作成日:2021.03.21  /  最終更新日:2021.03.05

会社設立の資本金で、「出資返還義務」「会社を畳むときの扱い」は?

会社設立に関し、「資本金の出資割合に関する扱い」は、極めて難しく、デリケートな問題です。

発起人一人が全額出資を行う場合は、特に気にする必要はありません。しかし、複数人の出資の場合や、外部から出資を受ける場合は、様々な点に注意する必要があります。

例えば、会社を設立する際に外部から資本金の出資を受けるケースがあります。この際、「外部から出資を受け、出資者から出資の返還請求を受けた場合、会社側に返還義務はあるのか」という疑問が生じます。

他にも、事情があり会社を畳む場合に、「資本金はどのように扱うのか」という疑問も生じます。

このような「資本金の扱い」に関する疑問に対し、詳しく説明します。

まず、「出資返還義務」「会社を畳むときの扱い」を説明する前提として、資本金や株式・資本政策を検討する上で重要な、「議決権」の説明をします。

資本金・資本政策を考える上で不可欠な、「議決権」について

株式会社では、主要株主が発行株式総数の3分の2・過半数・3分の1の、保有株式に基づく議決権を有しているか否かで、様々な事項を自主的に決定できるかが変わってきます。(合同会社の場合は、出資額にかかわらず一人につき一議決権となっています。)

会社法第309条に、株式の保有割合に応じ議決権が異なることが記されています。その中で、会社の意思決定に関わる重要なものに関して、具体例を列挙します。

h3:議決権の3分の2以上を保有(特別決議)
議決権の3分の2以上を保有する状態になると、株主総会の決議を通して、会社のあらゆる形態変更・意思決定を行うことができます。

具体的には、下記のようなことが可能です。

  • 定款の変更

会社の憲法とも言える「定款」を、自由に変更することができます。

  • 資本金の額の減少

資本金を減少させるということは、出資者の出資したお金に影響が生じる重大な事項のため、3分の2以上の承認が必要となります。

  • 事業の全部の譲渡などの承認決議

事業を他の会社へ譲り渡す、つまり「身売りする」という重大な決定ですので、3分の2以上の承認が要されます。

  • 監査役の解任

監査役は、会社の「お目付役」という立場であり、会社の運営・決定に問題がないかを見守る立場です。

そのような重要な立場である監査役を解任するということは、重大な行為ですので3分の2以上の承認が必要になります。

後述しますが、取締役・監査役・会計監査人の選任に関しては、過半数の株主による普通決議で可能です。また、取締役・会計監査人の解任も、過半数による普通決議で可能です。

一方、監査役の解任については、3分の2以上と厳しい基準となっており、監査役の重要性が窺えます。

  • 合併、会社分割、株式交換、株式移転の承認決議

合併をはじめとして、どれも会社の形態を大きく変える重大な手続になります。特に合併は、株主だけでなく、会社の中で働く人にとっても大きな影響を与えます。

それゆえ、こちらも議決権の3分の2以上の承認が必要となります。

議決権の過半数を保有(普通決議)

特別決議ほど大きく会社の形を変える決議ではないが、会社運営に関しての決定や、取締役の選任・解任など重要な決議を行う場合は、議決権の過半数による普通決議が必要とされます。

具体的な事例を列挙します。

  • 決算の承認

会社の決算は期ごとに行う行為で、決算が承認されなければ、会社の運営自体ができない重要な手続です。

決算の承認がされないとなると、金融機関や取引先は非常に問題視しますので、業務にも大きな支障が生じるおそれがあります。

  • 取締役・監査役・会計監査人の選任及び取締役・会計監査人の解任

前にも述べたとおり、役員・会計監査人の選任に関しては、それぞれ過半数の承認で足りるとしています。

取締役に関しては、「取締役の中から代表取締役を選任する」仕組みのため、いわゆる会社の代表の地位も、敵対的な勢力が過半数を占めた場合は、大きく脅かされる可能性があります。

よく、会社の資本政策では「株式の過半数を経営陣・友好勢力が保有する状況にしておくのが大切」とされるのは、「取締役=経営陣」の地位を守るためです。

もし敵対勢力が株式の過半数を取得した場合、現在の経営陣を解任(もしくは辞任するように示唆)し、新しい経営陣を送り込むことで、事実上会社を乗っ取ることができます。

そのため、資本政策に関しては、強く気を配っておく必要があります。

  • 取締役、監査役の報酬の決定

取締役、監査役の報酬に関して、定款で定めていない場合は株主総会における過半数の決議を経て決定します。

取締役、監査役にとっては、当然報酬も重要な要素と言えます。

このように、過半数の議決権を有するかは、極めて重要なラインです。

会社を守るためにも、極力3分の2、最低でも過半数の議決権は、経営陣・友好的株主で占めることができるように留意しましょう。

議決権の3分の1を保有

特別決議を、単独で阻止することが可能になります。

特別決議自体、議決権の3分の2を有する必要があるため、逆に考えると、3分の1の議決権を有していれば、創業者(創業家)として影響力を持ち、会社を大きく変える意志決定に対抗することが可能となります。

歴史のある大企業では、創業家やその親族・関連団体が3分の1以上の議決権を残すことで、経営に関する影響力をキープするケースも少なくありません。

このことを踏まえて、ここから出資に関する返還義務や、会社を畳む、つまり「清算する」際の扱いについて考えていきます。

原則論として、出資は返還の必要はない

重要な原則は、「出資に関しては、原則返還の義務はない」ということです。

例えば、融資であれば、融資を行う際に「金銭消費貸借証書」などの形で、お金の貸し借りに関する契約を結び、契約通りに融資を受けたお金を返していく必要があります。

一方、出資に関しては、「出資の際に特別な契約を結んでいない限りは」、返還の義務は生じません。

また、株主から出資したお金に関する返還請求を求められた場合でも、出資時等に「返還に関する契約」を締結していない限り、出資金の返還は必要ありません。

ただし、第三者から出資を受ける場合は、出資時の契約に、「返還に関する契約」や後述の「株式買取(買い戻し)に関する契約」が含まれている可能性もありえます。

出資を受ける際は、株式に関し、経営者側に不利になる契約が含まれていないか、極力弁護士など専門家のリーガルチェックをうけることをおすすめします。

出資金の返還義務はないが、株式買取請求権は存在する

ここまで、出資金に返還義務はないと説明しましたが、注意すべき点として、株主側が、「自分の保有している株式を、相応の価格で買い取って欲しい」と請求する権利は存在します。

これを、「株式買取請求権」と言います。

株式買取請求権に関しては、「株主の株式買取請求権」と「単元未満株式の買取請求権」が存在します。

株主の株式買取請求権

株主は、自身が保有する株式を、原則として第三者に譲渡することが可能です。

ただし、特に起業直後の会社などは、「定款」という会社に関する重要な規定を定める文書で、株式を第三者に譲渡する上では、会社の承認を必要とするという規定を設けているケースが多いです。

法務局が定款のひな形として提示している文書でも、
(株式の譲渡制限)
当会社の株式を譲渡により取得するには,当会社の承認を受けなければならない。

という表記があります。

譲渡制限を設ける理由として、会社の承諾なしに株式の売買が行われると、主要株主(多くは設立者・代表取締役など)の議決権が減少し、先ほど述べた会社の重要事項を経営者サイドが自主的に決定できなくなる可能性があるからです。

一方、株主の側としては、「定款に、当社が認めないと株式譲渡はできないと定めています」と言われても、一定の条件下であれば、株式買取請求権を行使し、株式を買い取るよう会社に求めることが可能ですし、会社側は株式買取請求権を拒否することが可能です。(結果として、裁判に発展する可能性もあります)

株式買取請求権が認められるケース

株式買取請求権が認められるケースとしては、

  • 事業譲渡
  • 合併、会社分割等の組織再編
  • 株式併合
  • その他、株主総会において決議を要する議案等

上記のケースにおいて、

  • 総会に先立ち会社に対して反対する旨を通知する
  • 総会において反対した株主・総会において議決権を行使できない株主

もしくは、株主総会において、決議を要しない議案で、反対株主が株式買取請求権を行使した場合には、株主側は株式買取請求権を行使することが可能です。

ただ、株式買取請求権の行使は、株主から会社への絶縁状と言えるくらい重い行為です。

会社側は、反対株主の保有する株式を買い取る上で、反対株主側と協議する必要がありますが、双方が合意しない限り、株式買取は成立しません。また、一度株式買取請求権を行使すると、一部例外を除いては撤回はできません。

つまり、振り上げた拳を降ろすことはできないのです。(例外として、協議が整わず、裁判所に対する価格決定の申立が一定期日以内に行われない場合には、撤回が可能となります。)

株式の価格に関しては、様々な評価方法がありますが、基本的には会社全体の価値と反対株主の保有割合を通して買い取り価格を会社側が提示しますが、反対株主側が合意しない場合は、反対株主側が裁判所に対し、買い取り価格の決定を申し立てることが可能です。

裁判所の決定においては、会社の評価額の他、これまでの経緯や反対株主がどのように会社に関与したかなどが考慮されるケースもあるため、想定外の買い取り価格になる可能性があることは留意しておいた方が良いでしょう。

単元未満株式の買取請求権

株式の場合は、「単元株」といい、上場企業は100株単位、非上場企業は会社組織に応じ1株から、会社の発行済み株式数が20万株未満の場合は発行済み株式数を200で割った数を一単元の上限、もしくは20万株以上の場合は一律1,000株を一単元の上限としており、会社により異なります。

(法務局で法人の全部事項証明書、いわゆる登記簿謄本を取得することで、第三者でも非上場企業の単元株が何株単位かがわかります)

単元未満株式の買取請求権は、株主側からのみ行使できるものであり、会社側から行使することはできません。

単元株未満の株式数は、全体の中では極めて小さな額ですので、こちらに関しては会社側は心配する必要はないと言えます。

会社を畳む際における資本金の扱いとは?

日本の会社組織の経営者・構成員も高齢化が進み、子どもや従業員も引き継ぐ意志がない、そのため余力があるうちに会社を畳もうという考えをお持ちの経営者もおられるかもしれません。

その際、資本金や会社の残った財産(残余財産)はどのように処理することになるのでしょうか。

シンプルに結論を述べると、以下の通りとなります。

  • 負債がない場合:残った財産で処分できる物は処分し、各種税金を完納した後、金銭・現物として株主に対し保有割合に応じ配当
  • 負債がある場合:財産を処分し、負債を全額返済でき、更に各種税金を完納した後、金銭・現物として株主に対し保有割合に応じ配当

という形になります。

会社を畳む際に負債の方が大きそうな場合はどうする?

負債がない場合は、残りの税金の支払いや資本金の分配など基本的なことを考えるだけですみますが、負債がある場合、特に経営者が連帯保証(連帯債務)を契約している場合が問題です。

負債がある場合、多くのケースでは、経営者等が連帯保証をしているため、負債があると、会社を畳むことが、経営者等の生活破綻に繋がってしまうケースも想定できます。

今回はテーマと逸れるため、詳細な説明は省きますが、「経営者保証に関するガイドライン」という制度が、2010年代後半より開始されています。

この制度を活用することで、債務超過であっても、一定の生活費や華美でない自宅などを手元に残したり、信用情報機関に債務整理の事実が記載されないなど、「家や信用」を守りながら、負債があっても大きなマイナスを受けることなく、会社を畳むことができます。

ちなみに、「経営者保証に関するガイドライン」は、新規に融資を受けたり、既に借りたお金に関する経営者の連帯保証を解除することもできますので、これから創業する方、現在事業を行っている方も、存在を知っておくと良いでしょう。

また、経営者保証に関するガイドラインを活用する際は、弁護士など専門家の関与が必須となります。専門家・金融機関・経営者保証に関するガイドライン事務局への相談が必要です。

なお、連帯保証のない負債のみの場合は、処分した財産から全額を支払って終わりとなり、株主に支払い義務が生じる可能性はなく、経営者に関しても、会社のお金を私的に流用するなど、公私混同がある場合を除いては、会社とともに、負債も消滅します。

(度を超えた公私混同がある場合は、借りた先から個人に対し責任追及が行われる可能性もあります)

傷が深くなる前に、会社を畳むことの重要性

2021年現在は、経営環境の変化もあり、これまでで行ってきた業態では、もう存続が厳しいというケースもあるかもしれません。

そういう場合は、余力があるうちに会社を清算するなり、借入がある場合は、前述の「経営者保証に関するガイドライン」を活用することで、経営者や周囲への影響を最小限に抑え会社を畳み、再出発をする事が理想的と言えます。

確かに経営・ビジネスにおいて、諦めないという心は重要です。一方で、畳むタイミングが遅れ、負債が増大してから会社を畳むことになると、多くの関係先に迷惑をかけることになってしまいます。

そのため、現在自身が取り組んでいる業態の将来性が厳しいと感じた場合、早めに会社の整理を検討することも、結果として周囲に対する誠意となる可能性があります。

まとめ

ここまで、資本金の出資分に関する返還義務や会社を畳む際の資本金の扱いについて説明しました。

資本金を出資する際の話はよく扱われますが、会社を畳む・整理する際の資本金の扱いについては、さほど考えられないことが多いです。

ただ、会社経営の出口としては、「事業の承継」「事業の売却」「事業の清算」「事業の上場」などいずれかの方法を選択する時が、いつかは到来します。

事業上場というのは、極めて難易度の高いチャレンジになりますので、大半の場合、「事業を継続し家族や信頼できる部下に引き継ぐ」「事業を他の企業に売却する」「事業を清算する」といういずれかの出口が待っています。

理想としては、事業の承継や、高値での事業売却ですが、「清算」という手段を選ぶ際には、できるだけ自身・周囲に悪い影響がないようにするのが理想です。

創業の際から事業の出口を考えるというのは、少し早いかもしれませんが、ぜひ出発点だけでなく、ゴールも見定めること、また自身が経営からのEXITを考えている場合は、有利な方法がとれる時に、早めに決断をする事をおすすめします。

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