作成日:2020.12.12  /  最終更新日:2020.12.28

マレーシアの会社設立にかかる費用・必要書類を徹底解説

経済成長が著しいアジア諸国でも、マレーシアは海外進出拠点として、よく検討候補に挙がります。

金融立国であるシンガポールの隣国であり、シンガポールとのアクセスも容易な場所にあります。

一方で、ビザの要件がシンガポールほど厳しくなく、また生活に関するランニングコストがかからないため、様々な意味でのコストパフォーマンスと立地の良さの点でマレーシアは狙い目と言えます。

当記事では、マレーシアに会社設立をする際にかかる費用や必要書類を解説します。

ただし、2020年は、新型コロナウイルスの発生という大きな問題がありました。

そのため、制度変更、新型コロナウイルスの影響により、様々なフローが変更になっている可能性があることや、渡航に関する規制が出ている可能性を踏まえ、最新の情報を専門家から得ることが重要です。

個人だけでは各種手続きを行うことは、相当な負担となります。

現地の事業に通じた会社設立代行業者・会計事務所のサポートを得ることが重要と言えます。

マレーシアで会社設立するとかかる費用

マレーシアで会社設立をすると、かかる費用はどれくらいが想定されるでしょうか。

まず、費用の前に、現地進出に関する事情をまとめておきます。

マレーシアに外資企業が進出する場合は、現地法人を設立するケースが多いです。

他のアジア諸国と同様、支店・駐在員事務所も可能ですが、支店については銀行業・保険業・建設業など一部の業種しか行わない、現地法人の方がメリットが大きいというのが実情のようです。

また、駐在員事務所は現地調査などの活動はできても、現地での営業活動ができないので、事前リサーチのためを除いては、あまり設立をお勧めしにくいと言えます。

また、「現地法人」が選ばれる理由としては、

  • 日本法人と切り離す形で会社設立ができる
  • 支店や駐在員事務所設立の場合は、日本本社が法的責任や債務を負う可能性があるが、現地法人であれば問題ない
  • 税務面でもマレーシアの税法に従うことになるため、法人税などが軽減
  • 原則、現地法人でなければ、卸売業・小売業・飲食業などは複数の業種で事業ライセンスが取得できないことも
  • 製造業では税制優遇が受けられないケースも

など、支店形態のデメリット・現地法人の優位性などから、現地法人を選ぶというケースが大半です。

(1)資本金

資本金に関しては、日本やシンガポールなど他のアジア諸国と同様、1MYR(マレーシアリンギット。2020年現在1MYR約25円)という、現地通貨の最小単位から設定することが「一応制度上は可能」です。

なお、マレーシアの通貨単位は、「リンギット」と通常呼ばれ、マレーシアの通貨を示す際に、「MR」・「MYR」はどちらもマレーシアリンギットの意味合いです。

ただ、実際には1MYRでは、各種事業のライセンス取得ができないケースが大半です。

また、マレーシア法人の取締役や駐在員の雇用者パスを取得するための要件としても、それぞれ要される資本金が異なります。

一般的なケースでは、400,000MYRの授権資本金を用意するのが望ましいともされています。

ライセンス取得や各種パスの資本金設定に関しては、マレーシアの事情に通じた会社設立代行会社や会計事務所のアドバイスが不可欠です。

(2)オフィス賃料

マレーシアのビジネス拠点はクアラルンプールです。

クアラルンプール周辺に、マレーシアにおける主要なオフィスが集積しています。

他にもジョホールバルなど有名な地域もありますが、今回はクアラルンプールのオフィス賃料の相場を見てみましょう。

クアラルンプールの1平方メートルあたりの月額賃貸料は、70~100MYR程度です。

賃料に関しては、東京23区と同じ程度と言われていますが、同じクアラルンプールでも、立地や条件により、かなりの価格差があります。

(3)登記手続きにかかる費用

マレーシアで登記手続にかかる費用は、1,000MYRです。

登記手続に関し概要を整理すると、

  • マレーシア会社登記所(CCM)に対し、会社名の使用許可申請(ネームサーチ)を行い、許可を得る(30日間有効)
  • スーパー・フォーム(日本の登記申請書)に必要事項を記入、取締役による宣誓書等を添付
  • 登記料1,000MYRを支払い、オンラインでマレーシア会社登記所(CCM)に登記申請
  • 会社設立後、30日以内に、国家資格を持つ会社秘書役を任命(多くのケースでは、現地会計事務所・会社設立代行会社が担当してくれることが想定できる)

という流れを経て、登記手続が完了します。

(4)ビジネスライセンス取得費用

会社登記の完了後は、ビジネスライセンスの取得が必要となります。

ビジネスライセンスは、市役所に登録します。

申請手続は、日本語や英語では行えず、現地の用語であるマレー語で書類作成を行います。

こちらも、会社設立代行事業者、会計事務所等のサポートを得る必要があります。

(5)銀行口座開設費用・必要書類

銀行口座の開設に関しては、銀行の求める最低預金額により異なります。

2,500MYR~5,000MYR(これより安価・高価な場合もある)程度と相当幅があります。

日本の銀行と異なり、ある程度お金を預けてくれる、あるいはローンを借りるなど、「いいお客様」になってくれるケースでないと、金融機関側としても、法人取引のコストを吸収しきれないところはあるので、仕方ないと言えましょう。

これに関しては、「事業設立当初に適していて、安価に口座を開設できる金融機関はないか」を代行会社・会計事務所等に確認する事が重要です。

必要書類としては、

  • パスポート
  • 就労ビザまたはMM2Hビザ
  • ローン借り入れの承諾書(銀行による)
  • 公共料金の請求書と、内容を英語に翻訳した物
  • その他金融機関の求める書類

などが必要になります。

(6)ビザ申請手数料

マレーシアに関しては、ビザ申請自体の手数料はかかりません。

ただ、ビザの申請サポート料金などで、1万~2万円(日本の代行業者に支払う)程度の費用は見積もっておく必要があります。

また、ESD(外国人就労管理局)アカウント取得費用としては、

  • ESD(外国人就労管理局)でビザを申請する代行費用
  • ESD への会社登録
  • 雇用関係の申請などにかかるコンサルティング
  • 所定の申請用紙の作成及び提出や、公的セクターとの相談

等で、5,000MRT~7,000MRT前後の費用を見込んでおく必要があります。

また、EP(雇用パス)発行費用としても、設立者の日本人がマレーシアで就労する場合には、日本人自身の就労ビザが必要となります。

日本人・外国人を雇用する場合、就労ビザの取得が必須となります。

移民局がビザを管轄し、取得申請も移民局に対して行います。

他にも、

  • 書類作成と申請手続きの代行
  • 入管への雇用ビザ (EP) の申請関連の打ち合わせ
  • 申請用紙の作成及び提出
  • 各種関係機関との折衝

等で、1人当たり5,000MRT~6,000MRTを見込んでおく必要があります。

(7)会社運営費用

マレーシアで会社運営を行う場合は、会社運営の費用と各種社会保障番号登録代行費用を念頭に置く必要があります。

会社運営の費用に関しては、事業形態により幅があり、またマレーシアの物価上昇等もあり、あくまで参考の数値として下さい。

種類毎に概算を見てみましょう。

毎月の会計業務

月額およそ500MRT~ですが、会計業務の量により異なります。

会社秘書役(カンパニーセクレタリー)への報酬

会社の総務的な手続で、日本で言う司法書士に行政書士の一部役割をプラスしたような立場です。

縁の下の力持ち的存在で、どこにお願いしても同じ、とは考えない方がよいです。

事業としては、会社法に基づくアドバイス、各種届出のスケジューリングを代行、株主総会や取締役会等の議事録作成や会社の登記事項の変更申請、会社登録委員会(登記所)への監査報告書・年次報告書への提出などを行います。

月額料金は、50MRT~400MRT程度で、日本で言う登記(株主や役員変更・増資)など、契約外の追加手続がある場合は、別途費用が発生します。

なお、値段に関して幅がありますが、地元の事業者で、日本に窓口がないところで、マレーシアの現地職員ばかりを使っているところで、専門性を特に持たない事務所は、安価な傾向があります。

ただ、他の手続にも言えることですが、日本人が関与していたり、日本にも事務所があるカンパニーセクレタリー会社の方が、様々な意味で安心できます。

日本の場合は、「これも必要ですよね」と向こうから提案してくれるケースも多いですが、海外の場合、向こうから提案するケースもあれば、言われたこと以外はやらない、というケースもあるからです。

値段の違いは様々な要因がありますが、やはり日本人が関与している、日本のスタッフや日本語が堪能なスタッフがいるカンパニーセクレタリーは、比較的高価なケースが多いです。(100MRT~400MRT程度)

また、日本国内のローカルルール・不文律や、状況に応じたきめ細かな対応、契約範囲でできること(安価なカンパニーセクレタリーは、対応できる幅が限られるケースも想定される)なども踏まえる必要があります。

値段だけを考えるのではなく、提供してくれるサービス・スタッフ・日本語対応がどれだけスムースかなども考えて、検討することをおすすめします。

日本の会社設立代行会社や会計事務所、その他日本の会社と提携しているカンパニーセクレタリーであれば、いわゆる日本人ならではの「阿吽の呼吸」も通じやすいです。

監査法人の監査

年に1回、監査法人の監査を中小企業でも受ける必要があります。

費用は、5,000MRT~10,000MRTがボリュームゾーンですが、これも各種状況により異なるケースも想定されます。

給与計算

日本でいう、社会保険労務士、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング、各種業務代行)などが行う給与計算アウトソースです。

概ね、1人月額200MRT前後で、給与計算・従業員自身の所得税等の計算を行ってくれます。

法人税申告

日本でいう税理士業務です。

法人税等税金計算・税務当局への申告代行も含め、5,000MRT~10,000MRT、業務量によってはそれ以上も想定されます。

社会保障番号登録代行費用

SOCSO(日本でいう労災保険・駐在員を含む外国人労働者も登録義務づけ。家事使用人は除く)への加入申請・EPFナンバー(日本で言う基礎年金番号)の申請・取得、その他税務関連・法人税・雇用者ナンバーの申請・取得も行います。

費用は2,000~3,000MRT前後が目安です。

マレーシアで会社設立する際の手続きと必要書類

マレーシアで現地法人の会社を設立する際の手続と必要書類に関して、改めて詳しくまとめてみましょう。

なお、当記事を作成する上では、JETROのサイト等を参照し、よりステップがわかりやすくなるよう構成しました。

外資企業がマレーシアにて会社設立を行う場合、「株式有限責任会社(Company Limited by Shares)」を設立する事が一般的とされるため、株式有限責任会社を前提とした説明を記載します。

ちなみに株式有限責任会社は、社名の後に必ず「SDN. BHD.」を付けることとなっていますので、留意しておく必要があります。

会社名の使用許可申請(ネームサーチ)を行う ネームサーチ申請書を使用し、マレーシア会社登記所(CCM)に希望する会社名のネームサーチ(社名使用許可申請)を得る(オンラインで1日以内にわかる)。社名のガイドラインは、リンク先に英語で記載。社名使用の許可は30日間有効で、延長申請も可能ではあるが、原則は30日以内に登記所にオンラインで申請することが必要。本文中にもあるように、一般的な株式有限責任会社の場合は、「SDN. BHD.」など、会社の種類も含めた商号であることが必要
書類の作成 スーパー・フォームと称される登記申請書に必要事項を記入のうえ、取締役による宣誓書等を添付
登記料の支払い 登記料1,000MYRを支払い、オンラインで登記所に申請
会社設立 登記所から設立登記完了の通知(Notice of Registration)を受領した時点で、登記手続きの完了となる
会社秘書役の任命 会社設立登記完了の通知を受領後、30日以内に会社秘書役を任命する必要がある
監査済み財務諸表を送付 株式有限責任会社の場合、設立時は設立日から18カ月以内、次年度以降は、会計年度末から6カ月以内。上記までの期間に監査済財務諸表を送付し、送付日から30日以内に登記所に届出をしなければならない。

まとめ

マレーシアへの進出、会社設立に関しては、2020年11月現在、新型コロナウイルスの影響が色濃く残っています。

今すぐに海外進出、というのは選択肢に入りにくいかもしれません。

ただ、今後新型コロナウイルスが落ち着き、社会活動が再開したときに、マレーシアを始めとするアジアへの進出の気運は高まることが想定されます。

改めてになりますが、地元の安価なコンサルティング業者で安くしようとするよりも、日系事務所、日本の会社設立代行会社など、日本人が関与している各専門組織に任せた方が、少し値段が高くても安心と言えます。

なにより、不明な点、ちょっとした確認事項で、日本語で相談して即座に答えが返ってくる会社か、そうでない会社かというのは大きいです。

また、現地事情を日本にいる日本人に対してもわかりやすく伝えてくれるかというのも、大きな要素です。

経済活動は正常か、マスコミではこう言っているけど、実態はどうか、現地の治安は大丈夫か、今現地にこの業種で進出して良いか、マレーシアとの往来ができるかなど、聞きたいことを遠慮無く聞けるというのは強みになります。

ぜひその点も踏まえ、信頼でき、コミュニケーションがとりやすい会社設立代行会社・専門家・会計事務所へ手続を依頼する事をおすすめします。