一人社長にとって、「社会保険に加入することは負担が増えて、もったいない」という印象を持つ人もおられるかと思います。特に、起業当初は収入に限りがある反面、支出で出ていくお金が大きいため、社会保険料は支払わずに済ませたいというのが正直なところでしょう。
また、一人社長にとっては、人を雇用していないのに、社会保険に入ることのメリットが見い出しにくいという考え方もあるかもしれません。しかし、一人社長であっても社会保険に加入することで、経営上・生活上様々なメリットを享受できます。
当記事では、一人社長が社会保険に入ることで享受できる、経営面・生活面のメリットに関して触れていきます。
目次
一人社長が社会保険に入る経営上のメリット
まず、社会保険の経営上のメリットについて触れます。主なものとして、「ハローワークに無料で求人を出せること」、「様々な助成金・補助金を受給できる権利が得られること」が経営面のメリットと言えます。
メリット(1)ハローワークに求人が出せる
ハローワークに求人を出すためには、社会保険に加入していることが前提となります。ハローワークに求人を出すことは無料で行うことができます。
従来は、ハローワークの管轄管内で仕事を探すという形式が一般的でしたが、現在はインターネットを通して、全国から求人を行うことができます。
求人会社・エージェントなどを活用すると、採用だけで数十万、場合によっては年間給与の一定額など数百万単位で費用がかかる可能性もあります。
確かに中核人材を雇いたい場合は、スキルの高い人を紹介してくれる事業者が望ましいかもしれません。
しかし、一人会社の場合は、社長が全ての中心です。社長がこなしきれない雑務の部分を、アシスタントとして担ってくれる堅実な人材を採用する場所としては、ハローワークでも十分と言えます。
特に、配偶者の転勤の都合で他の土地より来て職を探している人材などは、能力もあるのに、安価な給与で雇用でき、即戦力になってくれる可能性も高いです。
加えて現在のコロナ禍です。市場には、スキルの高い人材が今まで以上に放出されており、これまででは雇用が厳しかったレベルの人材でも、雇いやすくなることが想定できます。
併せて、テレワーク(リモートワーク)に対応できる事務所などは、より優秀な人材を、全国から募集することができますので、好機と言えるでしょう。
また、求人の出し方、採用のコツなども、ハローワークの方でアドバイスをしてくれますので、有料の求人媒体を使うよりも、ほぼゼロに近いコストで雇うことができます。
メリット(2)助成金・補助金を受けられる
もう一つの経営上のメリットして、ハローワークを通して雇用を行うことにより、様々なタイプの助成金・補助金が受けられるという点があります。複数種類があり、全てを網羅することは難しいため、当記事では制度の概要のみピックアップします。
特定求職者雇用開発助成金(三年以内既卒者等採用定着コース)
中小企業が既卒者・高校中退者等コースで採用を行い、既卒者の場合1年定着で50万円(高校中退者は60万円)、2年定着で10万円、3年定着で10万円の支給があります。それぞれ1名が上限となります。
人材開発支援助成金
様々な形で、人材教育にかかる費用の経費の一部助成を行います。
キャリアアップ助成金
非正規雇用の労働者の正規雇用にするための様々な取り組みに対し、助成が行われる制度です。
トライアル雇用助成金
職業経験が希薄な求職者について、ハローワーク等を通し一定期間お試し雇用をした場合に、賃金の一部を最大3ヶ月間にわたり助成する制度です。基本額としては1ヶ月4万円、父子家庭・母子家庭の場合は1ヶ月5万円が原則です。
その他のケースでも助成金が適応できる可能性もあります。ハローワークを通している場合は、「雇用を行う場合、このケースではこの制度が適用できますよ」とハローワークの側でアドバイスしてくれる可能性が高いのはメリットです。
補助金・助成金の制度は膨大で、専門家でないと把握しにくいと言えます。ハローワークの窓口を通すことで、活用できる制度を利用漏れしてしまうことが少なくなります。
一人社長が社会保険に入る生活上のメリット
一人社長にとって、老後の事・万一の事を考えると、社会保険に入るメリットは非常に大きいと言えます。
多くの方が想定するように、確かに社会保険料の負担は少なくありません。どうなるかわからない将来よりも、今の社会保険の支払を節約したいという気持ちを持つ経営者の方もいるかと思います。
しかし、社会保険の中の「厚生年金」に加入することにより、老後の保障だけでなく、現役時の万一の保証や、経営破綻時の保障として、厚生年金は大きな役割を果たします。
メリット(1)収入保障を受けられる
厚生年金に加入することで、個人事業主の国民年金だけの時よりも、大きな額の年金を、一定年齢(現在は原則65歳から)より受け取ることができるようになります。
年金は、国民年金と厚生年金の二階建てになっており、もし国民年金だけだと、40年間納めて、最大で毎月65,141円と、1ヶ月の生活にはとても心細いと言えます。
しかし、厚生年金の場合は、平均的な収入と就業期間(ボーナス込みの平均標準報酬43.9万円で40年間就業)のケースであれば、月額で220,724円(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金満額)と、国民年金よりは余裕のある生活をできるでしょう。
メリット(2)障害や死亡の保障が手厚くなる
厚生年金加入のメリットは、後遺障害や死亡など、万一の時の保障が手厚くなることもメリットと言えます。
社会保険に加入していれば、「傷病手当金制度」を活用することにより、本来の役員報酬のうち3分の2が、1年6ヶ月を限度として支給されるというメリットがあります。ちなみに、国民保険には傷病手当金制度がありません。
また、厚生年金であれば、障がいが残った際に支給される障害厚生年金、本人が亡くなった場合に支給される遺族厚生年金などがあります。加えて、障害厚生年金に関しては、3級という等級がありますが、障害国民年金には2級からでないと年金が支給されません。
このように、年金そのものの額に関しても、障害厚生年金の方が手厚くなります。
メリット(3)倒産しても将来の蓄えとして使える
目立たないけれども重要なメリットとして、万一会社が経営破綻した際のリスクヘッジの役割があります。法人破産に加え、経営者自身も連帯保証などで自己破産となってしまった場合、ほとんど全ての財産は、現金に換価され債権者に配分されてしまいます。
しかし、厚生年金による老後の年金、確定拠出年金(iDeCo)の拠出金、小規模事業主共済の掛金などは、自己破産しても消えることはありません。また、上記の拠出金、掛金などは、全て所得税の計算の際に所得から控除され、節税となります。
リスクヘッジという観点からも、社会保険や各種制度の活用は重要と言えます。
まとめ
社会保険というと、保険料が高くて経営の負担になるというイメージが先行しがちです。特に、一人会社を設立した当初は、事業を軌道に乗せるのが精一杯で、金銭的な負担は極力避けたいというのが本音かもしれません。
しかし、社会保険にきちんと加入しておくことにより、万一の時のサポートや、コストゼロでの雇用、各種補助金・助成金の活用など、国の制度をプラスの方向に活用することができます。
特に、年金の手厚さや、万一の備えとなる点を考えると、リスクヘッジのためにも、社会保険には積極的に加入しておくべきと言えましょう。