会社設立手続きには多くのプロセスがあります。
ただ、会社設立を完了させた後の手続きも多々あり、手間がかかる手続きも少なくありません。
その中の一つが、「法人の銀行口座」の開設手続きです。
個人の口座開設と異なり、コンプライアンスやマネーローンダリングの防止、反社会的勢力の口座開設の阻止などの観点から、以前より法人口座の手続きは厳しくなっています。
当記事では、法人口座開設に必要な資料や手続きの期間、流れ、法人口座開設の留意点に関して解説します。
目次
法人の銀行口座開設について
法人の銀行口座開設は、2010年代より非常に厳しくなりました。
特に、平成25年4月より施行された、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」からは、本人確認や口座開設目的の確認など、審査が全般的に厳しくなりました。
国際的な金融取引も増え、また実態のない会社の増加・休眠会社の口座悪用や、法人口座を利用した振り込め詐欺の問題など、法人口座を通した犯罪も増加ししたため、一昔前に比べ法人口座開設のハードルは上がりました。
新規の会社が口座開設を行う上では、各種資料の提出に加え、「事業に実態性があるか」「事業場所に独立性があるか(つまり、バーチャルオフィスやシェアオフィスではないか。バーチャルオフィスやシェアオフィスでの解説に応じてくれる金融機関もあるが、一般論としては厳しくなる)」などがポイントの一つになります。
加えて、「実際に事業が行われており、取引相手など実態があるか」、また、「社会的に適正な事業が行われているか」などが明確に問われます。
ですので、自社で行っている事業や商品、取引先、業務内容などに関して、どんな人でもわかるように整理しておくことが、銀行口座開設の上で重要になります。
法人の銀行口座開設について
それでは、法人の銀行口座開設に関して、
- 手続きの期間
- 手続きの流れ
- 法人口座と一般的な口座の相違点
- 法人口座開設で失敗しないための留意点
を主体に解説します。
法人口座開設にかかる手続きの期間
法人口座開設にかかる期間は、ネットバンクで概ね2~3週間、通常の金融機関に関しては即日~1ヶ月と幅があるようです。
ちなみに、税理士や専門家、既に金融機関と取引のある経営者の紹介、また個人で既に口座を開設している金融機関だと、金融機関側としても比較的安心して口座開設ができます。
一方、事業内容や資料、事務所の形態などによっては、時間がかかる可能性もあります。
法人口座開設手続きの流れ
法人口座開設の手続きの流れとしては、一般的な金融機関とネットバンクで多少異なりますので、例を挙げてみましょう。
一般的な金融機関
- 事前に金融機関に電話、訪問日時を予約(口座開設を確実にするには、税理士など専門家の紹介が望ましい)
- 必要書類を確認し、予約後金融機関を訪問
- 審査を受け、口座開設を待つ(後日通知・郵送というケースが多い)
ネットバンク
- Web上で必要書類を提出
- 審査を受ける(GMOあおぞら銀行のように、最短1営業日で審査を行う金融機関も)
- 口座開設の書類・キャッシュカードを受け取る
など、ネットバンクの方が敷居が低いと言えます。
また、都銀・地銀・信用金庫・信用組合など通常の金融機関では、規模が大きいほど審査が厳しい傾向にあります。
加えて、地域密着型の会社であればあるほど、地元の金融機関と付き合いがあった方が、振込手数料や、アライアンスを組める顧客の紹介、融資などプラスの点も想定されます。
地元の金融機関とネットバンクの両方、できれば複数開設することをお勧めします。
法人口座と一般的な口座の相違点は?
法人口座は、口座に株式会社であれば読み仮名に(カ、合同会社であれば(ゴと付くため、法人の口座であることが容易にわかります。
また、法人口座の場合は、給与や支払いなど大量の送金に対応するシステムや、個人口座に比べネット銀行のセキュリティ・機能が強化されているケースも多いです。
ただし、法人、特にネットバンク以外の場合は、ネットバンキングサービスの手数料が毎月毎にかかるケースもあるので、その点は留意が必要です。
法人の銀行口座を開設するのに必要な書類
まず、法人の銀行口座開設に必要な書類をリストアップしてみましょう。
法人により書類の内容は異なりますが、一般的に多く求められる書類を挙げてみましょう。
- 法人の印鑑登録証明書
- 履歴事項全部証明書
- 手続者の本人確認資料(運転免許証など)
- 法人の定款や事業概要がわかる資料
- 本人ではなく代理人が行う場合は、代理人の本人確認資料と委任状
- 主たる事業で許認可が必要であれば、許認可証の写し(有効期限内であること)
- 本店か主たる事務所の建物登記簿謄本または賃貸借契約書の写し
- 本店と場所が異なる場合は、口座開設希望店舗の最寄りの事業所の建物登記簿謄本または賃貸借契約書の写し
- 実質的支配者が外国人の場合、英字名の名称がわかる書類
(また、資料によっては発行後3ヶ月から6ヶ月以内など期限があるケースも存在しますので、口座開設時に、各書類の締め切りを確認してください。)
金融機関によっては他にも書類を求められるケースがあります。
これから会社設立する、という方には、なじみのない言葉も多いと思いますので、それぞれの提出書類に関して説明します。
法人の印鑑登録証明書
法人設立時に、法務局から受け取る印鑑証明書です。追加発行も、会社設立時に受け取る「「印鑑カード」を利用して、法務局で発行してもらいます。
履歴事項全部証明書
法人が設立され、その後の役員や資本金の変更なども含め、会社に関わる重要事項の変動を記録した書類です。
法人の定款
会社設立の手続きの際に作成し、株式会社の場合は公証人役場での定款認証(公証人という方に、会社の決まりの書き方が問題ないかを検証・証明してもらう手続き)を受け法務局に提出する書類です。(合同会社に関しては、公証人役場での定款認証は不要)
定款は、「会社の役員名」「所在地」「事業の目的」「資本金」「その他会社に関する様々な決まり」が詰め込まれた重要書類です。
許認可証
事業によっては、建設業・宅地建物取引業など、管轄官庁の許認可取得や届出が要される物も少なくありません。
そのような業種の場合、事前に許認可・届出を行い、事業の許可証を取得しておく必要があります。
建物登記簿謄本または賃貸借契約書の写し
銀行としては、建物が本当に法人所有、もしくは法人が借り受けるという契約を結んだかどうかを確認する必要があります。その確認書類として、建物が本人所有であることが書かれている建物登記簿謄本や、法人の名前が書かれた賃貸借契約書が必要です。
以上のように複数の書類がありますので、申込の際は事前にしっかりと確認しましょう。
書類提出前に確認したいポイント
資料提出前には、書類そのものの不備に加え、法人設立時から注意しておくべき内容もあります。
書類以外の部分に関しては、法人設立を完了させてしまってからの場合、法務局での再登記・必要に応じて司法書士への依頼など非常に手間とコストがかかりますので、設立時に注意しましょう。
資本金の金額
現在の会社法では、株式会社の資本金は1円からでも設立する事は「一応」可能です。
しかし、金融機関から見て、事業のための手元資金が1円しかない会社を信頼する、というのは極めて難しいでしょう。
一般的には少なくとも100万円、ある程度余裕がある会社の場合は、以前の有限会社の設立基準の300万円を用意するケースが多いです。(ただ、資本金が数十万円台でも口座開設ができているケースは多いので、資本金が100万円ないから口座開設もだめ、ということではないです。
事業内容が明確に書かれているか
事業内容が明確に記載されているかは重要なポイントの一つです。
これは、定款の「会社の目的」部分に具体性のある事業が書いてあることや、事業概要の説明書などで、「当社はこういう事業を行い、取引先はこちらです」と示せる事が重要になってきます。
前述の通り、金融機関は振り込め詐欺などの口座に、法人口座が悪用されることや、反社会的勢力に口座を開設させてしまうこと、また事業実態のないペーパーカンパニーの口座が開設されてしまうことを非常に警戒しています。
事業内容や取引先、固定電話、ホームページ、請求書・領収書など、事業実態が明確にわかる資料をできるだけ用意することが望ましいです。
登記上の住所にオフィスがあるか
登記された住所にオフィスがあるかという問題も重要です。
金融機関が、会社が実際に業務を行っているのか、またどのような業務を行っているのかをチェックするケースが多いようです。
地域密着型の金融機関になると、あいさつも兼ねて会社の業務実態調査に行くというケースも考えられますし、ネット銀行などでもホームページ・固定電話の有無・所在地の確認などを何らかの方法で行うなど、オフィスの実在性に関しては、きちんと調べられると考えた方が良いです。
また、レンタルオフィス・バーチャルオフィスでも口座開設をできる可能性はありますが、金融機関の審査姿勢によっては、口座開設が厳しくなる可能性がありますので、そちらも留意しておいた方が良いです。
まとめ
法人が金融機関の新規口座開設を行うことは、以前に比べかなり時間がかかり、審査も厳格になりました。
そのため、会社設立前からできるだけ専門家へ相談、手続きを依頼し、綿密な計画を練っておくことが必要です。
Webサービスなどで簡単に会社設立ができることを謳うサービスもありますが、会社設立には、口座開設を始めとする、設立後の落とし穴も多くあります。
ぜひ最初の時点から専門家に相談・依頼する事を強くお勧めします。