会社を設立するときや増資のために募集株式を新たに発行するときは、株主(候補者)が会社に対して資本金の払込を行います。
その際に作成するのが「払込証明書(登記上は払い込みがあったことを証する書面と呼びます)」です。
払込証明書を作成するためには、原則、銀行口座の紙の通帳をコピーして、表紙とともに合綴します。
しかし、ネット銀行のように紙の通帳がない場合はどうすればよいのでしょうか。結論から言えば、Web上の通帳でも問題なく払込証明書として登記の添付書類にすることができます。
今回は通帳がないネット銀行の場合の払込証明書を作成する方法を詳しく解説します。
目次
払込証明書とは
会社を設立するための定款の認証が済んだ後に必要になる作業が、資本金の払込とその証明をするための書類の作成です。
昔は、銀行などの金融機関から「払込金保管証明書」という証明書を発行しもらう必要がありました。
これは、会社を設立するために、わざわざ銀行に資本金の払込があったことを証明してもらっていましました。
しかし、この手続きは、時間がかかるだけでなく、金融機関から断れることがあり、手続きとしては不便でした。
そうした背景から、現在は資本金の払込を証明する手続がとても簡単になり、個人の口座の残高証明や取引履歴のコピーだけで足りるようになりました。
つまり個人(発起人)の口座にお金を振り込み、その通帳のコピーを提出するだけで事足りることとなったのです。
ただし、これはあくまでも「発起人設立」の場合です。第三者から資本を募る「募集設立」の場合には従来どおり「払込金保管証明書」が必要となります。
通帳のないネット銀行で資本金の払込証明するなら「スクショ印刷」
近年手数料の安さや振り込みの手軽さから、インターネットでの口座を開く人が増えてきました。主なネット銀行はこちらです。
- 楽天銀行
- 住信SBI銀行
- ソニー銀行
- GMOあおぞら銀行
- auじぶん銀行
また、三井住友銀行の「Web通帳」や三菱東京UFJの「Eco通帳」など、大手都市銀行も、手数料や金利の優遇を付与し、ペーパーレスとして紙の通帳を発行しないことを推奨しています。
会社を設立するときや、募集株式を発行するときに、「払込証明書」として、資本金を払い込んだ金額が記載されている通帳のコピーが必要となります。
こちらは紙の通帳が存在しないインターネットバンキングの場合でも作成することが可能です。
その場合におすすめなのがパソコンの画面をスクリーンショットし、PDFや画像ファイルとして印刷をするという方法です。
法務局は、払込が正式に行われたことが証明できれば、問題なく受理してくれます。
通帳代わりに印刷すべきページは4つ
紙の通帳は表紙、1ページ目、資本金の入出金のページの計3ページをコピーしますが、ネット口座の場合は銀行ごとにホームページ内のWeb通帳の表示が異なるため、どこをコピーするかどうかは決められていません。
そのため、払込証明書を作成する際には、「必要事項」が記載されている部分が含まれているページを印刷します。
ネット銀行を払込証明書に使用するために必要な事項は以下の4つです。
- 払込先金融機関名
- 口座名義人名
- 振込日
- 振込金額
<ネット銀行のホームページの例>
田中太郎様の口座 ××支店 支店番号123 口座番号1234567 | |||
---|---|---|---|
取引日 | 入出金内容 | 入出金 | 残高 |
2020/10/25 | タナカタロウ | 1,000,000 | 1,000,000 |
重要なことは、「どこの銀行」の、「誰の口座」に「いつ」、「いくら」支払ったかということです。
実は「誰が」は重要ではなく、発起人は複数人いる場合でも、1人が全員分払込金を預かってまとめて振り込んでも問題ありません。
しかし、口座は原則代表発起人の口座になります。
この情報はすべて載っていれば1ページでも問題なく、バラバラに記載されていれば、すべてのページを印刷する必要があります。
なお、1ページにいくつも取引履歴がある場合は、払い込みのあった部分にマーカーを引いておくと登記官にとって親切です。
ネット銀行で資本金の払込証明する際のポイントは3つ
ネット銀行に限らず、払込証明書は口座や振込の情報をただただコピーして提出すればいいというわけではありません。法務局に提出する書類として完成するには3つのポイントがあります。
既存の口座で問題ない
振り込むための発起人の口座は会社用に新たに作る必要はなく、普段使っている口座で問題ありません。
おそらく口座の中にはプライベートのお金が入っていると思いますが、0円にせず、そのまま振り込んで構いません。
取引日 | 入出金内容 | 入出金 | 残高 |
---|---|---|---|
2020/10/25 | タナカタロウ | 1,000,000 | 2,500,000 |
このように残高がプライベートの残高と混じってもよく、資本金に該当する金額が振り込まれていれば問題ありません。
また、振込ではなく、代表者が現金を預かり、そのまま口座に「預入」しても構いません。
なお、払い込まれた資本金はすぐに引き出しても構いません。定款認証や登記手続きの免許税に使いましょう。
払込証明書を作る
払込証明書は「払い込みがあったことを証する書面」という表紙を作る必要があります。
これは資本金として払い込んだ金額と記載し、間違いがないということを代表取締役が実印を押印して証明する必要があります。
払込みがあったことを証する書面 当会社の設立により発行する株式につき、次のとおり払込金額全額の払込みがあったことを証明します。 払込みがあった金額の総額 金100万円 払込みがあった株数 100株 1株の払込金額 金100万円 なお、上記の金額はすべて資本金とします。 株式会社〇〇 代表取締役 田中太郎 ㊞ |
これが払込証明書の表紙となります。これをコピーした口座の情報の一番上にしてホッチキスで合綴します。
割印または契印する
払込証明書を作成し合綴した後は、会社の実印で割印(契印)を行います。押印の方法は2つあり、どちらでも構いません。
- ①各ページを跨いで押印する
- ②帯をつけて表または裏面に押印する
帯はすべてのページにまたがっているため、帯に重なる形で1か所に会社の実印を押すだけで大丈夫です。
割印と契印の違い
余談になりますが、割印と契印は意味合いが少し異なります。
登記の実務上、払込証明書や定款などの各ページにまたいで押印することを「割印」と呼んでいますが、正確には「契印」になります。
契印は払込証明書や定款などのように、1ページ目と2ページ目といった次の書類とのつながりがあるという証明のために押印をすることです。
これはページの間を改ざんされないようにするという意味があります。
「割印」とは当事者間で契約書を保管する際に2つの書類に同一性を持たせるために、2枚を跨いで押印することをいいます。
もし司法書士に設立の依頼をしたときに、割印をお願いされた場合は「契印」のことだと頭に入れておきましょう。
まとめ
払込証明書は会社を設立するためや会社の資本を増やすための重要な書類です。
ネット銀行のWeb通帳は紙の通帳のように管理が不要でインターネット上でいつでも確認することができるのでとても便利です。
登記制度も日々進化をして、今ではネット銀行による払込証明書も当たり前になってきました。
しかし、ネット口座は何年先でも振り返って確認することができない可能性があるため、注意してください。
特に会社の設立段階であれば、Web通帳で問題ありませんが、会社ができて何年も運営していくのであれば、1つくらいは紙の通帳を作っておきましょう。