
-
- 会社の定款
- 会社の事業内容(2つまで選択可能)
- 取締役と株主の氏名・連絡先
- 資本金額がわかる書類
加えて、個人の株主の場合は、
- 株主のパスポートの写し
- 住所が証明できる書類
法人株主の場合は、日本に存在する会社の、
- 親会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明)と英訳した書面
- 定款の英訳書面
- 親会社の個人株主(株式または25%以上の議決権を所有する個人)のパスポートの写し
- 株主を確認できる書類を英訳したもの
- 法人の所在地を証明する書類
その他要求される書類があれば、必要に応じ用意する必要があります。
また、現地法人設立以外にも、駐在員事務所の設立、支店設立などの場合には別途異なる書類が必要となりますので、こちらも専門事業者に確認することが望ましいです。
まとめ
シンガポールの会社設立に関して、費用や手続き、必要書類等概略を説明しました。
各制度に関して詳細を記すと、相当なボリュームとなるため、今回は全体像を中心とした紹介を行いました。
自身・自社がシンガポールに進出することを検討する際には、現地事情に詳しい、信頼できるパートナーを見つけることが重要といえます。
Web通話などで相談したり、評判を確認することに加え、知人などにシンガポールに進出している事業者の知り合いがいれば話を聞かせてもらうなど、様々な角度から情報を集め、専門家に依頼することをおすすめします。