
会社設立を行うと、社会保険の加入が必ず必要となります。
社会保険と一口に言っても、健康保険・厚生年金・労働保険・雇用保険など様々な種類の社会保険が存在します。
そのため、会社設立をした後、社会保険に関して手続をする必要があるといっても、「どこから手をつけていいのかわからない」という方も少ないと思います。
労働関係の手続に関しては、社会保険労務士という専門家が様々な手続を行ってくれるため、可能であれば社会保険労務士に手続を一任することが確実です。
ただし、自身で手続を行う場合でも、専門家に依頼する場合でも、社会保険にはどのような種類があるのかを知っておくことは重要です。
当記事では社会保険にはどのような種類があるのかという解説を踏まえ、それぞれの社会保険に関して手続や必要書類をまとめていきます。
目次
会社を設立したら社会保険の加入が必須
会社を設立したら、例え自分1人だけの会社であっても、各種社会保険に加入する義務があります。
まず、どのような社会保険が存在するのかを表にまとめます。
社会保険の種類 | 具体的な内容 |
健康保険 | 協会けんぽなど、中小企業向けの健康保険に加入。代表者・役員・従業員などが加入。健康保険に加入することで、医療費の負担が3割になる |
厚生年金保険 | 現役時代に保険料を拠出しておくことで、65歳など一定年齢に達したときから年金を受け取れる。また、何らかの事故や病気で障がいが残ってしまった場合・亡くなった場合でも、厚生障害年金を受け取ったり、遺族が厚生遺族年金を受け取れる |
国民年金第三号被保険者資格 | 厚生年金に加入している役職員の配偶者で、20歳以上60歳未満の人が被扶養者となる場合、「健康保険被扶養者(異動)届」と「国民年金第3号被保険者資格取得届」を提出する事で、配偶者は国民年金の保険料(2020年10月現在月額16,540円)が免除される。
さらに、この期間中は保険料を全額納付したものとして扱われ、将来受給できる国民年金の額にプラスの影響を与える |
労災保険 | アルバイトを含む従業員(業務委託は除く)を雇用した場合に、労働基準監督署に提出する。
労働災害発生時に、保険から給付を受けることができる |
雇用保険 | 正社員や、アルバイト・パート(業務委託を除く)で一定時間働く社員がいる場合に、社員を加入させる義務が生じる。
被雇用者の失業時に失業保険が一定の条件の下給付されたり、資格取得の際に助成が行われる教育訓練給付金、育児休業給付金、介護休業給付金などが支給される |
以上のように、社会保険と一口に言っても、種類は多様です。
ちなみに、括弧内に「業務委託は除く」という文言がありますが、何かあった際は、契約そのものではなく、「実態」が、場所・業務命令・時間などの指定のない、明らかに雇用関係ではないものであったかという実態が問われます。
そのため、書類上は業務委託となっていても、実態が雇用と同じものであれば、各所から指摘を受けたり、責任問題になることがありますので、ご注意下さい。
健康保険・厚生年金の加入時に必要な書類
健康保険・厚生年金の加入時に必要な書類をまとめます。
書類自体はさほど複雑ではないですが、出し忘れなどがあると、後で不利益を被ることがあります。
各種手続きは社会保険労務士にも委任できますので、当初から人を雇用する場合は、社会保険労務士に依頼するのを検討することをお勧めします。
健康保険・厚生年金保険新規適用届
法人設立時に、法人所在地を管轄する年金事務所に提出します。
添付書類として、
- 登記事項証明書の原本
- 出勤簿・タイムカードの写し
- 役職員の年金手帳
- 役員報酬決定時の臨時総会議事録の写し
- 事務所の賃貸契約書の写し
- 保険料口座振替納付申出書
を添付します。
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
健康保険・厚生年金保険被保険者資格届は、法人設立時や従業員を雇用した際に、取得届の書類を年金事務所へ提出します。
健康保険被扶養者(異動)届
役職員などの配偶者が、被扶養者の条件に該当する場合(配偶者が1年間の収入が130万円未満かつ、正社員・パートタイマーで1日か1週間の労働時間と1ヶ月の労働日数の双方が、正社員の4分の3以上)という条件に当てはまらない場合に年金事務所に届出書類を提出します。
被扶養者の収入状況がわかる書類などの提出を求められることがあります。
雇用保険の加入時に必要な書類
雇用保険は、正社員のほか、フリーター・学生(夜間部を除く)などで「雇用期間が31日以上で週20時間以上働く場合」を雇用した際に加入義務が発生します。
雇用保険適用事業所設置届
事務所所在地を管轄するハローワークに、法人の履歴事項全部証明書(発行後3ヶ月以内の最新のもの)、事務所の賃貸借契約書の写し、労働保険保険関係成立届のコピー等を提出する必要があります。(必要に応じ、その他の書類を求められるケースも)
雇用保険被保険者資格取得届
雇用保険に加入する資格がある従業員等を雇用したときに、事業所を管轄するハローワークに届け出ます。
労災保険の加入時に必要な書類
労災保険の加入時に必要な書類も複数あります。
労災保険は、労働時間、労働日数、正社員・パートの区別を問わず、1人でも雇用すれば必ず加入義務が発生します。
労災保険関係成立届
労災保険関係成立届は、従業員を雇用してから10日以内に提出する必要があります。
事業所を管轄する労働基準監督署に、届出書と併せ自身の法人の履歴事項全部証明書の原本、事務所の賃貸借契約書の写し、その他会社の所在地が確認できる書類など追加書類を別途求められる場合があります。
労働保険概算保険料申告書
従業員・パートなどを新規雇用した場合、50日以内に事務所を管轄する労働基準監督署に、労働保険概算保険料申告書を提出する必要があります。
これは、年度内に「この従業員を雇用しました」と届け出て、年度の概算保険料を申告する必要があるからです。
ちなみに、建設業・農業・林業・漁業など一部の業種は、「二元適用事業」といい、保険料の申告・納付が別々になっています。
まとめ
社会保険に関しては、1人社長を含め、全ての法人が、必要な各種社会保険に加入する義務があります。
しかし、社会保険と一口に言っても、種類が複数あります。
そのため、手続漏れ、手違いなどが発生する可能性もあります。
マイナンバーカードを活用する、マイナポータル・法人設立ワンストップサービスというサービスができ、マイナンバーカードで人事労務の初期手続が、システム上は行えるようになりました。
ただ、できることはごく基本的な手続のみであり、また入力する内容も、申請する本人が理解していないといけません。
そのため、今後も当面は専門家に依頼する流れが続くかと思われます。
社会保険に関する代行業務は社会保険労務士という専門家が取り扱っています。
社会保険労務士は、上記の代行業務以外にも、人の雇用や休業で発生する助成金の申請を代行する手続も行ってくれます。
会社を設立すると、顧問税理士を依頼するケースは多いかと思いますが、人を雇用したり、助成金を活用する場合においては、社会保険労務士を顧問にしておくことが望ましいと言えます。
特に近年は、補助金・助成金の不正受給や不適切受給なども多く発生し、社会保険労務士などの専門家も、単発で助成金の受給業務を行うことを控えているケースが多いです。
万一、申請内容と実態が異なり、不正受給が発生してしまえば、社会保険労務士も処罰・資格の停止・退会などの処罰を受ける恐れもあり、不正があれば事務所名や所在地も、事業者と併せて公開されるため、信用失墜になってしまいます。
社会保険労務士からすると「一見さんの依頼は怖くて受けられない、きちんと顧問としてお付き合いして内情を知っている」という相手でないと助成金の業務は受けられないというのが、多くの社会保険労務士の本音でしょう。
また、社会保険労務士が顧問になっていると、人を雇用する際の助成金や、国以外の様々な制度活用などを提案してくれるケースも想定できます。
加えて、給与計算や人事に関するサービスのアウトソースを受けてくれる社会保険労務士・社会保険労務士法人も多いため、創業当初で人事にリソースを割けない場合は、代わりに手間のかかる作業を行ってくれます。
以上を踏まえて、事業が人を雇用するフェーズに入れば、ぜひ社会保険労務士の力を活用することをお勧めします。