会社設立を検討している人の中には、設立費用の安さや、設立にかかる速度の速さなどから、合同会社で会社設立を考えている方もおられるでしょう。
以前は合同会社というと、知名度などで株式会社よりもマイナーな存在でした。
しかし現在は、合同会社の数も増え、大手の外資系企業でも、合同会社に組織変更をする会社が出ています。
会社法ができたばかりの2006年当時ならともかく、現在においては、合同会社も比較的知名度が向上しています。
そのため、合同会社で会社設立をしようかと考える際に、「一体どれくらいの費用から設立ができるのか」ということに関して触れていきたいと思います。
目次
合同会社は会社設立の法定費用が6万円+アルファで収まる
合同会社は株式会社と異なり、会社設立にかかる法定費用が6万円+定款を行政書士に電子定款にしてもらう手続費用(3,000円~8,000円程度)だけで設立できます。
後ほど比較しますが、株式会社と比較すると、法定費用だけで約14万円も安くなり、株式会社の場合に時間がかかると言われる、「公証人役場での定款認証」が存在しないため、1週間~10日程度、設立期間も早くなります。
定款認証がいらないため約5万2千円が不要
合同会社の場合、株式会社と異なり、公証人役場での定款認証手続が不要です。
株式会社設立の際に必須とされる、公証人役場での定款認証手続は、非常に手間とコストがかかります。
定款の認証手数料自体が5万円かかり、加えて、定款の枚数につき1枚250円の謄本交付手数料がかかります。
一般的な量の定款である場合、謄本交付手数料は約2千円程度のため、合計約5万2千円が定款認証にかかります。
登録免許税が最低6万円から
株式会社の登録免許税は最低15万円からですが、合同会社の場合、登録免許税が最低6万円からと、かなり安くなります。
計算は、資本金×1000分の7と、6万円で高い方を納付することとなります。
資本金×1,000分の7が6万円を超える場合の資本金は、858万円で、この場合、登録免許税は60,060円となります。
合同会社を設立するケースで、資本金として858万円以上を用意するケースというのは考えにくいので、合同会社を設立するケースでかかる登録免許税は、原則6万円と考えておくと良いでしょう。
電子定款で印紙代4万円を節約できる
電子定款を利用することで、印紙代(定款にかかる印紙税)を4万円節約できます。
意外とよくある誤解ですが、ワープロソフトなどで、定款のデータを作れば電子定款として扱われると考える人もいます。
しかし、実際の所は、定款を電子データとして作成しただけでは、電子定款として認められません。
必ず行政書士などの、定款に電子署名作業のできる専門家に、定款への電子署名・電子化を依頼する必要があります。
万一事業開始後に税務調査が入った場合、印紙の不貼付で、4万円の3倍、12万円の過怠税が課されることになります。
その点、書籍やWebサイトで説明が抜け落ちているケースもあるので、「合同会社なら、印紙を貼らなくてよい」「電子データで作れば、それで電子定款として扱われる」という誤解がないよう、注意が必要です。
株式会社と比較する法定費用は14万円2千円も安くなる
合同会社と株式会社を設立するための法定費用は、14万円2千円も違います。
例として、500万円の出資を行い会社を設立、自身で手続を行い、定款は電子定款で作成(手数料双方5,000円)、印鑑は安価な10,000円のセットを購入という仮定で計算します。
費目 | 合同会社 | 株式会社 |
登録免許税(法務局で登記時に納入) | 60,000円 | 150,000円 |
定款の電子化手続手数料 | 5,000円 | 5,000円 |
公証人役場での定款認証手続 | 不要 | 約52,000円 |
印鑑購入費用 | 10,000円 | 10,000円 |
登記事項証明発行費用・印鑑証明書発行費用など雑費 | 約3,000円 | 約3,000円 |
合計 | 約78,000円 | 約220,000円 |
これは、本当に最小限の手続を、定款の電子化以外は全て自分で行うという仮定です。
実際はこれに専門家報酬が合同会社で3万~7万円、株式会社で5万円~10万円程度(複雑な場合や、きちんと定款などを作り込む場合は、これ以上になることもある)を見ておくとよいでしょう。
いずれにしても、合同会社であれば、最低でも約142,000円は節約できますし、専門家報酬も安価な傾向が多いです。
合同会社設立後の費用は株式会社とあまり変わらない
一方、合同会社を設立した後の費用は、株式会社とさほど変わりません。
ただ、2点だけ違う点があります。
株式会社と変わらない点、変わる点に関して詳しく説明します。
株式会社と変わらない費用
登録免許税が株式会社よりも安いので、いろいろな諸費用も安いのでは・・・と思われがちですが、株式会社と費用が変わらないケースも多いです。
法人税
法人、いわゆる会社に対してかかるお金に関しては、合同会社・株式会社とも代わりはありません。
法人にかかる税金をリストアップします。
種類 | 具体的な内容 |
法人税 | 個人でいう所得税で、会社の利益に対し課税される |
消費税 | 設立2年以内で一定の条件に当てはまる法人、前々年度の売上が1,000万円以下の法人は免税となるが、それ以外は課税 |
印紙税 | 紙の契約書、定款などに収入印紙を納付することで納税 |
登録免許税 | 会社設立時や、役員変更など法務局への手続の際に主にかかる |
法人都道府県民税 | 都道府県に納付される税金。東京都23区の場合は、都民税と市町村民税をまとめて支払う |
法人市町村民税 | 市町村に納付される税金 |
事業所税 | 事業所の所在地に支払う税金で、23区や人口30万人以上の都市、政令指定都市などで課税されるが、規模の大きい会社が対象のため。起業したばかりの会社の場合対象になる可能性は低い |
地方消費税 | 消費税のうち、地方に納める分 |
固定資産税 | 土地建物等の固定資産にかかる税金 |
都市計画税 | 都市計画区域内の建物にかかる税金 |
自動車税・軽自動車税 | 自動車・軽自動車1台毎にかかる税金。自動車税は都道府県に納付、軽自動車税は市区町村に納付。 |
上記の中で、特に重要な税金に関して、いくらかかるのか?という観点で表を作成し説明します。
法人税住民税の均等割(社員50人以下と仮定)
資本金等の額 | 均等割額 |
1,000万円以下 | 7万円 |
1,000万円超~1億円以下 | 18万円 |
法人税・法人事業税・法人住民税(都内の場合)をまとめた実効税率
会社の課税所得 | 実効税率 |
400万円以下 | 21% |
800万円以下 | 23% |
1,000万円以下 | 34% |
1,000万円超(都内と仮定) | 34.5% |
このように、実効税率は1,000万円を超えると30%代に跳ね上がり、負担が大きくなります。
他にも税金に関しては、ぜひ税理士に顧問を依頼し、税理士とのこまめなコミュニケーションを図りながら、考慮するようにしてください。
専門家の顧問料
専門家の顧問料に関しても、合同会社だから安くなるということは基本的にないと考えたほうがよいでしょう。
合同会社の設立自体は、株式会社と比べ「公証人役場での定款認証手続」という工程がないため安くなります。
しかし、税理士・社会保険労務士など専門家の顧問料は、依頼主の年間売上や訪問回数など、実務にかかる工数をもとにかかるため、合同会社だから顧問料が安くなるということはありません。
オフィスの賃料など
会社設立後にかかるランニングコストには、税金、顧問料の他に、
- 社会保険料
- 事務所の賃料
- 社員の雇用にかかる給与や各種費用
などがあります。
ただし、どれも合同会社だから安くなるということはなく、株式会社の場合と同等の費用がかかると考えておく必要があります。
株式会社と変わる費用
ここまで見ると、合同会社と株式会社のランニングコストには全く違いが無いように見えますが、実は2点ほど違いがあります。
毎年の決算公告義務がないため、決算の官報への掲載費用がかからない
合同会社の場合は、毎年の決算を、官報やインターネットを用いて公に知らせるという「公告」の義務がありません。
この義務がないため、あえて、プライベートカンパニーなどとして合同会社の形態を選ぶ人もいるくらいです。
例えば、芸能人・アーティスト・スポーツ選手・漫画家などは、節税のために法人を設立する人が意外といます。
もちろん、株式会社を設立する有名人もいますが、新規で会社を立ち上げる有名人などだと、合同会社という形態を選択する人もいます。
株式会社だと、所在地がどこで、代表者名、決算の概要などを公に知らせる必要があるため、「この著名人はいくら儲かっているな」というのが、調べれば官報などでわかってしまう可能性があります。
合同会社であれば、決算の公告義務は存在しませんし、掲載に関するコストを払う必要はありません。
決算公告の意外なコストと、安価に見える電子公告の注意点
株式会社の場合は、官報もしくは電子公告という形で、決算を毎年掲載する義務があります。
官報だと概ね70,000円、電子公告だと無料(自社HP)~2万円程度と、環境や依頼会社により変わります。
官報は費用が高いですが、それでも意外と官報を使う会社が多いです。
なぜなら、官報の場合、簡易な決算内容だけで良いからです。
電子公告の場合は、公告するホームページを法務局に登記した上で、5年分の決算書類の全文公開が必要となります。
さすがに、電子公告は費用が安いとはいえ、5年分の決算書類全文を、不特定多数が見るインターネットに公開する、というのは抵抗感がある経営者もいるでしょう。
自社がどれくらい儲かっているか、何にお金を使っているかが、第三者から容易に見られてしまうわけですから。
そのため、書籍やサイトなどでは「迷ったら官報に掲載」としておくケースが今も多いのです。
合同会社の設立代行の費用は、一般的なボリュームゾーンで条件付き0円~5万円前後
合同会社の設立代行の費用は、条件付き0円~5万円程度が多いです。ただし、
- 現物出資を行う
- 会社形態に関し、しっかりした工夫を考えたい
- 経営相談、融資相談などもお願いしたい
というケースに関しては、ボリュームゾーンを越えるケースが想定できます。
事務所にもよりますが、しっかりしたサポートを行う事務所は相応の値段、定型的な手続を行う事務所は安価と思っておいた方がよいでしょう。
なお、株式会社との設立費用を比較すると、「定款認証手続」のプロセスがないことから、合同会社の方が1万円~5万円程度安いです。
合同会社の設立代行費用が0円の理由は
合同会社の設立に関して調べると、「合同会社設立代行無料!」と強くアピールする税理士事務所や、会社設立代行会社を見かけることがあるかもしれません。
会社設立代行会社によっては、登録免許税や印鑑代も含めて0円としているところもあります。
このような設立代行会社は、明確な理由があって「設立費用」を0円としています。
税理士事務所の場合は、グループ内や提携する行政書士・司法書士事務所で会社設立を行い、「1年など一定の期間、顧問契約を結んでもらう」という形になっているケースが多いです。
つまり、会社設立後も様々な形で関与してもらう形となります。
それゆえに、長期の付き合いをできる事務所であるか、担当者は信頼できるかなどをしっかりと見据えるとよいでしょう。
もう一つのケースでは、「0円で会社設立」という形で、会社設立等各種費用が無料になる代わりに、会社設立代行業者がお勧めする様々なサービスを利用する前提のプランもあります。
これに関しても、無料の代わりに、事業者が紹介するサービスを利用することに対して納得がいけば活用してみる手もあります。
よりきちんと相談して会社設立をしたいなら、有料である程度の価格の事務所に依頼も
会社設立の諸手続に関して、「合同会社として一般的なパターンで、特に工夫の必要もなく、ひな形通りの会社を設立でき、手続を代行してくれればよい」というケースであれば、値段を主体に選んでも良いかもしれません。
ただし、無料や安すぎる事務所の場合で、下記のケースは注意が必要です。
- 無料になる分、いろいろと高価なサービスを利用する条件がついてくる
- 安価ではあるが、手続の一部を会社設立者自身が行わなければならない
以上のようなサービスについては、注意が必要です。
非司法書士行為に注意!
安いけれども、一部の手続を会社設立者自身がやるというケースに関しては、注意が必要です。
例えば、行政書士事務所に会社設立を依頼した場合、その行政書士が司法書士の資格を有していない場合、一般的には提携している司法書士経由で会社の登記を行います。
しかし、「行政書士が書類を作り、会社設立をする人自身に申請させる」というケースがあれば、そのサービスは控えた方がよいです。
登記の手続・書類作成は原則司法書士のみが行える行為です。
行政書士が登記手続の書類を作成し、本人に提出させるということは、厳密にいうと司法書士法違反になる恐れがあります。
多くの行政書士は、きちんと司法書士に依頼し登記を行っているかと思われます。
しかし、万一行政書士から「登記書類を本人提出でお願いしたい」と言われたら、依頼自体を考え直した方が望ましいといえます。
まとめ
以上の通り、合同会社で会社を設立する場合の費用は最低いくらかかるのか、また、実費や専門家費用などはいくらかかるのか等に関して言及しました。
会社設立の手続は、確かに自分で行えば、専門家費用はかかりません。
しかし、会社設立の手続で費やす時間を考慮したり、会社手続にいくら労力を費やしても、実際の事業での利益には繋がらないことを考えると、最初から専門家に一任することが望ましいと言えます。
また、専門家に手続を依頼する上では、自身が「会社に何を求めるのか」「専門家に何をしてもらうのか」をクリアにしておくことが必要です。
例えば、会社設立だけでなく、その後の資金調達や許認可・届出の手続を併せて行ってもらったり、資本金を現物出資したりするなど、「定型的なパターンの会社設立」ではなく、なにかプラスしてもらうことがある場合は、「専門家にお願いしたいこと」を事前にまとめ、その要望を含めて実現してくれる専門家を考えることが重要です。
また、会社の会計に関しては、税理士の関与がほぼ必須といえます。
人を雇う場合は、社会保険労務士の関与も必要になってきます。
このように、ただ会社を設立するだけでなく、設立後の手続も含めて、ワンストップで行ってくれる専門家を活用するという視点が望ましいと言えます。