会社に関する手続きで、「増資」という言葉を聞かれたことがある人は多いと思います。
ただ、増資にどういう意味があるのか、資本を増やすのではなく減らすことはできるのかなど、細かい点で疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
加えて、「資本金を一度決めた後に増やす(もしくは減らす)こと、いわゆる増資・減資を行なっても良いのかという疑問を持つ方もいるかと思います。
結論から言うと、会社設立後でも資本金を増やしたり減らすことは可能です。
ただ、資本金の増加、減少手続きには、増資または減資に関する所定の手続きをする必要があります。
司法書士に依頼する場合は報酬、また自身で行う場合でも官報公告の費用や登録免許税がかかるという事に留意する必要があります。
この記事では資本金を増資するメリットやデメリットまた増資方法について具体的に解説をしていきます。
目次
増資の基本的な仕組みとは
まず、「増資」と言う言葉の意味に関して抑えてみましょう。
法人設立の際には、必ず会社の事業の元手となる「資本金」を設定します。
この資金を増やす上では、「無償増資」と「有償増資」の2種類が存在します。
有償増資は、「公募増資」「株主割当増資」「第三者割当増資」などの形で、内部・外部からお金を実際に出資してもらう方法です(具体的には後ほど説明します)。
無償増資は、投資家や企業などからお金の払い込みを受けるのではなく、資本準備金・利益準備金など、会社内の資産の一部を資本金に組入れ、新規に株式を発行する増資です。
増資するメリット
増資を行う主要なメリットを2つ挙げると、「資金調達」と、「会社の信用度向上」です。
シンプルに、資本金が大きい会社というのは信頼されやすいです。
具体的な例を見てみましょう。
返済不要で資金調達できる
増資を通した資金調達のメリットは、「返済不要」という点です。
資金調達に関しては、経営者自身が出すだけでなく、役職員や外部などの出資を募ることで、第三者からお金を出してもうことも可能です。
ただし、資金を出してもらう分、資金に応じた株式を第三者に渡すことになります。
これは注意点もあるので、後で触れます。
会社の信用が上がる
会社の信用度向上については、2つの側面から言及できます。
1つは、単純に資本金が増加することにより、経営基盤がしっかりしている会社だという印象を相手に与えられる点です。
特に、以前の会社設立の最低基準であった、有限会社の300万円、株式会社の1,000万円の壁を越えると、取引相手の見方も変わってくるでしょう。
もう一つ言えるのが、会社の株主に有名な企業、ベンチャーキャピタルや投資家が出資することで、「あの会社は、きちんとしたところから信頼を受けている会社なのだな」という印象を与えることができるということです。
逆のケースもあります。
株主であっても、あまり良くない噂(反社会的勢力との付き合いやグレーなビジネスに手を染めている)のある組織・個人から出資を受けると、会社の評判にも関わります。
また、会社が成長し、上場準備(IPO)に入ろうという段階で、株主等に反社会的勢力の関わりがある噂がある組織・人物がいると、IPO自体ができなくなってしまう可能性が強くあります。
現在は、反社会的勢力に対する厳しい目線が出されている現在です。
外部の出資を受ける際は、信頼できる先に限ったり、出資先が反社会的勢力と関与がないかを確認してくれる、「反社チェックサービス」を利用した方がよいでしょう。
増資するデメリット
増資にはデメリット・注意点もあります。
経営者の持分割合が希薄化される、法人登記の修正手続きが必要、資本金の額により納税額が変わるという3点です。
経営者が保有する株の割合が減る
増資を行うことで、大半のケースでは、経営者が保有する株の割合は減少します。
外部からの金銭出資で増資をする事というのは、例えると、会社の支配権を出資先に切り売りしているとも言えます。
株式の持分割合で、特に注意すべきなのは、創業者は極力3分の2、もしくは過半数の株式を守ると言うことです。
例えば、過半数の株式を外部に握られると、普通決議に必要な議決権を外部が持つため、役員の選任・解任など、重要な部分を他社に握られるということになります。
更に3分の2の株式を外部が握ると、監査役の解任・定款変更・事業譲渡・解散など、会社を完全に支配することができてしまいます。
そのため、経営者サイドで極力3分の2・最低過半数は、自分や身内で持つということは意識した方が良いでしょう。
法人登記の修正が必要になる
資本金の変更に関しては、法務局で「資本金の増資(減資)」に関わる登記を行う必要があります。
実費の部分としては、登録免許税を「増加する資本金の額×1000分の7(ただし最低額は30,000円)」支払う必要があります。
また司法書士に依頼する場合はプラスして、手続き費用が数万~10万程度かかります。
納税額が変わる
資本金が1,000万円・1億円を超えると、消費税や法人住民税の均等割の金額などに影響が出てきます。
また、資本金の少ない企業向けの優遇措置も行われなくなりますので、その点も気をつけた方がよいでしょう。
有償増資の募集形態は3つ
有償増資の募集形態は、「公募増資」「株主割当増資」「第三者割当増資」の3種類があります。
増資方法(1)公募増資
公募増資は、既に出資している株主以外の不特定多数に対して、申込を募集する方法です。
株式の価額に関しては、これまでの株主にとって損がないよう、仮にこれまでより有利な価額で新株を発行する場合は、株主総会における決議が要されます。
公募増資に関しては、簡略化して書くと、
- 株主総会での増資に関する決議
- 価額・対象者数によっては有価証券届出書の作成・提出
- 価格の決定・募集
というプロセスとなっていますが、それぞれの手順が非常に複雑で、中堅企業以上の会社が主に使うことが想定されます。
増資方法(2)株主割当増資
株主割当増資は、既に株を保有する既存株主を対象に、「全体における持株の割合」に応じ、新株を割り当てる増資方法です。
持株に応じた割り当てとなるため、株主の議決権割合が変わらず、主要株主がこれまで通り変わらないというのはメリットと言えます。
手順としては、
- 募集事項を決定
- 株主へ募集株式の申込期日の2週間前までに通知する
- 申込を受け付ける(出資金の払い込みを受ける)
- 払い込み期間の末日から、2週間以内に変更登記の手続きを法務局で行う
という流れになります。
増資方法(3)第三者割当増資
第三者割当増資は、社内の役職員など関係者に加え、取引先、金融機関など、縁故のある人・組織のみに募集をかけるという、ある意味身内や近しい所にだけ増資の募集をかけるという手段です。
第三者割当増資は、中小企業の資金調達手段としてよく使われます。
大きな理由として、「素性のわからない相手ではなく、内部や取引先、金融機関など、信頼できるところにだけ募集をかけられる」ことにより、不適切な相手に株式が渡らないというメリットがあるからです。
手順としては、
- 募集事項を取締役会決議か株主総会特別決議で決定する(株式数・払込金額・算定方法・払込期日など)
- 株主へ申込期日2週間前までに通知する
- 申込の引き受け、取締役会で株式の割当決議を行う
- 申込者から出資金の払込を(現物の場合は引き渡し)2週間以内に受ける
- 2週間以内に法務局に登記申請
まとめ
増資に関しては、信用力強化の点で積極的に行っていきたい手法です。
一方で、手続きの手間・費用や、資本金が増えることで、中小企業・零細企業向けの優遇措置の対象から外れる事もあることは考慮しておく必要があります。
増資にはメリット・デメリットがそれぞれありますので、増資をするべきか、あるいは他の事に投資すべきかは、ぜひ税理士などのブレーンを通して考えることが望ましいでしょう。