海外で事業を行いたいと考えている人は、法人税や会社維持コストが安く、会社を運営する場合の法整備が整っていることで有名な「香港」がおすすめです。
設立までの期間が1~2か月で終わり、比較的難しい手続きは代行業者に任せるので、日本にいながらでも会社を設立することが可能です。
しかし、いざ香港で会社を作ろうとしてもどのくらい費用がかかるのか、どうやって手続きをすればよいのかわからない人も多いと思います。
今回は香港で会社を作る手順や必要書類・費用を詳しく解説します。また、設立後に必要な銀行口座の開設もご紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
香港で会社設立するとかかる費用
日本で会社を設立するためにかかる費用は法務局などの専用サイトで大まかに載っていますが、香港で会社を設立するためにかかる費用はあまり載っていません。
実際にどのくらいかかるのかそれぞれみていきましょう。
(1)資本金
資本金とは出資者が会社に払い込んだ会社の運転資金のことです。会社がつぶれてしまった場合でも出資者は払い込んだ出資金のみでの責任を負うにとどまります。(有限責任会社)
香港で会社を作るために必要な最低資本金は1香港ドル(約13~15円)と、資本金規制はほぼ無いに等しいです。
また、香港の場合は、資本金の0.1%を資本登録料として香港当局に支払う必要があり、登録料は上限で30,000香港ドル(日本円で約41万円)です。
(2)オフィス賃料
香港のオフィス賃料の幅は広く、主要な場所として、「香港島エリア」「九龍エリア」「新海エリア」の3つに分かれています。
平均相場は香港島エリアなどの中心地で、1平米あたり日本円で1万~2万5,000円、それ以外の地域の場合は5000円~1万円と賃料の幅が広いのが特徴です。
香港島エリア
香港島エリアは香港の中でも大変人気のあるエリアです。香港島には「金鍾(アドミラルティ)エリア」と「中環(セントラル)エリア」に分けられています。
「金鐘アリア」は香港政府などの行政機関が集まっており、国際金融センターやコンサルティング会社、外資系の企業が数多く構えています。
「中環エリア」は香港の中でも主要観光地となっており、観光客向けの大型商業施設や高級ブランド、レストランなどが集結しており、日本の食ブランド店も多く出店しています。
また、CBREのグローバルオフィス世界ランキング調査によると、中環は2018年・2019年では世界で一番高い賃料となっています。
九龍エリア
九龍エリアは観光客が集まる「尖沙咀(チムサーチョイ)」と「旺角(モンコック)」があり、どちらも商業が盛んです。
特に尖沙咀は香港と中国をつなぐ路線の発着駅でもあるため、人の出入りが多く、製造業や商社などの日系企業が多く集まり、香港島に比べると家賃は抑えめとなっています。
新海エリア
新海エリアは中国本土に近く、中国への訪問が多い日系企業が事務所を構えることが多いです。また、このエリアには生産や貨物の取り扱いに適した倉庫や工業ビルを構えることが多いです。
単位や表記に注意
また、香港でオフィスを借りる場合には単位などの表示方法をよく確認しましょう。
- sq.fj(平米フィート)
- Gross(グロス)
- Net(ネット)
- Grade(グレード)
まず、香港のオフィスやテナントに表示されている面積の単位はsq.fj(平米フィート)で、1平米フィートは0.0281坪(=0.09273平米)となります。
Gross(グロス)はエレベーターホールや通路など、共有スペースを含んだ面積、Net(ネット)は実際に使用することが可能な部屋の面積です。
最後のGrade(グレード)は高級物件によくあるA~Cといったランク分けに使われます。
(3)会社設立登記料
香港では法人が事業を行うためには「Business Registration Office of the Inland Revenue Department (内国歳入局事業登録所)で行う「商業登記」と「CR(Companies Registry)」(公司註冊處)で行う「会社登記」の2つを登録する必要があります。
商業登記費用
商業登記は香港で事業を行う個人・法人問わず事業登録が必要となり、内国歳入局事業登録所での登録が完了すると「商業登記証」が発行されます。
1年間有効な商業登記証は「2,250香港ドル(約3万円)」、3年間有効な商業登記証は「5,950 香港ドル(約8万円)」で、期限が近づいてきたら更新する必要があります。
商業登記証は日本の商業登記簿のように誰でも発行できるものとは異なり、1通しか発行されません。無くさないようにしましょう。
会社登記費用
会社登記は法人のみ行う必要があり、日本の登記と同じく会社名や役員、資本金などが登記されます。
登記が完了した場合、第三者は登記簿謄本などは取得できませんが、申請した書類のコピーを取得することが可能です。
会社登記費用は1,425香港ドル(約2万円)、オフィスの賃貸契約に必要となる設立証明書の発行手数料として295香港ドル(約4,000円)を支払います。
(4)法人税
香港では「企業所得税」と呼ばれる日本でいう法人税があります。香港の法人税は原則「16.5%」で、香港内での事業によって得た源泉所得に対して課税されます。
しかし、利益が200万香港ドル(約2800万円)を超えない場合には半分の税率である「8.5%」を適用します。
日本の法人税が15%(800万円を超える場合は23.20%)なので、香港の法人税がとても安いことがわかります。8.5%という税率はアジアで最も安い法人税です。
(5)ビザ申請手数料
日本人はビザが無くても香港で90日以内の滞在をすることができます。しかし、就労は違法となるため、香港で事業を行うためには必ずビザを取得しなくてはなりません。
万が一ビザを取得せずに仕事をした場合は「約70万円の罰金および2年の禁固刑」に罰せられます。
会社を香港で立ち上げる人が主に取得するビザは「就労ビザ」です。ほかにも「短期就労ビザ」「投資ビザ」などがあります。
就労ビザはワークパミットとも呼ばれ、香港に駐在し、就労する一般的なビザとなります。
このビザは原則業種な数量に制限はなく、形式上ではありますが、香港にはない、または香港人では対応ができない専門スキルや専門知識を持っている人材であることが条件となっています。
または香港経済に実質的に貢献できる有益な人材であることを入国管理局に説明し、認められれば取得できます。
初回のビザは2年となり、延長更新が可能になります(2~3年)。就労ビザを持っていれば、一時帰国も可能で、7年以上の滞在で永久性居身分証を取得できる権利を得ることができます。
ビザは申請してから取得するまで4~6週間ほどかかり、新設会社だとさらに追加書類の提出などがあるので、3か月ほど前から準備をするようにしてください。
(6)会社運営費用
1人ですべて業務を行うのであれば人件費はかかりませんが、人を雇った場合には、給料を支払わなくてはなりません。
香港政府統計局の発表では、2019年5月1日から香港の最低賃金は時給37.5香港ドル(約511円)とし、経歴によってこのように給料が変わります。
- 大学新卒・・・12,000香港ドル(約16万円)~
- 事務職・・・12,000-16,000香港ドル
- 専門職・・・16,000香港ドル(約22万円)~
また、香港では年末手当(ダブルペイ)と呼ばれる、旧正月前に約1か月分の給料を支払うという慣習があります。ダブルペイを支払う場合は雇用契約書にあらかじめ記載する必要があります。
ダブルペイではなく、ボーナス支払い(賞与)を採用している企業も増え、企業の業績や従業員の働きで自由に金額を設定しています。
香港で会社設立する際の手続きと必要書類
香港で会社ができるまでの期間は日本より少し長くおおよそ2か月くらいです。そのため前もって準備をするようにしましょう。
商号の類似調査
香港では英語表記の場合は末尾が「Ltd・CO,Ltd」になりますが、漢字の会社名も定めることができます。
その際は最後が「有限公司」となります。英語表記であれ、漢字であれ、「有限責任」という意味があります。
商号(会社名)は香港の登記所で管理され、同じ商号の会社を設立することができません。日本と異なり、違う住所でも使用できません。
まずは希望する会社名がすでに存在していないか確認しましょう。
商号は香港会社登記所のサイトから確認することも可能ですが、英語が難しい場合は専門家に依頼したほうがスムーズです。
会社登記と商業登記の申請
類似商号の調査が終わると、いよいよ会社登記と商業登記の申請です。18歳以上であれば、国籍など関係なく、1人で設立が可能です。
香港では、日本のような「代表取締役」という役職はなく、登記上は取締役でとどまります。会社登記局に対しては、「取締役」として登記されます。
また、香港で会社を設立する際には必ず「会社秘書役」と呼ばれるものを選任しなくてはなりません。
この会社秘書役は香港に在住している個人または法人である必要があります。会計秘書役は主に会社の議事録を作成し、税理士・弁護士との連絡を取る役目があります。
先ほど1人で会社を設立することが可能と述べた通り、会社秘書役は取締役を兼任することが可能です。
なお、公開会社(Public Company)である場合、最低2人の取締役を任命する義務があり、取締役全員が自然人でなければなりません。
また、ノミニー制度と呼ばれるものがあり、ノミニー制度とは、法人の役員や株主を第三者名義で登記できる制度のことで、役員を「ノミニー役員」、株主を「ノミニー株主」と呼びます。
香港法人(オフショア法人も含む)は、ノミニー制度を利用して法人登記を行うことができます。
会社は設立後、第三者が情報を見ることができるため、プライバシー保護を目的とした合法的な制度として香港内では一般的に利用されています。
設立に必要な情報
香港法人を設立する際に必要な情報は以下の通りです。
登録住所
多くの場合は登記の代行業者から借りる場合がほとんどですが、香港に住居やオフィスがある場合はそちらを使用することができます。
1株あたりの金額
資本金となる金額で、基本的には1株1香港ドルにします。なお、日本で会社を作る場合は、実際に資本金を銀行口座に振り込む必要がありますが、香港では、授権資本金額の0.1%を払い込みます(払込資本金と呼ばれます)。
株主、取締役の身分証
パスポートのコピーや住所証明書のコピーを用意します。英文での証明をする必要があるため、コピーに英文をつけますが、国際運転免許証も可能です。
必要書類
登記に必要な書類は以下の通りです。
会社定款
会社の定款は英語または中国語で印刷が必要で、会社の基本定款には以下の事項を含む必要があります。
- 会社名称
- 会社の住所
- 会社の目的
- 授権資本金
- 会社の組織条例
- 株主
- 取締役
- 会社秘書役
- 設立申請書
- 会社登記所への通知書
設立にかかるフォーマットはこちらからダウンロードできます。設立者である取締役は同意書(Consent to Act as Director)に署名が必要です。
設立者ではない取締役の場合は、同意書に署名するか会社が設立してから15日以内に同意書を提出する必要があります。
また、申請書に記入された商号が定款に載っている商号と同じである必要があります。
会社登記所への通知書は、「3年間の商業登記証」を選択しているかどうかを確認してください。
オンラインで設立申請および商業登記を行う場合は、通常1時間以内に電子版の会社設立証明書が発行されます。
申請用紙を直接会社登記所に提出し申請する場合は、会社設立証明書と商業登記証は、通常4営業日以内に発行されます。
銀行開設
香港法人が無事設立できると、事業活動を行うために払い込みを行う法人口座を開設できるようになります。香港法人設立から口座開設までおおよそ3~4週間ほどかかります。
会社の設立手続きは押印や署名を除き、代行業者にすべて丸投げすることが可能ですが、銀行口座の手続きは、業者がサポートのみで、直接開設代行を依頼することができません。
必ず依頼者本人が面接のため、平日に現地に出向いて手続きをする必要があります。
また、聞かれる内容は銀行によって異なりますが、面接はすべて英語で質問されます。
- どのような目的で開設するのか
- なぜ香港でビジネスを行いたいのか
- ビジネスを成功させる根拠があるのか
このようなことが詳しく聞かれるため、英語が話せない方は代行業者のサポートを付けましょう。
開設におすめの主要銀行は?
開設するのにおすすめの銀行は以下の通りです。
- HSBC
- 恒生銀行
- 中国銀行
- スタンダードチャータード
- OCBC Wing Hang Bank
面接から開設まで時間がかかるため、心配な方はほかの銀行も念のため申し込んでおくとリスクヘッジになります。
法人口座を開設するにあたって、多くの書類が必要になります。事業内容や面接内容によって、追加資料を提出するように求められることもありますが、快く引き受けましょう。
口座開設に必要な必要書類
- 法人登記資料
- 直近3ヶ月の個人口座明細
- 個人口座の残高証明
- 既存クライアントとの取引実績
- ビジネスプラン及び事業計画書
- 在職証明書
- パスポートの原本
- 身分証明書(運転免許証など)
法人登記書類は商業登記証・会社設立証明書の2つを提出します。
クライアントの取引証明は「請求書」や「契約書」のコピー、新設会社は実績などが無いため、事業内容計画書を綿密に作る必要があります。
面談から2~3週間で審査結果のメールが届き、無事開設できたか分かります。開設完了のメールには口座番号と資本金入金の案内が記載されているので、資本金を送金しましょう。
日本で会社の設立や銀行口座を自分で行うのは難しいことではありませんが、香港法人の設立や口座開設の手続きを行うのは、署名が英語であることも含めて、書類の準備がとても大変です。
そのため香港で会社を設立する手続きは代行業者に依頼するのがおすすめです。
本来、香港法人設立から口座開設までおおよそ3~4週間ほどかかりますが、代行業者に依頼すると、設立から口座開設までの期間が半分ほどになり、口座開設の面接以外は自宅にいながらもすべて完了します。
もう1つの手段としてシェルフカンパニーも視野に
シェルフカンパニーとは香港で事業を行いたいと考えている人向けに売却用に設立した会社のことで、取引などを行っていない会社です。
購入すれば実質代表者などの名義変更や商号変更(目的変更)のみで済むため、最短3日で自分の会社として事業を始めることができます。
シェルフカンパニーは通常、法人設立手続きを代行している弁護士事務所や会計事務所などが保有しています。
まとめ
香港は法人税も安く、赤字決算も日本と異なり控除期間がなく、永続的に繰り越すことができるため、外国会社として設立するのはおすすめです。
設立や口座開設にかかる書類はすべて英語や中国語で対応しなくてはならないため、苦手な方は代行業者にお願いしたほうが良いでしょう。
また、手続きが面倒だという方は費用が上乗せされますが、シェルフカンパニーの購入も検討してみてはいかがでしょうか。