会社設立後に労働者を雇って事業を運営していく場合、その雇った従業員を社会保険に加入させなければなりません。
これは事業者側の義務であるため、ここで少し掘り下げて社会保険について説明をしていきます。事業開始した後…まったく知らなかった!では済まされない部分のため、きっちりと理解をしていきましょう。
目次
社会保険とは
社会保険とは、国が責任を持って国民の生活を守るための保険制度のことです。もう少し掘り下げて説明をすると、国が国民に対して「健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように保障する」制度です。
お互いを助け合う精神がベースの制度
労働者は事業者から業務を遂行する対価として「給与」をもらうわけですが、そこから社会保険料として一定の金額を天引きされていると思います。
そして「社会保険料が高すぎる」と、不満を持った人も多いのではないでしょうか。高いか?は横に置いて、伝えておきたいのは、社会保険とは強制加入が原則です。
理由は単純で、国レベルで「国民のみんなでお金を出し合って、みんなで自分以外の人を助けよう!」という保険の本質を実現するため必要だということです。
結果、原則、強制加入になるわけですね。当たり前ですが、社会保険料を払っている以上、誰もが社会保険が適用され、いざというときに頼りにすることが可能です。
社会保険の種類
では、社会保険はどんなことを保障してくれるのか?と気になります。会社設立をするのであれば、絶対に知っておかないといけないことなので、まずは「どんなものがあるのか?」を知っておきましょう。
国が責任を持って国民を守る義務があると同じで、会社経営する事業者側は責任を持って労働者を守る義務があります。その義務の1つがが社会保険へ加入となっています。
健康保険
健康保険を一言で言い表すと「不測の事態に備える」となります。人生を歩んでいく中で、どうしても不測の事態は起きてしまうものです。最たる例は「病気」「怪我」です。
その結果、働くことができなくなり…収入は減り、さらには治療するための出費も重なってしまい、八方塞がりになってしまいます。このような状況に備えるため、保険給付を受けられるようにしておく「医療保険制度」が存在するわけですね。
そして、この制度を維持するために日頃から高い保険料を支払っているのです。健康保険は、この医療保険制度の1つになります。
厚生年金
厚生年金とは、基礎年金に上乗せして給付してくれる年金のことを指します。厚生年金保険の対象は、主に会社員のこと…いわゆるサラリーマンがほんとんで、こちらも給与天引きで保険料が支払われることが基本となります。
支払われる厚生年金の保険料は、毎年4月~6月の給与がベースとなって算出されます。したがって、4月~6月はまったく残業をせずに給与を下げて対策をする人もいらっしゃるようです。
ただし、実際に厚生年金をもらえる年齢になったとき、支払ってきた保険料の金額で給付される額が左右されるので、このような調整をせずとも「払った分だけのバックはある」ため損にはなりません。
また、保険料は、雇用主(事業主)と加入者(会社員)と折半をして額が確定します。ちなみに、自営業の場合は、こちらの厚生年金保険には加入することはできません。
ここでは「なぜ加入できないのか?」の明言は避けますが、制度として、このような切り分けになっていることは理解しておきましょう。
介護保険
介護保険とは、言葉通りで介護が必要な人に対して、介護費用の一部を負担してくれる制度となります。
2020年現在、超高齢者社会になっている昨今、保険料が足りず…国レベルで大きな問題となっているため、知っている人も多いかと思います。
介護保険を適用し費用の一部を負担してもらうためには、どの程度の介護が必要なのか?という判定をしてもらわないといけません。そのためには、各市町村の自治体を始め専門機関にて手続きをする必要があります。
手続き完了後、介護レベルが決定し、そのレベルに応じて負担額が決定します。ただし、この保険を適用する場合、1割の自己負担が必要となりますが、年収額によって負担率が2割になったり、3割になったりするので注意が必要です。
労災保険
仕事中に怪我をした場合だったり、通勤中に怪我をした場合だったりに「労災はおりる?」みたいな会話を聞いたことがあるかと思います。労災保険は、まさに労働者が安心して働けるようにするための保険制度となります。
仕事として拘束する時間内で怪我などをしたときの治療費だったり、職務中の怪我・病気で働けなくなってしまったときの補助だったり、さまざまな保障をしてくれます。
事業者側として1つ頭に入れておきたいのは「3年に一度、保険料の見直しが行われる」ということです。見直しが行われる理由は、労災をよく利用する職場の場合、リスクが高いことになるため、保険料を高くしなければならないからです。
でないと、公平感が損なわれますからね。したがって、業種によっては非常に高い保険料を支払わないといけない可能性があることは理解しておきましょう。
雇用保険
労災保険と同様に、よく耳にする保険ですよね。こちらも、事業者側として責任を持って労働者を雇用保険へ加入しないといけません。
雇用保険の役割は大きく2つあり、失業した人の生活の安定させる役割と、新たな職を探して再就職を促す役割です。よく「失業保険」とも言われ、退職後、数ヶ月は一定のお金をもらうことができます。
どちらかというと、雇用保険というよりも失業保険と言ったほうが通じるかもしれませんね。これが前者「生活を安定させる」という具体的な役割です。
では、後者の「再就職を促す役割」とは、具体的にはどのようなことをしてくれるのでしょうか?例えば、就職活動をするための準備を手伝ってくれるということです。
資格を取れば就職しやすくなるということで、勉強代、試験代の費用を負担してくれたり、面接するための交通費を給付してくれたり、幅広い援助をしてくれます。
社会保険の加入義務
冒頭では「労働者を雇った場合、その労働者を社会保険に加入させなければなりません」と説明をしました。実はこれ、厳密には「加入しなくてもよい場合」というのがあります。
では、加入しないといけない場合、加入しなくてもよい場合の差は何でしょうか?
強制適用事業所
強制適用事業所とは、法律で「絶対に社会保険に加入しなければならない」という状況にある事業所のことをいいます。以下の2つのいずれかに該当する場合は強制適用事業所となります。
次の事業を行い常時5人以上の従業員を使用する事業所
- 製造業
- 土木建築業
- 鉱業
- 電気ガス事業
- 運送業
- 清掃業
- 物品販売業
- 金融保険業
- 保管賃貸業
- 媒介周旋業
- 集金案内広告業
- 教育研究調査業
- 医療保健業
- 通信報道業
- その他いろいろ
国又は法人の事業所(常時、従業員を使用する国、地方公共団体又は法人の事業所)
任意適用事業所
任意適用事業所とは、言葉からも察することができる通り、任意で適用をさせるか?が決められる事業所のことをいいます。具体的には、事業者が厚生労働省へ申請をし、その結果認可を受けることができた事業所となります。
ただし、申請をするためには事業所で労働している人の半数以上が適用することに同意していることが条件です。したがって、思いつきでサクッと気軽に申請ができるようなものではありません。
さて、ここで素朴な疑問が湧いてきます…「なぜワザワザ強制でない社会保険料を支払いにいくようなことをするのか?」という点です。
いろいろと理由がありますが、大きいところでは、結局のところ「社会保険に加入して安心したい」ということなのです。ともあれ、社会保険に強制加入ではなく、任意適用事業所は、自身の判断で決めることができるというお話となります。
社会保険の加入方法
社会保険に加入義務があると理解したところで…では、どうやって加入していくのか?を説明していきます。
「強制加入なのに、加入する手順を踏まないといけないの?」と思うかもしれませんが…そういうルールと割り切って対応をしていきましょう。
手続き方法
手続きの方法を簡単ではありますが、以下にまとめます。
- 《手続きの時期》加入義務の事実発生から5日以内
- 《必要書類》必要に応じて以下の書類を用意する。(※)
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 《提出先》事業所の所在地を管轄する年金事務所
- 《提出方法》電子申請、郵送もしくは窓口持参
(※)必要書類に関しては、日本年金機構などより雛形をダウンロードすることができます
社会保険加入に必要な書類
続いては、必要書類について説明をしていきます。状況によって必要な書類が変わってきたり、用意する添付資料も変わります。
健康保険・厚生年金保険 新規適用届
言葉から察することができる通り、社会保険への加入が初めての場合に提出する書類になります。必要事項を記入していきますが、その中で「事業の種類」の欄があります。
こちらは、事業所業務分類票と呼ばれる資料が用意されているので、そちらを参考にしましょう。
2枚目に関しては、事業所の地図を記載をしていきますが…昨今であれば、インターネットのマップサービスを利用して印刷したものを貼り付けても問題ありません。必要となる添付書類は以下になります。
- 《法人の場合》法人(商業)登記簿謄本の原本(※)
- 《個人事業主の場合》事業主の世帯全員の住民票の原本(※)
- 《法人・個人事業主》もし事業所在地が登記の所在地と異なるときは「賃貸借契約書の写し」や公共料金の領収書など事業所所在地の確認できるもの
(※)コピーは不可で原本を添付し提出日から遡って90日以内に発行されたものを提出すること。
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
被保険者になる人の全員分を提出する書類となります。被保険者の基礎年金番号が必要となるため、従業員になる人の年金手帳のコピーなどを用意して番号が分かるようにしておかなければなりません。
添付書類に関しては、基本的に不要ではありますが、以下の条件に当てはまる場合は必要となります。
- 「資格取得年月日」が届書の受付年月日から60日以上遡る場合
- 《被保険者が法人の役員以外の場合》賃金台帳のコピー及び出勤簿のコピー(事実発生日の確認ができるもの)
- 《被保険者が株式会社の役員の場合》株主総会の議事録または役員変更登記の記載がある登記簿謄本のコピー(事実発生日の確認ができるもの)
- 60歳以上の方が退職後1日の間もなく再雇用された場合(※)
- 資格喪失届
- (1)就業規則、退職辞令のコピー(退職日の確認ができるものに限る)
- (2)雇用契約書のコピー(継続して再雇用されたことが確認できるものに限る)
- (3)「退職日」及び「再雇用された日」に関する事業主の証明書(事業主印が押印されているものに限る)
- (※)資格喪失届と、(1)と(2)の両方または(3)が必要となる
健康保険被扶養者(異動)届
被保険者に扶養者がいる場合に必要となる届出です。扶養者の範囲は以下のように定められています。
- 被保険者と同居している必要がない者
- 配偶者
- 子・孫および弟妹
- 父母・祖父母などの直系尊属
- 被保険者と同居していることが必要な者
- 1.以外の3親等内の親族(兄姉・伯叔父母・甥姪とその配偶者など)
- 内縁関係の配偶者の父母および子(該当配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)
- 必要に応じて用意すべき添付書類は以下になります。
- 扶養者の所得が103万円超えで130万円未満の場合は「課税(非課税)証明書」(該当する被扶養者分)
- 扶養者の年収が130万円未満で20歳以上60歳未満の配偶者の場合「国民年金第3号被保険者該当届」
- 該当する被扶養者分の「健康保険被保険者証」
- 以下のモノが交付されている場合(※)
- 高齢受給者証
- 健康保険特定疾病療養受給者証
- 健康保険限度額適用
- 標準負担額減額認定証
- (※)もし紛失してしまっていた場合は「健康保険被保険者証回収不能・滅失届」も添付する必要がある
社会保険適用対象者の加入条件
以下が強制的に加入することになる人たちです。
- 法人代表者
- 役員
- 正社員
- 試用期間中従業員
- パート・アルバイト
- 外国人従業員
ただし、パート・アルバイトに関しては明確な基準があり、全員が強制加入対象者となるわけではありません。この件に関して、次から掘り下げて説明をしていきます。
パート・アルバイトの加入条件
パート・アルバイトの方が社会保険に加入するためには、以下の条件を満たしていなければいけません。
- 週間の労働時間、くわえて労働日数が同事務所で同業務を行っている正社員、または一般社員の4分の3以上を働いている
- 以下の短時間労働の要件にすべて該当する場合
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 勤務期間1年以上またはその見込みがある
- 月額賃金が8.8万円以上
- 学生以外
- 従業員501人以上の企業に勤務している
このように、パート・アルバイトの加入条件は少々特殊となるため、雇うときには十分な注意が必要です。条件に合致した場合、忘れずに手続きを行うようにしましょう。
パート・アルバイトの社会保険適用範囲が法改定により拡大
実は、平成28年10月にパート、アルバイトの社会保険の適用範囲が法改定により拡大しています。
事業者として会社を運営していくのであれば、こういった情報も漏らさずに頭に入れておく必要があるため、ぜひ一読していただいて、何が変わったのか?を理解していただければ幸いです。
(1)被保険者資格取得の基準が明確化
以下のように変更されました。
- 《変更前》1日または1週の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が常時雇用者のおよそ4分の3以上
- 《変更後》1週の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上
上記のように、あいまいだった基準が明確化されました。
(2)特定適用事業所の判定基準変更
事業所の適用被保険者数(短時間労働を除き共済組合員を含む)の合計が1年のうち6か月以上、500人を超えることが予想される事業所は、特定適用事業所扱いとなります。
平たく言えば、ある程度の規模の会社の場合は、加入条件を満たすことになるというわけです。
(3)短時間労働者の社会保険適用条件の変更
パート・アルバイトで被保険者資格を持たない「短時間労働者」のなかでも、上記で紹介した「短時間労働者の要件の5つすべて満たす従業員」は、社会保険が適用されるようになりました。
社会保険の扶養で加入線引きである「130万円」という数字は年収ではない!?
扶養されている人が社会保険の支払いが発生するか?の線引きについて「130万円」という数字があります。130万円を超えると、社会保険への加入義務が発生することになるわけですね。
結果、多くの人たちが130万円のラインを超えないように、働き方を調整していますが…実はこれ、多くの人が勘違いをしている部分でもあります。というのも、年収130万円を超えなければよいと理解している人が多い状況です。
厳密には、年収ではなく、社会保険の扶養に入る直近3カ月の平均に対して、12カ月を掛けた金額が「130万円未満」の場合、被保険者の被扶養者になることができるのです。
したがって、直近3ヵ月の収入が多い人は、130万円を超えてしまう可能性があるため、注意が必要になるのです。
社会保険の加入を怠った際の罰則
最後に紹介する内容は…強制加入にも関わらず、もし加入しなかった場合…どのような罰則があるのか?について触れていきます。
実際のところ、加入手続を失念してしまうことも多く意外と多くの人が罰則を受けているため注意をしましょう。
健康保険
「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられます。また、過去2年分の社会保険料を納付することになります。ただし、以下の条件に当てはまる場合は健康保険適用外ですので、罰せられることはありません。
- 臨時の雇用者(2カ月以内の期間で雇用された人や日々雇い入れられた人)
- 季節的業務に4カ月以内の期間を定めて雇用された人
- 臨時的事業のために6カ月以内と期間限定で雇用された人
厚生年金
健康保険と同様の内容となるため、上記を参考ください。
介護保険
健康保険と同様の内容となるため、上記を参考ください。
労災保険
過去2年分の労災保険料を支払います。また、加入手続きをしていない間に労災事故が発生してしまった場合は、保険給付額のすべて、または一部を事業者から徴収されることになります。
雇用保険
過去2年分の雇用保険料を納付し、かつ「6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金」が課せられます。
まとめ
基本的に加入しないといけない社会保険ですが、いかがでしたか?なかなか面倒で、自ら加入手続きをしないといけないことに驚いた人も多いかもしれません。
さらに、加入手続きを忘れてしまうと、法令違反となり罰則を受けてしまうため、げんなりしてしまった人もいらっしゃるかと。
確かに「パート・アルバイト」の規定などはややこしく難しい面もあるため、事業者たちが「面倒だな」と感じる気持ちも理解できます。
しかし、事業者として会社を運営する以上、この手の話はよくありますし、やらないといけない仕事でもあります。割り切って対応していくようにしてください。
ただ、慣れてしまえばどうってことのない話なのも事実なので、ぜひ頑張っていただきたいところです。最後に1つ注意点として、お伝えしておきたいことは…社会保険に関する法律は、それなりに改正されることがあるということ。
「知らなかった」では済まされない部分なので、社会保険関係の法律には常に目を光らせておきましょう。