作成日:2020.12.17  /  最終更新日:2020.12.28

会社設立で資本金は平均いくら?【17業種別のデータから読み解く】

会社設立を行う際、資本金をどれくらいの金額にしようか迷われる方は多いと思います。

書籍やサイト等を見ても、数十万から数百万等、様々な意見があります。

当記事では、17業種の資本金の平均額がどれくらいあるのか、業種によってどれくらいの資本金の平均額を用意するのが望ましいかについて分析します。

また、資本金の決め方や会社の設立にかかるお金の話等も解説します。

会社設立するだけなら資本金は最低1円でもOK

まず、大前提として、会社設立だけなら資本金は1円からでもOKです。

ただし、実務上は資本金1円というケースは極めてまれです。

なぜなら、資本金1円で会社を設立する事は、下記のようなデメリットに繋がるからです。

  • 資本金は法務局で第三者でも確認でき、資本金1円とわかるとビジネスに対する姿勢を疑問視される
  • 資本金1円だと、すぐに債務超過状態に陥る
  • 業種によっては、資本金や財産が一定以上ないと許認可・届出ができずに、ビジネスがスタートできないケースがある

そのため、大抵の業種では、1円~数万円程度の資本金で設立することは極めてまれといえます。

設立登記に伴って法定費用は6万円以上必要

「資本金1円から会社を設立できる」という言葉が一人歩きし、「1円から会社を設立できる」と誤解される方がまれにおられます。

しかし、あくまで1円で良いのは、「資本金」のみです。

会社を設立登記するだけでも、法定費用(法律上かかってしまう実費)だけで最低6万7千円+αがかかります。

株式会社と合同会社でかかる費用が異なるため、表にしてみましょう。

最低限かかる法定費用

株式会社 合同会社
法人の登録免許税 150,000円~ 60,000円~
公証人役場での定款認証 約52,000円 なし
行政書士等による電子定款作成費用(紙の定款でも良いが、4万円の印紙を貼付する必要あり) 7,000円前後 7,000円前後
その他全部事項証明など書類取得 数千円 数千円
合計 約210,000円前後~ 約67,000円前後~

このように、取得する書類等によって若干値段は前後しますが、概ね会社設立(合同会社)で一番お金をかけないパターンでも、67,000円+アルファの費用がかかると考えておく必要があります。

つまり、会社を設立する上では設立費用+資本金の2つがかかり、1円で会社を設立するということはできないのです。

また、専門家に依頼し、きちんと手続を行おうとすると、若干費用が上乗せされます。

専門家に依頼する場合の費用

株式会社 合同会社
法人の登録免許税 150,000円~ 60,000円~
公証人役場での定款認証 約52,000円 なし
専門家報酬・電子定款作成費用 40,000円~80,000円 40,000円~7万円
その他全部事項証明など書類取得 数千円 数千円
合計 約242,000円前後~ 約100,000円前後~

ただ、専門家に依頼することで得られる手続の正確性・時間の節約を考えると、専門家に全部依頼することがおすすめです。

いくらが良い?会社設立時の資本金の目安

会社設立費用と同時に考える必要がある、会社設立時の資本金ですが、業種・業態により多様です。

事例を検討してみましょう。

まず、一般論の一つとして、想定される運転資金の、3ヶ月~6ヶ月を用意しておくとよいという意見があります。

資本・資金の余裕は、経営の余裕に繋がります。

逆に、運転資金の1ヶ月や2ヶ月程度の資本金だと、初月や2ヶ月目から十分な売上を出していかないと、すぐに経営が成り立ちにくくなります。

どうしても、資金が少ないと、目先のことばかりを考えた経営になってしまいます。

ビジネスに対し余裕を持って接するためにも、運転資金に余裕を持たせることは重要と言えます。

設備投資などが不要なら10万円でも良い

資本金は、事業で想定される初期費用や運転資金等が大きな判断材料となります。

そのため、設備投資をさほど要しない、自宅でのコンサルティング業・IT業(Webデザイン・ライティング)等は運転資金が低くなるため、資本金10万円~100万円でも問題ありません。

(ただし、すぐに売上が見込める取引先がないと、あっという間に債務超過になりますので、事前にクライアントを開拓しておく必要があります)

また、さすがに資本を要しない業種であっても、数千円・数万円などの資本金は、第三者に違和感を与える恐れがありますので、お勧めはしにくいです。

オフィスも借りる場合は最低100万円以上

自宅兼事務所の場合は、10万円・数十万円の資本金でも問題ないですが、オフィスを借りる場合は最低100万円以上を用意する必要があります。

「100万円」というだけで高そうに感じますが、これはあくまで「最低限のオフィスを借りるときの条件で、きちんとしたところを考える場合は、相当な費用を準備しておく必要があります。

例えば、約30平方メートル・築45年以上・新宿の雑居ビルという条件の安価な物件でも、賃料が115,000円、敷金が345,000円と、460,000円がかかります。

この費用に、電気代・水道光熱費・内装・備品などが入れば、すぐ100万円を超える出費になるでしょう。

ここから、もっときれいで、広くて、立地の良い・・・となると、すぐに数百万単位の初期投資が必要になります。

100万円というのは、オフィスを構える上での最低レベルと考えた方がよいでしょう。

許認可・届出で資本金・現預金が確認される場合は、求められる以上の額

許認可・届出が必要な一部の業種では、一定以上の資本を用意することが求められます。

一例として、一般建設業許可は、500万円以上の資本金、特定建設業許可は2,000万円以上の資本金(+4,000万円以上の自己資本)が必要になります。

他にも、人材派遣業の場合2,000万円以上の資産、貸金業の場合は500万円以上、旅行業の場合は300万円以上、有料職業紹介業の場合は500万円以上など、資本金なり自己資本に一定の基準を設ける会社は少なくありません。

資本金に基準を設ける業種は、財務に余裕がないと、顧客に不利益が出る業種に多いです。

例えば、旅行業で、少ない資本で創業し、経営破綻をすると、顧客がツアーを利用できなくなるなど不利益が多く出ます。

また、建設業で建設を依頼した会社が、建設途中で破綻してしまうと、建物は建たなくなり、購入者が被害を被ることになります。

このように顧客保護という観点から、許認可・届出の要件として資本金を指定しているという業種も意外と多いのです。

平均いくら?17業種別の資本金

17業種の資本金の割合を集計した総務省統計局の経済センサス統計ガイドを見ると、電気・ガス・熱供給・水道業や運輸業、郵便業、鉱業、採石業、砂利採取業など、多額の設備投資を要する業態以外では、300万円~500万円の資本金が多い傾向にあります。

2006年に会社法が改正される以前は、300万円が会社(有限会社)を設立できる下限の金額だったため、ある程度会社として信頼を得られる300万円~500万円のゾーンが多いと推測できます。

資本金300万円~1000万円が多い

全体的な統計を見ても、300万円~500万円に加え、500万円~1,000万円も含めると、過半数になる業種が多いです。

ただ、資本金が1,000万円を超えると、負担が増加する部分もあるため、あえて950万円、900万円など1,000万円をギリギリ下回る設定にする会社もあります。

1,000万円というのは、以前の株式会社の資本金として要される最低限度の額なのですが、後ほど述べる理由のため、あえてこの金額より若干少ない資本金のままでとどめているという会社は少なくありません。

1,000万円以下が多い理由

資本金1,000万円以下の会社が多い理由として、「税制面でお得な点があるから」という点があります。

具体例を見てみましょう。

消費税の免税期間がある

売上等一定の要件はありますが、資本金1,000万円以下で設立された会社は2年間、消費税が免税となります。

また、個人事業から法人成りする場合は、本来は既に売上が1,000万円を超えて、消費税の課税対象になる事業者であっても、法人成りをすることで、新しい会社となり、消費税の免税期間が最大2年プラスされることになります。

法人住民税が安くなる

法人住民税の最低額も、資本金1,000万円の区切りで大きく変わります。

東京都の法人都民税の税率表を見ると、資本金1,000万円以下、従業員50人以下の会社だと、均等割で7万円からになりますが、資本金が1,000万円~1億円になると、18万円からとなります。

そのため、資本金が1,000万円を少し下回るように設定する、という法人も少なくないのです。

平均いくら?小規模事業者の資本金

具体的な平均データの統計は、公的サイトでは表示されていません。

ただ、資本金の分布を見ると、おおむね100万円~300万円前後がボリュームゾーンと見受けられます。

伝統的な産業ほど、小規模事業者であっても資本金を手厚くしている傾向があります。

小規模事業者では100万円以上が最多

小規模事業者、特に新しく創業した事業者や、IT業など新しく、設備投資を必要としないビジネスでは、100万円近辺の資本金というケースも多いです。

2016年の磐田商工会議所のアンケートを見ると、資本金100万円超~300万円以下という企業が27.7%を占めています。

ちなみに、日本政策金融公庫の融資も、以前は資本金(手元資本)の3倍までの借入が基本でしたが、現在は10倍まで借りられるようになっています。

とはいえ、10倍を借りようとする場合は、制度上は可能であっても、厳しい審査を受けて、問題ないと日本政策金融公庫側に認識してもらう必要があるため、できれば多めの資本を用意することが望ましいと言えます。

会社設立時に資本金を低くした場合の注意点

会社設立時に、資本金を抑える場合は、注意すべき点がいくつかあります。

前述の、日本政策金融公庫の融資を受ける場合だけでなく、資本が不充分であることによるデメリットは複数あります。

基本的な所では、資本金が少ないため、外部から信用を得られないという点が非常に大きいですが、他にも留意すべき点はあります。

資本金の少なさで倒産する企業が少なくない

資本金を最初十分に用意しておかなかったため、資本金の少なさゆえに、経営破綻してしまう企業は少なくありません。

会社を運営する上で、手元現金がなくなること、債務超過が発生することは、経営面で相当な難局にあるといえます。

ギリギリの資本で起業すると、

  • お金がないため様々な打ち手が打てない
  • 支払いができない
  • 資本金が少ないため、外部の会社から信用して貰えない
  • 毎月の乗り切るための仕事にばかり意識して、組織の中長期的なビジョンが描きにくい

など、問題点が多くあります。

そして、ただでさえ厳しい資本の中で、何かトラブルが発生すると、すぐに現金不足・経営破綻に陥る可能性が高くなってしまいます。

そのため、資本金を十分に用意するなり、資本金が限られる場合は最小限のコストで運営できる体制にするなど工夫をしないと、倒産の憂き目に遭ってしまいます。

節税目的の投資をやめ内部留保で倒産を回避

資本金が多くないうちは、節税目的での事業投資を控え、内部留保に回して自己資本を手厚くしておくことが必要です。

確かに、売上は使わないと税金で徴収されるという面はあります。

しかし、そこであえて税金を支払ったり、内部留保を手厚くすることで、金融機関や第三者の信頼を得やすくなります。

ですので当初は、節税より内部留保に目を向けていくことが良いでしょう。

まとめ

資本金をいくらにするかという点は、多くの経営者が迷う点と言えます。

一般論で考えると、資本金が大きいほど外部の信頼が得やすいのは事実です。

ただ、節税や、これから創業する人の手元資金という要素を考えると、最初から1,000万円なり、大きな資本金を用意するのはハードルが高いかと思います。

そこで、目的・用途に応じて、「この場合はこの資本金」という形で例示してみましょう。

  • 日本政策金融公庫から融資を受ける意志がある

日本政策金融公庫から融資を受ける場合は、融資を受けたい額の最低10分の1以上、できれば5分の1~3分の1を資本金として用意することが望ましいです。

日本政策金融公庫は、創業時の手元資金、そして手元資金の出所(創業者自身がこつこつと貯めた物か)を重視しますので、十分な資本金を用意しておくとよいでしょう。

  • ITや、大きな設備を擁しないフリーランスの法人化

資本をさほど必要としない業種、既に個人で信頼を得ているケースでは数十万円の資金でもさほど問題はありません。

法人によっては、10万円・30万円などの資本で設立されている会社もあります。

ただし、売上が入らないとすぐに債務超過になるので、取引先の構築や、いざという時に資本を増強できることは必要です。

  • 許認可・届出が必要な業種で、最低資本金や財産が設定されている

最低資本金や財産が設定されている業種では、それを基準に資本金を検討しましょう。

  • 特に資本金はこだわりがないが、一定の信頼は得たい

旧有限会社の設立基準の300万円以上がお勧めです。また、合同会社の場合、資本金が約860万円を超えると、登録免許税が最低基準の6万円を超えますので、多くても850万円程度の資本金に抑えておくのがお得になります。

いずれにしても、創業当初は「節税」という観点だけで言えば、1,000万円を超える資本金を設定する必要はありません

ただ、節税よりも、資本の大きさで信頼を得たいと考える場合は、1,000万円を超える資本金でも良いと言えます。

このように、資本金一つとっても、様々な切り口・考え方があり、資本金の設定においては多くの人が迷うかと思います。

確実な資本金を定めるためには、税理士や会社設立の専門家などに相談し、自身が創業する業種で最適な資本金を決めるのが望ましいと言えます。

税理士等の専門家は、様々な会社の資本政策・適した資本金などに精通していますので、自身で色々考えるより、専門家に相談した方が、的確な答えが望める可能性が高くなります。

また、取引を考える先だけでなく、外部も資本金をよく見ています。

資本に関して、「自分が取引先の立場であれば、この資本の会社と安心して取引できるか?」という視点も欠かせない物です。

資本金に関して考えると、様々な検討事項がありますが、やはり最終的には、手元にある資金をベースに、プロの知見を借りて、資本金を設定することが望ましいと言えます。