会社の設立を考える中で、設立費用が安価で、早く手続きができる「合同会社」の活用を考えている人もおられるかと思います。
合同会社の設立は、株式会社に比べて省略されているプロセス(公証人役場での定款認証など)がありますが、法務局で登記申請を行い、登記官の確認を受ける必要があることには変わりがありません。
合同会社を設立する際には、7つの書類を作成、提出する必要があります。
当記事では、合同会社の設立に必要な書類や注意点、作成の仕方などを、わかりやすく説明します。
目次
合同会社の設立手続きは株式会社より簡単
合同会社の設立手続きそのものは、株式会社に比べ簡略化されています。
大きな理由は、株式会社で必要な、「公証人役場における定款の認証手続」が必要ないことです。
株式会社、合同会社など会社の形態を問わず、会社に関する重要事項をまとめた「定款」という書類を、会社設立をする際は作成する必要があります。
そもそも「定款」とは?
定款は、「会社にとっての憲法」といわれるくらい重要な書類です。
定款には、下記の3種類の事項があります。
- 絶対的記載事項:記載漏れ・法律違反があると定款自体が無効となる、必ず定款に盛り込むべき事項
- 相対的記載事項:記載が無くても問題がないが、定款に記載することではじめて法的効力を持つため、できるだけ記載しした方が良い事項
- 任意的記載事項:法律違反さえしなければ自由に定めて良い事項
株式会社のケースと異なり、それぞれの記載事項は、あまり多くありません。
具体的に、それぞれの項目でどのようなものがあるかを表にしてみましょう。
絶対的記載事項
商号 | 会社の名称 |
目的 | 会社でどのような事業を行うか |
本店所在地 | 都道府県・市町村まででも可。ただし、町名や番地を記載しない場合は、別紙で申請する必要あり |
社員の出資の目的及びその価額又は評価の標準・社員全員が有限責任社員である旨 | 株式会社であればいわゆる資本金の金額にあたる。
また、責任に関しては「有限責任社員」という出資額の範囲内で責任を取る形で記載 |
社員の氏名または名称(法人の場合)・住所 | 氏名・住所に加え、公証役場での定款認証や法務局での定款認証の際は、発起人全員の実印押印・印鑑証明添付(発行から3ヶ月以内のもの)が必要 |
相対的記載事項
現物出資をするかどうか | 別記事でも現物出資に関して書いておりますが、現物出資は資本金の増強と節税などの観点から、積極的に活用するべき手法と言えます。
税理士・司法書士など専門家との打ち合わせは必要ですが、できるだけ現物出資は活用していきましょう |
以上のように、相対的記載事項は、「書いても書かなくても良いが、多くの項目は事前に定めておいた方が会社にとって利益になる事項」といえます。
こちらも、株式会社のケースに比べ、記載事項が少ないです。
任意的記載事項
会社の事業年度 | 事業年度は会社設立後1年だけでなく、設立日から8月末までなど自由に決定できます。
事業年度を短くするケースは、多くの場合は「消費税の免税期間を長くする」など節税の目的や、税理士・法人の閑散期に作業ができるようタイミングを合わせる場合などがあります |
社員総会の運営方法 | 普通決議・特別決議などの条件を定めます |
記載事項は以上の通りです。
大半の定款、定款のひな形は、絶対的記載事項・相対的記載事項・任意的記載事項を全て網羅する形式で作られています。
特に任意的記載事項事項は、後から定めることもできますが、改めて書類を作るより、最初から定款に内容を定めておいた方が二度手間にならずにすむからです。
実際の定款のひな形がどのようなものになっているかの具体例は、法務省の申請書様式のページに詳しく掲載されています。
合同会社の定款例の場合は、第3 持分会社(合同会社) 設立の記載例PDF、株式会社の定款例の場合は、第1 株式会社 設立の記載例PDFを確認して下さい。
株式会社は公証人役場での定款認証が必要
株式会社の場合は、作成した定款を、「公証人」という裁判官・検察官などを経験したベテラン法律家が「株式会社の定款として、法律上問題が無いか」を厳密にチェックします。
公証実務は公証人と事務職員が共同で行っていますが、言い回しに関するチェックなども含めて、細かく確認され、修正を受けるケースが多いです。
また、定款など必要書類作成後に、FAXやメールでの事前確認で修正をしたあと、公証人役場まで出向くという手間があるため、期間としても1週間~2週間はかかる事を見ておく必要があります。
また、定款認証そのものの費用も、雑費等含め、標準的な株式会社のケースで概ね52,000円程度かかります。
加えて、公証人役場で定款認証を受ける際は、事前に定款に行政書士などの電子署名を付与してもらい、印紙税をかからなくするか、定款を印刷したものに、4万円の収入印紙を貼付しておく必要があります。
収入印紙の貼り忘れがあり、後で税務署の税務調査が入った場合、印紙の貼り忘れに対する過怠税として印紙税額の3倍、つまり12万円を納めることとなります。
そのため、定款に対する電子署名の付与か、印紙の貼付忘れがないよう注意する必要があります。
合同会社は、公証人役場での定款認証が不要だが、注意点がある
株式会社であれば必要とされる定款認証が、合同会社の場合は必要ありません。
これは、スピードや費用という点ではありがたいことですが、定款のチェックを受けるのは法務局提出時のみになります。
そのため、最初から間違いのない定款を作成する必要があります。
もう一つの注意点が、合同会社であっても、行政書士などの電子署名のない定款の場合は、収入印紙4万円を法務局提出時に貼付する必要があるということです。
法務局のように厳密な確認をする機関でも、印紙の貼り忘れなど、書面以外の重要な部分を見逃す可能性もゼロではありません。
いずれにせよ、合同会社は株式会社に比べ、設立に関する手順が少ないのは事実です。
それゆえに、株式会社に比べ、合同会社は、安く・早く設立できます。
合同会社の設立で必要になる7つの書類
それでは、具体的に合同会社を設立する上で必要になる、7つの書類に関して確認しましょう。
なお、合同会社の場合の書類提出先は、全て「法務局」となります。
合同会社設立登記申請書
会社の設立登記を管轄する法務局では、Word形式などで合同会社設立登記申請書・定款・その他各種書類に関するひな形を提供しています。
また、記載例に関してもPDFで提供しています。
上記の記載例をもとに、一例として、法務太郎さんという人が、法務商事という会社を1人で設立し、100万円の現金出資、220万円の現物出資、合計330万円の資本金でスタートする、というケースで記載例を示します。
ひな形に基づいた合同会社設立登記申請書では、下記のような書き方となります。
・商号 法務太郎
・本店 東京都千代田区霞が関1-1-1
・登記の事由 ( 設立の手続終了)
・登記すべき事項 別紙(添付CD-R)の通り
・課税標準金額 金330万円
・登録免許税 金60,000円
・添付書類
定款 1通
代表社員,本店所在地及び資本金を決定したことを証する書面 1通
代表社員の就任承諾書 1通
払込みがあったことを証する書面 1通
資本金の額の計上に関する代表社員の証明書 1通
委任状(必要に応じ)
を添付し、
「上記のとおり登記の申請をします。」
令和2年10月10日
申請人 法務太郎
東京都千代田区霞が関1-1-1
代表社員 法務太郎
など記載する必要があります。
登録免許税の収入印紙
登録免許税は、合同会社の場合6万円となっています。
また、資本金×1,000分の7が6万円を超える場合は、資本金×1,000分の7の金額を印紙税としては支払う必要があります。
注意すべきは、貼付前・貼付時に
- 収入印紙に絶対に署名・消印・その他書き込みを行わないこと(消印は法務局が行う)
- 収入印紙の貼付は、全ての確認が終わり、最終提出の前に貼付すること
- 収入印紙を右側に寄せて貼る、登記申請書が複数になる場合は、ページ間で契印をしたり、袋とじ形式にして間に印鑑を貼ること
です。
貼付する印紙は基本的に6万円と、けして安い金額ではありません。
貼り間違いや誤った消印で、印紙が無効になったり、あるいは交換の手続きを取ることになっては大変です。
最後の提出前に、印紙売りさばき所で貼り付け方を確認しながら、慎重に貼り付けましょう。
登記すべき事項の別紙もしくは電子媒体
登記用紙とは別に、登記する内容を順番に並べた別紙・もしくはCD-Rにテキスト文書を入力し提出します。
なお、司法書士が手続きを行う場合は、必要事項をオンラインで入力します。
文章自体は、登記される事項が順番に並べられたもので、法務省の記載例では、下記のようになっています。
「商号」法務商事合同会社
「本店」東京都千代田区霞が関1-1-1
「公告をする方法」官報に掲載してする。
「目的」
1 各種コンサルティング
2 前各号に附帯する一切の事業
「資本金の額」金330万円
「社員に関する事項」
「資格」業務執行社員
「氏名」法務太郎
「社員に関する事項」
「資格」代表社員
「住所」東京都千代田区霞が関1-1-1
「登記記録に関する事項」設立
以上のように、必要事項を並べた別紙か、上記のような内容をテキスト文書にしたものをCD-R等に焼いておく必要があります。
定款2部(会社保存用と法務局提出用)
定款は、会社で保存するものと、法務局に提出するものの2種類を用意しておく必要があります。
提出用の定款は、他の書類と合わせて綴る必要があります。
代表社員の印鑑証明書
代表社員の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)を市区町村役場、マイナンバーカードを保有する場合はコンビニエンスストアなどで取得する必要があります。
払込証明書
払込証明書は、社員(株式会社で言う株主、つまり出資者)から、きちんと資本金額全額の払込があったことを示す書類です。
払込証明における注意点は、
- 代表者が登記所に提出する、今後法人印の実印として使うものを捺印する
- 取引明細や預金通帳の表紙・表紙裏かネットバンキングで銀行名・支店名・種別・口座番号がわかる画面を添付する
- 代表社員が作成した出資金の領収書等を合わせ綴じる
- 取引明細や預金通帳の写しを添付し、社員からの資本金の振り込みに関しては、マーカーなどを添付しわかりやすくしておく
上記の点に注意する必要があります。
印鑑届書
法務局のホームページや法務局の窓口に、印鑑届書という様式があります。
この書類は、実印を登録する際に利用する書類で、予め提出時に実印を押しておく必要があります。
こちらも添付し忘れのないよう注意しましょう。
ケース別で必要になる書類
その他、添付が必須ではないけれども、様々なケースや定款での未記載などにより、別途書類の添付が必要となるケースがあります。
典型的なパターンを簡潔に説明します。
代表社員、資本金総額、本店所在地の詳細が定款に記載されていないケース
代表社員・資本金総額・本店所在地の地番や何号室かなどを記載していない場合は、代表社員,本店所在地及び資本金決定書を作成する必要があります。
書き方に関しては後述します。
代表社員の就任承諾書
代表社員の就任承諾書も、必要に応じ添付する必要があります。
文面例は、下記の通りです。
就任承諾書
私は、令和2年10月10日、貴社の代表社員に定められたので、その就任を承諾します。
令和2年10月10日
東京都千代田区霞が関1-1-1
法務太郎 印
法務商事合同会社 御中
代表社員、本店所在地及び資本金決定書
こちらも、定款で定めていない場合は記載する必要があります。
書き方としては以下の通りです。
代表社員、本店所在地及び資本金決定書
1.本店東京都千代田区霞が関1-1-1
2.代表社員 法務太郎
3.資本金 金3300万円
上記事項を決定する。
令和2年10月10日
法務商事合同会社
社員 法務太郎 印
現金でなく現物出資をするケース
現物出資を行う場合は、財産引継書・資本金の額の計上に関する証明書を添付する必要があります。
財産引継書
財産引継書に関しては、個人から合同会社に対して、財産が引き継がれましたよ、ということを示す書面です。
財産引継書
現物出資の目的たる財産の表示
イ 法務コンサルティング株式会社 普通株式 20株
価額 金100万円
ロ 軽自動車 ホンダ N-BOX
価額 金120万円
以上の価額の合計 金220万円
以上,私所有の上記財産を現物出資として給付します。
令和2年10月10日
東京都千代田区霞が関1-1-1
発 起 人法務太郎 印
法務商事合同会社 御中
上記のような形で記載しますが、価格評価に正確を期す必要がありますので、税理士など専門家に相談し、適正価額を決めることが望ましいといえます。
資本金の額の計上に関する 証明書
資本金の額の計上に関する証明書は、金銭と現物出資が両方存在する場合に必要な証明書となります。
書き方は以下の通りです。
資本金の額の計上に関する証明書
1 払込みを受けた金銭の額
金100万円
1 給付を受けた金銭以外の財産の出資時における価額
(会社計算規則第44条第1項第1号)
金220万円
3 1+2
金330万円
資本金330万円は会社計算規則第44条の規定に従って計上されたことに相違ないこと
を証明する。
令和2年10月10日
法務商事合同会社
代表社員 法務太郎 印
以上のような書き方になります。
委任状
会社設立の手続きでは、実際の作業を職務代行者や専門家に委任するケースが多くあります。
専門家に委任する場合は、委任状を始め他の書類も用意してくれますが、専門家以外の代理人に委任する場合も含め、委任状の記載例を挙げます。
委 任 状
私は,上記の者を代理人に定め,次の権限を委任する。
1 当会社設立登記を申請する一切の件
1 原本還付の請求及び受領の件
令和2年10月10日
東京都新宿区西新宿2-8-1
東京花子
以上のように、「原本還付」という、資料そのものを返してもらうことを請求・受領する手続も委任する、という一文をつけておく必要があります。
まとめ
ここまで、合同会社の設立で必要になる7つの書類の書き方・提出先に関して解説を行いました。
それぞれ、書類は記入例や書籍等を見ながら作成することは可能ではあります。
しかし、定款など会社の根幹に関わる書類に関し、自分で考えながら作成することは難しいです。
また、現物出資を行う際の財産評価に関しても、税理士など専門家の客観的な視点から確認を受けることが重要と言えます。
時間の節約だけでなく、適切な定款作成、現物出資の活用、電子定款作成による印紙税4万円の免税など、様々な観点から見て、合同会社の設立は、専門家に委任することがお勧めです。