節税などの観点から、ケイマン・ケイマン諸島での会社設立を検討している方もおられるかと思います。ケイマン・ケイマン諸島はイギリス領に置かれタックスヘイブンと呼ばれる地域です。
タックスヘイブンは「租税回避地」と呼ばれ、多くの企業が租税回避の為に活用していますが、同時に各国が、租税回避に対する対策を講じ始めています。
今後さらに、租税回避に対応するための税制などの制度変更、各種手続の変更がなされる可能性もあります。加えて、新型肺炎がまだ収まりを見せていないという現在の社会情勢をふまえた上で、「専門家に十分に相談した上で」会社設立を検討することをお勧めします。
当記事では、ケイマン・ケイマン諸島で会社を設立するメリットやデメリット、手続の流れを紹介します。
目次
ケイマン・ケイマン諸島での会社設立のメリット・デメリット
ケイマン・ケイマン諸島は、先ほど述べた「タックスヘイブン」として、課税が免除される地域として有名です。(ただし、毎年の法人登録税はかかります)
タックスヘイブンの存在理由
ケイマン・ケイマン諸島に限らず、なぜタックスヘイブンが存在するのかというと、下記の理由が大きいです。
- 国内、地域の資源が乏しい
- 中核となる産業が存在しないか脆弱
- 富裕層の移住、企業誘致を促進したい
- 税を安くしても、会社設立費用や法人登録税、現地での企業活動などでお金を落としてくれる
このように税金をゼロか極端に下げても、国や地域としては、企業が来てくれることに関するメリットがあります。
タックスヘイブンでも、税務情報は世界で連携
現在は海外の税務当局と日本の国税庁が連携し、各種口座開設者の情報を相互に提供しています。また、日本に居住し、その年の「12月31日時点」で5,000万円を超える財産が国外にある場合は、翌年3月15日までに、国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を税務署に提出する必要があります。
この手続を怠り、(他の脱税と併せてですが)7千万円を超える海外預金等に関する財産調書を提出しなかったことで、追徴課税だけでなく刑事告発に至ったケースもありますので、税理士に正確な情報を出し、報告義務を果たすことが重要です。
税務当局のタックスヘイブン対策は進んでいる
2010年代後半から、タックスヘイブン対策税制として、タックスヘイブンで会社を設立・運営しても、「現地で活動実績がないペーパーカンパニー」と見なされると、日本の税制での課税対象となり、申告漏れや脱税として扱われる可能性もあります。
ポイントとして、「現地で営業しているかなどの事業実態」「管理を行う母体はどこか」などが問われますが、税理士と相談し、「タックスヘイブンに進出するメリットがあるか」「タックスヘイブン対策税制の適用除外になるか」などを把握することが極めて重要と言えます。
上記の点を踏まえ、「国際税務に通じた税理士等、専門家と相談」し、ケイマン・ケイマン諸島で会社設立を行うかを検討することが望ましいと言えます。
ケイマン・ケイマン諸島での会社設立
まず、ネットなどを見ると海外事業者によるケイマン諸島での会社設立サイトが散見されますが、国内での税制対策を考えると、前述の通り「国際税務に通じた税理士」と相談して、本当にケイマン・ケイマン諸島での会社設立で目的が果たせるかは熟慮した方が良いでしょう。
手続の流れに関しては、日本の専門家や事業者に任せることとなりますが、大まかには下記の手順となります。
- 設立代行を行う専門家・事業者に必要資料を提出(パスポート・英文住所証明書・その他事業経験・資産証明などの疎明資料)
- 法人名称がケイマンの他法人と重複していないかを確認
- 重複がない場合、法人設立申請書類を作成、設立登記議事録・役員任命書などの作成
- 各種書面に役員・株主が署名後、代行事業者が手続を行い、法人設立が完了(1週間~2週間、2021年は新型コロナの影響もあり、時間や手続フローが異なる可能性)
- 法人口座等口座開設を行う
- 翌年以降、決算書の提出の必要はないが、毎年、定額の法人登録税をケイマンに納付する必要があるとともに、事業者への代行手数料も発生する
このように、税金はないが、毎年のランニングコストは発生すること、ケイマンでの活動実態がない場合は日本での経済活動同様、課税対象になることを念頭に置く必要があります。
ケイマン諸島での会社設立検討は、日本と現地事情、双方に精通した専門家に相談してから
ケイマン・ケイマン諸島での会社設立を検討している大半の方は、節税という観点が大きいと思います。
2010年代前半は、タックスヘイブンを活用することにより、大きな節税ができましたが、2010年代後半より、タックスヘイブン対策税制が強化されています。今後も、様々な形でタックスヘイブン対策や節税対策が図られていく可能性があります。
税制変更に対する節税封じの過去事例
例えば、相続税負担を軽減するために、以前よりシンガポールに家族全員で移住、財産を移転し5年待てば、日本の相続税・贈与税を課せられなくなるという仕組みがありました。
しかし現在は、10年超の居住期間が必要になる上に、シンガポールでビザを取得する要件も、年々厳しくなっています。
加えて、平成27年度の税制改正では、平成27年7月1日以後に国外転出をする一定の居住者が「1億円以上」の対象資産(株式、投資信託等の有価証券、匿名組合契約の出資の持分、未決済の信用取引・発行日取引・デリバティブ取引)を所有している場合には、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税されるようになりました。
さらに、1億円以上の対象資産を所有等している一定の居住者から、国外に居住する親族等(非居住者)へ贈与、相続又は遺贈によりその対象資産の一部又は全部の移転があった場合にも、贈与、相続又は遺贈の対象となった対象資産の含み益に対して、所得税及び復興特別所得税が課税されることとなっています。
いずれのケースにおいても、転出前に手続を行うことが必須となります。
会社設立・節税等は、税理士など専門家との綿密な相談を
このように、節税の方法などがあっても、途中で制度変更・抜け穴塞ぎなどが行われることがあることは多くあります。
日頃から、国際税務や節税について通じており、「きちんと法律・通達等にしたがった適正な節税・納税」を行えるように、税理士など専門家とのコミュニケーションを図り、様々な形でアンテナを張ることは重要となります。
また、ケイマン・ケイマン諸島における法人設立を検討される方には、「節税」を主眼に考える方が多いと思います。
ただ、ケイマン諸島での法人設立ありきではなく、税理士のように実務に精通している側から、「他の形での節税方法はないか?」を検討してもらうことも必要です。
もちろん、ケイマン・ケイマン諸島で何らかのビジネスを行う場合は、普通に会社設立・現地での営業活動を行えばよいですが、いずれにせよ「ケイマン・ケイマン諸島で会社を作る理由は何か?」を考え、加えて事情に通じた専門家としっかり話すことが重要です。
手続そのものは、インターネット上の会社設立代行サイトを通して行えます。しかし、会社設立を通して「自身・自社が何をしたいのか」という点は念頭に置く必要があります。
まとめ
今回は、会社設立の手続よりも、ケイマン・ケイマン諸島がいわゆるタックスヘイブンと呼ばれる地域であることから、タックスヘイブンの話が主体になりました。
タックスヘイブンは、ケイマン諸島以外にもアメリカ合衆国デラウェア州、バージン諸島、ラブアン、バハマ、ルクセンブルクなど多数の国があります。
ただし、世界の国税当局は、年々租税回避について対抗策を講じています。そのため、制度変更でこれまでの租税回避策が活用できなくなる可能性は十分にあります。
「タックスヘイブンに会社を作ると節税できるらしいぞ」という断片的な情報だけで会社設立を考えるのではなく、国際税務・国内税務双方に精通した税理士に綿密に相談、「ケイマン・ケイマン諸島での会社設立が、自身の目的を果たす上で適切か」について検討した上で、手続を行うようにすることをおすすめします。