会社設立を行う上で、多くの方が悩まれるポイントが「資本金」です。
資本金は、会社に最初出資するお金の額ですが、「資本金をいくらに設定するか」は多くの方が悩まれるかと思います。
「資本金の額で税金が変わることがある」という話を聞かれた方もいらっしゃるかもしれません。
そのため、「最適な資本金はいくらなのだろう」という疑問が出てくるかと思います。
より具体的に分解すると、
- 資本金を基準として、税金の課税額がどのように変わるのか
- どのような税金が、資本金の額で変化するのか
- 消費税がかかる資本金の基準
- 節税の観点と信用のバランス・その他の要素も含め、資本金はどれくらいの額が適しているのか
という点は、皆さん悩まれるかと思います。
当記事では、
- 資本金で課税額が変わる税金について
- 資本金がいくらの場合から、具体的にどのような税負担が増えるのか
- 資本金と消費税の関係
- 節税・信用・許認可など様々な要素を踏まえ、どのケースにどれくらいの資本金が最適か
に関して解説します。
目次
1,000万円を超える場合と1億円を超える場合で税務上の違いが生じる
まず、大きく税務上の違いが生じてくるのが、
- 資本金が1,000万円を超えるケース
- 資本金が1億円を超えるケース
です。
大まかには、「消費税・法人住民税・各種優遇措置の有無」の観点から違いが発生することとなります。詳細に関しては後述で解説します。
資本金1000万円以上で消費税が変わる
資本金1,000万以上で変わる主な税金の一つが、「消費税」です。
資本金が1,000万円以下なら、原則「設立後2年間は免税」、つまり消費税を納めなくても良くなります。
これには少し細かいルールがあるので、国税庁のタックスアンサー No.6501 納税義務の免除をベースに、かみ砕いて解説してみましょう。
まず原則として、「課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、納税の義務が免除される」というルールがあります。
(他にも、特定新規設立法人という、いわゆる大企業の子会社は対象外というルールがありますが、これから会社を設立する人にとっては特に考えなくて良いでしょう)
この文章を見ると、課税期間?基準期間?何それ・・・。という疑問もわいてくるかと思いますので、それぞれの言葉の意味を説明します。
課税期間:法人は原則2年前(前々年度)がベースになる
基準期間:その基準年度の売上が1,000万円以下であれば、免税事業者になる(消費税を受け取っても、納付しなくて良い)
本当はもっと細かい部分もありますが、ざっくりと説明すると上記のとおりとなります。
課税期間は2年前をベースにするということなので、2年前や1年前には、法人は設立されていません。
なので、課税期間自体が存在しないので、消費税の基準年度も存在しない、消費税の納税の必要もないということになります。
ただし例外として、第1期における事業年度開始の日から、6か月間の課税売上高もしくは給与額が1,000万円を越えたケースに関しては、課税対象になります。
他にも例外のケースがあるので、ピックアップしていきましょう。
資本金1,000万円で設立後、減資して1,000万円未満になった場合
業種によっては、国の各省庁や地方公共団体から、「この仕事をしてよいですよ、この仕事をします」という許認可・届出を行うことが義務づけられている業種があります。
業種によっては、会社設立時に一定以上の資本金を要されるものがあります。
例えば、労働者派遣事業の許可を受けるためには、原則として基準資産金(資本金)を2,000万円以上、かつ1,500万円以上を現預金(現物出資はNG)で出資する必要があります。
このような業種では設立時に、一定の資本金を用意する必要があるため、原則として創業初年度は消費税の納税義務を回避できません。
ただし、例外として、減資をしたり初年度を短くすることで、第2期における消費税の納税義務を回避することが可能となります。(こちらも、税理士に十分な相談を行いながら手法を検討をすることが重要)
このような節税手法を活用する上では、税理士(許認可・届出が関わる場合は行政書士)と協議しながら進めていくことが重要です。
なお、減資することによるデメリットは、第三者から見た「信用力の低下」という点に集約できるでしょう。
資本金に関しては、法務局へ行く、もしくはオンラインで申請をすれば、誰でも全部事項証明(いわゆる登記簿)を閲覧でき、「この会社の資本金は○万円か・・」と確認ができてしまいます。
他にも、企業調査会社からデータを取得するという手法もありますが、設立当初の会社や、規模がまだ小さい場合はデータがないことも多いです。
そのため、設立当初の会社に関しては、取引を検討している事業者や第三者が、信用力を調べるために登記簿を取得し、資本金を確認されるという可能性も想定しておく必要があります。
資本金1,000万円未満で設立後、翌日に1,000万円になった場合
許認可・届出などで、1,000万円以上の資本金が必要な事業者の場合、裏技があります。
税理士など専門家と協議しながら行ことが前提となりますが、設立時は資本金を1,000万円以下で設立し、その翌日以降に増資をすることで、初年度は免税事業者となることが制度上は可能です。
税理士から節税テクニックを聞くのがオススメ
全てにおいて免税事業者となることが得になるとは限りません。
1年目に多額の設備投資を行うなど、業種により預かった消費税より支払った消費税の方が多い事業者も存在するでしょう。
この場合は、資本金の額に関わらずその多く支払った分だけ還付してもらえる制度が存在します。
こちらも、複雑な上に「ケースバイケース」という側面があるため、税理士へ相談することが重要です。
大切なのは、「書籍やネットに書いてあったから、この制度が使える」と決めてしまうのではなく、実務に精通した税理士に相談、個別具体的なケースを見てもらうことで、「この場合は大丈夫ですね」「よりもっと望ましい方法がありますよ」など意見をもらうことです。
そのためには、設立当初から顧問税理士を依頼し、状況に応じた節税のアドバイスを受けることが重要な鍵となります。
資本金1,000万円以上で法人住民税が変わる
資本金が1,000万円を超えると、法人住民税の課税基準が変更になります。(加えて、1億円を超えた場合も)
例えば、東京都の特別区(23区)内のみに事務所を有する法人の場合で、従業員50人以下の場合は下記のような負担額になります。
資本金の額 | 均等割額 |
1,000万円以下 | 70,000円 |
1,000万円超~1億円以下 | 180,000円 |
1億円超~10億円以下 | 290,000円 |
このように、資本金1,000万円(2006年の会社法改正以前の株式会社の最低資本金)と、資本金1億円超(卸売業など商業における、中小企業と大手・中堅企業を分ける壁)で、資本金の均等割額が大きく異なります。
資本金1億円以下の場合税の優遇措置がある
資本金が1億円以下の場合、税の優遇措置があります。
法人税の税率、損金として算入される交際費の金額、少額減価償却資産の扱い、欠損金の扱い、特別償却や特別控除の有無など、様々な部分で資本金1億円以下の企業は税制優遇を受けます。
税制上の違い(1)法人税の税率
一般法人に関して、資本金の違いによる税率の差を表にしてみましょう。
区分 | 税率(平成31年4月1日以降) | ||
資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者※ | 19% | ||
年800万円超の部分 | 23.20% | ||
資本金1億円超の法人 | 23.20% |
※適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます。)に該当する法人の年800万円以下の部分については、19%の税率が適用される
引用:国税庁「法人税の税率」
上記の通り、資本金1億円以下の法人で、年間800万円までの利益に関しては、15%の法人税となりますが、資本金が1億円を越えるケースや、年間800万円を超える利益のケースでは、23.20%の法人税となります。
税制上の違い(2)損金算入される交際費の金額
交際費等の額は、原則として、その全額が損金不算入とされています。
ただし、資本金が1億円以下の場合、損金不算入額は、次のいずれかの金額となります。
1 交際費等の額のうち、飲食その他これに類する行為のために要する費用(専らその法人の役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除きます。)の50%に相当する金額を超える部分の金額
2 上記ロの金額(定額控除限度額、つまり800万円に当該事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額)を超える部分の金額
引用:国税庁:No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算
つまり、一般的には交際費等を損金に算入しないものの、資本金が1億円以下の場合は、一定の部分を損金として算入して良いとする特例を設定しています。
税制上の違い(3)少額減価償却資産の扱い
「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」という制度があります。
取得価額が「一式税込30万円以下」の固定資産・ソフトウェア・サービスなどに関しては、年間300万円を上限に損金算入できる制度です。
本来ですと、一式税込10万円を超える固定資産などは、耐用年数に応じ、複数年に分けて償却する必要がありますが、資本金が1億円以下など一定の条件に合致すると、上記の特例を活用することができます。
参照:国税庁:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
税制上の違い(4)欠損金の扱い
法人税において、「益金」ー「損金」がマイナスになる場合、これを「欠損」(赤字)と定義し、その額を他の年度の所得から差し引くことで、「赤字と黒字をぶつけて相殺する」ような形で、これまで損した分を、新しい年度の黒字とぶつけることができます。
資本金が1億円以下の中小企業の場合、全額が対象になりますが、規模が大きい企業の場合は、金額が限られます。
制度が複雑なので、こちらも税理士等専門家に相談すると良いでしょう。
税制上の違い(5)特別償却や特別控除の有無
中小企業の場合、特別償却(「取得価額×30%」を、通常の減価償却費とは別枠で特別に償却することができる制度)と税額控除制度(法人税額からさらに税額を控除することができる制度)があり、どちらか一方を選択することとなります。
この制度の活用に関しても、詳細を説明するとわかりにくくなるため、「中小企業向けに上記のような税負担が軽くなる制度がある」という大まかな理解にとどめ、詳細は税理士に相談しましょう。
まとめ
ここまでで述べてきたとおり、資本金が1,000万以下の法人、1億円以下の法人には、税制など様々な部分で優遇措置が取られております。
確かに資本金は、企業の信用のバロメーターではありますが、多いから良いと単純に言い切れるものではありません。
資本金を増やすこと、特に1,000万円と1億円の壁を踏まえた上で、資本金の額を考えて行くとよいでしょう。