作成日:2020.12.10  /  最終更新日:2020.12.28

会社設立で税務署に出す必要書類とは【提示先や期限などを解説】

会社設立の手続の中で、忘れてはいけないのが、税務署への書類提出です。

会社の設立登記が終わると、「ひととおり仕事は終わった・・・」という気持ちになるかもしれませんが、会社設立後の手続に関しても、漏れがないように注意して行う必要があります。

顧問税理士と契約していれば、税理士が会社設立後の税務手続を一括して行ってくれます。

しかし、顧問税理士との契約がない場合は、全て経営者が行う必要があります。

なお、会社設立を代行する専門家に依頼した場合は、税理士と連携し、必要書類の提出を行ってくれるケースも多いため、可能であれば会社設立依頼時に、その後の手続もまとめて依頼しておくことが望ましいです。

毎年決算期に提出する書類に関しては、複雑かつ量が膨大です。

意外と周囲の話で聞くのが、「当初、税理士費用がもったいない、個人事業の時は自分でもどうにかなったので、自分でやろうとした。しかし、申告直前でフタを開けてみたら、あまりにも複雑で自分でできないことがわかり、混乱。そして、いろいろな税理士を回って何とか記帳代行と申告を引き受けてもらった」という話です。

法人の場合、個人事業の時では考えられないくらい書類が複雑です。

最初の時点から、「記帳・決算を税理士に依頼」することをおすすめします。

当記事は、あくまで、「法人の決算は、これだけ複雑なんだ」ということを把握する意味合いで読んでいただければと思います。

税務署への提出書類【会社設立の手続きにおいてマスト】

税務署へ提出する書類の中で、マストともいえる書類は、「法人設立届出書」「給与支払事業所等の開設届出書」「青色申告の承認申請書」の3点です。

まず、開業時の全ての書類で注意すべき点として、

  • 各種書類提出時は、同じ書類を2部作成し、管轄する役所に1部は提出、もう1部は受領印を押して返却してもらう
  • 類提出は郵送でも可能だが、必ず2部同封、1部は返却用として、返信先を書き切手を貼った封筒を同封すること

に留意し、全て税務署の受領印がある「控え」を受け取り、保管しておくことです。

税務手続で怖いのが、書類を受け取った・受け取っていないになってしまうことです。

例えば、青色申告の承認申請書を提出したつもりだったが、控えを受け取っておらず、決算の時に青色申告の内容で書類を作成してもらったが、税務署からは「青色申告の承認申請書を受理していない」と言われる可能性も、けしてゼロではありません。

もしこのときに、青色申告の承認申請書の提出控えがあれば、「このときにきちんと申請しています」といえるのですが、もし手元に提出控えがない場合は、「青色申告の承認申請忘れ」ということで、来年から青色申告を行うなり、税務署や税理士と内容の修正に関して協議するなど、大変な時間的負担や、書類の再作成コスト、青色申告の特典の消滅など、様々な意味でマイナスとなります。

また、青色申告については、期限内の提出が必須とされており、提出遅れ(特に2回以上)が発生すると、青色申告の承認が取り消され、赤字の繰り越しなどもできなくなる恐れがあります。

ともかく、書類関係に関しては、提出した、していないの水掛け論にならないよう、必ず収受印をもらうことや、提出書類を手元で保存しておくことが重要です。

マイナンバーカードの法人設立ワンストップサービスで手続ができると言われているが・・・

マイナンバーカードを用いたサービスで、マイナンバーカードによる、「法人設立ワンストップサービス」という制度があります。

サービス名だけを見ると、マイナンバーカード一枚があれば、会社設立やその後の手続が全てできてしまうのだ、という印象を受けますが、実際はまだ完成途上のサービスです。

まず、会社設立に関する一連の流れである、

  • 法人の基本情報の決定
  • 個人実印、会社実印の作成(現在の脱印鑑の流れで、このプロセスがどう変わるかが気になります)
  • 個人実印の登録 / 個人実印の印鑑証明書取得
  • 定款の作成
  • 定款の認証
  • 発起人の個人口座への入金又は振込
  • 法人登記のための書類等準備と設立登記
  • 証明書の取得
  • 法人番号までの取得

ここは全て、マイナンバーカードを用いた法人設立ワンストップサービスでは「未対応」です。

法人設立ワンストップサービスという名前を見ると、会社設立からその後の手続までまとめて行ってくれそうに見えますが、実際は違います。

現状では、法人設立が「終わってからの手続」をまとめて行ってくれるのが、「法人設立ワンストップサービス」なのです。

また、このサービスもいろいろ課題があります。

法人設立ワンストップサービスで可能な手続を列挙してみましょう。

  • 法人設立届出
  • 給与支払事務所等の開設等届出
  • 消費税の新設法人に該当する旨の届出
  • 青色申告の承認申請
  • 棚卸資産の評価方法の届出
  • 減価償却資産の償却方法の届出
  • 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出
  • 申告期限の延長の特例の申請
  • 消費税課税事業者選択届出
  • 消費税簡易課税制度選択届出(令和1年7月1日以後提出用)
  • 消費税課税期間特例選択・変更届出
  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
  • 電子申告・納税等開始(変更等)届出(税理士代理提出・法人開始用)
  • 消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出
  • 事前確定届出給与に関する届出
  • 法人設立・設置届(都道府県)
  • 法人設立・設置届(市町村)
  • 申告書の提出期限の延長の承認申請
  • 事業所等新設・廃止申告

以上のように、後ほど述べる手続も含めて、比較的多くの手続が法人設立ワンストップサービスでできるように見えます。

また、法人設立関連手続かんたん問診というサービスで、どの書類が提出を要するかを教えてくれるようにもなっています。

しかし問題は、このかんたん問診サービスが専門家ではなく「普通の人には簡単ではない」ということです。

例えば最初の、「法人番号を取得していますか」という質問で、唐突に「法人番号」という言葉が出てきます。

会社設立が初めての人は「法人番号って何?」となるかと思います。

さらに質問を進めて行くと、このようなものも出てきます。

  • 法定の帳簿または法定の書類を備付け、日々の取引を正確に記録し、それらを保存することを条件に、青色申告の承認を受けた場合は、以下のような課税特典が受けることができます。課税特典を受けるために青色申告の承認申請の届け出を行いますか?
  • 棚卸資産の評価方法は6種類ありますが、届け出をしなかった場合は、自動的に「最終仕入原価法による原価法」という評価方法が適用されます。届出をすることで、会社の業種や取扱い商品などに応じた適切な評価方法を選ぶことができます。提出しますか?
  • 棚卸資産の評価方法を、「最終仕入原価法による原価法」以外での評価方法にするための届け出を行いますか?

など「17個」の、専門用語だらけの質問が出てきます。

まず、よほど税務に関して勉強している人ならともかく、普通の人なら、「簡単じゃない・・・」といいたくなると思います。

この質問の意味がわかれば別ですが、普通の人は、最初から税理士に一任する方がずっと望ましいです。

この後も、必要書類についていろいろと記載しますが、「わからない・・・」それが当たり前です。

再三になりますが、ややこしいことをわかろうとするより、最初の書類提出の段階から、税理士に依頼するのが様々な意味でスムースです。

このことを踏まえた上で、「こういう制度なのだ」となんとなく理解するニュアンスで読み進めてください。

法人設立届出書

法人設立届出書は、全事業者必須の提出書類です。

  • 提出期限:会社設立日から2ヶ月以内
  • 提出先:納税地の税務署
  • 添付書類:法人設立届出書
  • 履歴事項全部証明書(写しも可)
  • 定款の写し
  • 株式名簿または社員名簿
  • 設立時の貸借対照表

以上をホッチキスで全て留めて提出

給与支払事務所等の開設届出書

給与支払事務所等の開設の届出も、全事業者必須です。

「うちは社員を雇わないから、そんな届けは必要ないよ」と思いがちですが、1人社長の場合でも、給与支払事務所等の開設の届出は必要です。

給与だけでなく専門家や外注への報償を支払う場合は、請求額から所得税(令和2年現在10.21%)を差し引いて、税務署へ納付する必要があります。

  • 報酬の支払期限:給与・報酬を支払った翌月の10日までです。
  • 提出期限:給与支払事務所等開設後1ヶ月以内
  • 提出先:納税地の税務署
  • 添付書類:なし

青色申告の承認申請書

青色申告の承認申請書は、必須ではないものの、ほとんどの場合法人設立届出書と同時に提出します。

青色申告の承認申請は、届出を行うことで、青色申告で法人税を申告することを承認してもらう書類です。

青色申告の承認を受けることで、下記のような特典が受けられます。

青色申告用の特別控除が受けられる 55万円、e-Taxを利用する場合は65万円
純損失(赤字)の繰越が可能 10年間赤字を繰り越し、途中の黒字と相殺できる(個人事業の場合は3年間)
家族への給与を必要経費にできる 仕事の内容によるが、家族が仕事を手伝っている場合は、業務内容に応じた給与を必要経費にできる
減価償却の特例 一式10万円以上30万円未満(税込)の固定資産を、一括で経費にできる
貸倒引当金の経費化 取引先が経営破綻したり、破綻しそうな場合、その金額を経費として引き当てることができる。

特に、法人の場合赤字の繰り越しが10年間可能というのはとても大きいといえます、

白色申告を行う場合は、提出する必要がないですが、法人を設立しているにも関わらず白色申告を行うのは、あまり合理性がありません。

実質的に、会社設立時の必須提出書類と考えておいた方が良いです。

税務署への必要書類【設立する会社のケースによって必要】

設立する会社のケースによって、必要となる書類も複数あります。

「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」、「棚卸資産の評価方法の届出書」、「減価償却資産の償却方法の届出書」など、聞き慣れない書類が多いですが、それぞれ見ていきましょう。

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

源泉所得税は、原則として徴収した日の翌月10日が納期限です。

ただし人数の少ない事業所の場合、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を、「毎月源泉徴収を支払うというのは手間であるから、年に2回、まとめて支払ってもいいですよ」という手続です。

対象事業者:給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者

メリット:給与や退職手当、税理士等の報酬・料金について源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税を年2回にまとめて納付できる。

  • 1月~6月分→7月10日
  • 7月~2月分→翌年1月20日

提出時期:定められていないが、提出した日の翌月に支払う給与等から適用のため、早めに提出

棚卸資産の評価方法の届出書

棚卸資産とは、仕入れのある業種に関わる内容で、一時的に保有している商品・原材料等の資産、いわゆる「在庫」です。

棚卸資産の評価方法の届出書で選択できる評価方法は、「原価法」「低価法」などがありますが、これに関しては税理士に相談し、業態に応じた方法を選ぶことが確実です。

対象事業者:棚卸資産の評価方法を選定して届け出る法人

提出時期:法人を設立した場合は、設立第1期の確定申告書の提出期限まで

減価償却資産の償却方法の届出書

「減価償却資産の償却」とは、元々税法で、「償却方法は資産ごとに決まっている通りに行う」のが原則ですが、それ以外の方法を行う場合に、減価償却資産の償却方法の届出書を提出する必要があります。

当書類に関しても、税理士と協議し、必要があれば提出するという考え方が望ましいです。

  • 象事業者:減価償却資産の償却方法を選定して届け出る法人
  • 提出時期:法人を設立した場合、原則設立第1期の確定申告書の提出期限まで

税務署への必要書類【決算申告で必要】

決算時に税務署へ提出する事が必要書類も、以下に並べているとおり、かなりの量にわたります。

率直に言って、難解なので専門家に依頼することが確実です。

ただし、「念のためこのような書類が必要である」という観点から、それぞれ解説します。

法人税申告書

まず、法人税申告書ですが、リンク先を見ていただくとわかるとおり、法人税申告書の関連書類だけでも相当な量になります。(ただ、この全部を提出するわけではなく、該当する物を提出します)

リストに連なる書類を見ていただくと、想像が付くかと思いますが、税理士でないと正直「?」となるかと思います。

なお、決算から2ヶ月以内に提出が必要です。

総勘定元帳

総勘定元帳は、仕訳帳の内容を勘定科目ごとに転記した帳簿です。

現在は会計ソフトが自動的に作成してくれますが、会計ソフト・クラウド会計ソフトというのは、会計の仕組みがわかっていないくても、なんとなく入力できてしまいます。

結果、税理士や税務署が見たら、「え?」と思うような帳簿ができあがることもあります。

最初の時点で間違いを入力してしまうと、後から修正が大変なので、税理士事務所に一任するなり、「自計化」といい、税理士事務所の記帳指導を受けた上で、適正な入力をできるようにすることを強くお勧めします。

領収書綴り

領収書を月別に分けて綴ります。(会社・税理士事務所の行う方法に従って下さい)

決算報告書

決算報告書は、一言で言うと「会社の成績表」です。

法人税法で作成が義務づけられている書類は、計算書類である「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」の3種類になります。

勘定科目明細書

勘定科目内訳明細書は、貸借対照表および損益計算書の各勘定科目の内訳明細が書かれた書類です。

資産・負債科目と損益科目が存在します。

消費税申告書

消費税申告書は、売上等諸条件により提出する必要があるケースもありますが、新設法人の場合は、消費税は関係がないケースが多いです。

具体的には、以下のケースで消費税の免税対象となり、消費税申告書提出は不要となります。

  • 資本金1000万円未満
  • 設立後、1期目・2期目の事業年度
  • 売上や社員の給与が6ヶ月で1,000万円を超えていない

法人事業概況説明書

法人事業概況説明書は、法人の現在の事業内容や状況、従業員、取引形態、主要科目など様々な項目を記載する必要がある書類です。

これに関しても、必要事項を全て網羅することは難しいため、具体的な記入項目はリンク先の表を参照いただきたいのですが、専門家でないと相当苦労する内容です。

税務代理権限証書

税務代理権限証書とは、税理士・税理士法人が税務手続の代理をする際に提出する書類です。

いわゆる世間で言う「委任状」に近い性質のものです。

地方税申告書

地方税申告書は、税務署経由で地方自治体に連絡される書類です。

例えば、東京都の法人都民税・事業税・特別法人事業税・地方法人特別税の中間・確定申告書の様式を見ていただくとわかりますが、こちらも膨大な量です。

期限は国と同じく、決算終了後2ヶ月以内となります。

税金に関しては、国に納付する国税と、地方自治体(都道府県・市区町村)に納付する地方税があります。

書類の提出先は、どちらも税務署、つまり国の機関になります。

難易度が難しい書類が多いため専門家に依頼もベター

以上、会社設立時に税務署に出す必要書類と、会社設立後、決算期毎に出す必要書類に関して、字幅の許す範囲で説明を加えました。

率直に言って、会社設立時はともかく、毎年提出する義務のある書類作成に関しては、難易度が高い書類が極めて多いです。

ここまでで再三繰り返したように最初の時点から手続、毎月の記帳を税理士に依頼(もしくは税理士の指導の下、自社で入力する自計化)し、毎年の決算も税理士に一任することが重要です。

税務申告で頭を悩ませても、売上は伸びません。

そのエネルギーを、事業活動や決算書の分析等、作業ではない、「事業」「経営」の部分に振り分けることを、強くお勧めします。