会社設立を検討する中で、設立費用を安くするために、自分で会社を設立しようと考える人もおられるかもしれません。
会社設立の手続自体は、設立者自身がいろいろ調べながら行えば、自分自身ですることも可能です。
ただ、慣れない人が手続を行うと、1ヶ月近くの時間がかかってしまう可能性があります。
それだけではありません。
専門家に依頼しなかったためのミスの発生など、自分でやることでデメリットが生じることがあります。
また、専門家に依頼することで、本来かかる4万円の印紙代が無料になるなど、プロに依頼する方が早く、正確で、お得になるケースが多いといえます。
当記事では、会社設立全体の流れや、定款作成・申請の流れ、登記手続などを解説した上で、どのように会社設立の手続を行うか、専門家に依頼するならば、どのように行うかをわかりやすく説明します。
目次
会社設立(設立登記)までの大まかな流れは5つ
会社設立を開始し完了するまでの大まかな流れを、5つにまとめてみましょう。
設立登記とは
会社の設立登記とは、会社を設立するために必要な一連の準備が完了し、「会社を設立する準備ができました」と法務局に申請する手続です。
法務局に書類が受理され、審査、登記が完了すると、正式に会社設立が完了したこととなります。
設立登記に至るまでのプロセスを、5つのポイントで説明しましょう。
(1)基本事項を決める
会社を設立する上でまず重要となるのは、会社として基本的な事項である、社名・所在地をどうするかや、会社で行う事業(目的)・資本金・役員等をどのようにするかを定め、加えてビジネスプランの大枠も決めることです。
定款を作成する上で、事前に定めておく必要がある事項は下記の通りです。注意点も記載しましたのでチェックしましょう。
商号 | 会社の社名。有名な会社と重複したり、同一地域の同じ会社の商号とかぶることのないよう注意 |
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目的 | 会社で行う事業の内容。行う予定のある事業は記載しておくことが望ましい一方、必要以上に事業目的を多く入れると、第三者からみて「この会社は、どのような事業を行う会社なのか」と疑念を持たれる可能性があることに注意 |
本店所在地 | 事務所・店舗等を本店所在地に設定。取引先や様々な事業者、官公庁が、本店所在地に郵便物などを送る可能性があることは念頭に置く必要がある |
代表取締役・取締役等役員について | 代表者、また必要があれば役員を定める |
資本金の額 | 大きいほど外部からの信頼度が高くなるが、1,000万円を超えると税金が高くなるため、注意が必要 |
決算期 | 税理士に税務を依頼する場合は、税理士と相談して決める |
現物出資の有無 | 車・パソコンなど、「現物」を出資し、資本金代わりにできるが、税理士など専門家と相談することが望ましい |
以上のような、会社を設立する上で基本的な事項は、あらかじめ定めておく必要があります。
(2)定款を作成する
定款については、登記を管轄する法務省が、「ひな形」という形で様々な法人形態の様式を作っています。
自分で定款を作成する場合は、こちらや、会社設立の書籍を参考にひな形を作成する必要があります。
定款を作成する上では、必ず定款に盛り込む必要のある、「絶対的記載事項」必要に応じて定款に盛り込む、「相対的記載事項」自由に決めてよい「任意的記載事項」の3種類が存在します。
絶対的記載事項が欠けていると、定款として成立しませんので、その点は注意する必要があります。
では、具体的に、各種記載事項の内容はどのようなものなのでしょうか。
絶対的記載事項 | ・商号 ・会社の目的 ・本店の所在地 ・設立時に出資される財産の最低額 ・発起人の氏名 ・住所 ・発行可能株式総数 |
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相対的記載事項 | ・株券発行の有無(現在は多くの場合、発行しない) ・株式の譲渡制限の有無(当初は譲渡制限をつけることが確実) ・取締役会など、法人の機関設計・取締役・監査役の任期を、2年~10年のどの期間にするか(こだわりがなければ、10年でよい) ・現物出資を行うか・決算公告の方法(官報が一般的)・種類株式を発行するか |
任意的記載事項 | ・会社の事業年度 ・設立時取締役 ・設立時監査役の住所 ・氏名 ・株主総会の運営に関して |
主には、上記のこと、特に絶対的記載事項の部分については、具体的に記載する必要があります。
定款をいろいろ書籍などで調べながら作成し、「それでは公証役場で手続を・・」と行く前に、重要なことがあります。
それは、定款の内容を、公証役場で事前にチェックしてもらうことです。
以前は定款確認はFAXのみという公証人役場も少なくありませんでした。
現在は、メールで定款のデータファイル(ワード形式)を送ることが大半の公証人役場で可能です。
そのデータを役場職員に確認してもらい、指示通りに修正する必要があります。
実際に定款作成を自分で行った方はおそらく、「こんな細かいところ、言い回しまで修正しないといけないのか」と驚くくらい、いろいろな部分に修正依頼を入れられると思います。
定款を修正する上では、基本的には、公証役場が定款のデータを直接直してくれるわけではなく、電話で修正点を聞きながら、(もしくは修正が入った返信FAXを見ながら)、申請者自身が手直しする必要があります。
正確を期すために、申請者自身が定款の原稿に修正を加えるというのは、手間がかかります。
このように定款の準備をした上で、正式な定款認証手続の日時を予約する必要があります。
公証役場で定款認証を行う公証人は、出張なども多いため、なかなか予約が取れない時もあります。
また、定款完成後から定款認証日までの間に、発起人全員の実印を定款に捺印、印鑑証明を取得(3ヶ月以内のものであれば、事前に取得してもらっても可)のため、発起人が遠隔地にいる場合は、レターパックを利用した定款のやりとりが必要となり、更に時間がかかります。
また、発起人に関して、直接公証役場に行かない人に関しては「委任状」を書いてもらうことも必要です。
専門家に、定款を電子定款にしてもらっていない場合は、定款に4万円の印紙を貼付しておくことも要されます。(電子定款の場合は、印紙代は不要)
加えて、出資者に資本金を振り込んでもらい、資本金の出資証明を作ることも要され、定款認証に加え、事前準備が大変です。
(3)定款を公証役場で認証してもらう
予約日に、発起人の中の代表者か代理人が行き、公証役場で定款認証手続を行います。
定款認証費用・各種書類交付費用として、概ね52,000円がかかりますので、現金で用意しておく必要があります。
定款だけでなく、印鑑証明など各種書類がないと、再度別の日時に行くことになります。
(4)登記の準備を行う
定款認証が終了すれば登記の手続を行います。
必要書類を書式に沿って用意する必要があり、法務局においても、提出前に事前相談が必要です。
電話での相談も、簡単なものであれば問題はないですが、実際の書面を元に確認するとなると、「事前相談の事前予約」が必要となります。
この事前相談も含め、書類の準備ができたら、法務局に登記申請を行います。
(5)法務局に登記を申請する
専門家であればオンライン申請・郵送などの手続でも問題ありませんが、自分自身で初めて登記を行うという場合は、法務局で、提出前に最終確認を行ってもらい、その後に株式会社であれば最低150,000円、合同会社であれば最低60,000円の収入印紙を貼付する必要があります。
重要なのが、この印紙に署名・捺印などをして消印をしては「いけない」という点です。
慣れていない人だと、まれに印紙に署名・捺印をしてしまうことも考えられます。
手続として、手数料を払って印紙の再発行ができればまだよいですが、万一収入印紙の買い直しとなると、60,000円~150,000円の負担は大きいです。
印紙を貼り付け、提出し申請書類が受理され、処理が無事完了されれば、会社設立登記の完了です。
なお、司法書士が行うオンライン申請の場合は、手続の進捗・完了状況がオンラインで確認できますが、本人申請の場合は、申請者自身が法務局に確認し、その後登記事項証明書・印鑑カード・法人の印鑑証明などを取得しにいく必要があります。
会社設立の流れで押さえるべき3つのポイント
それでは、会社設立の流れで抑えるべきポイントを3つに集約し、説明します。
(1)会社設立の期間は2週間~1ヶ月
会社設立の期間は、株式会社・合同会社かの種類、専門家に依頼するか、自分で行うかによって、2週間から1ヶ月程度かかります。
スケジュール感に関して、表にしてみましょう。
必要な手続 | 株式会社を設立 | 合同会社を設立 | ||
専門家に依頼 | 自身で設立 | 専門家に依頼 | 自身で設立 | |
基本設計考案 | 1週間~10日 | 1週間 | 1週間 | 1週間 |
定款作成 | 1週間 | 1週間 | ||
必要書類準備 | 1週間 | 1週間 | ||
公証役場での定款申請 | 3日~1週間 | 1週間~2週間(予約日の調整や、定款の修正で個人申請の場合時間がかかる) | 不要 | 不要 |
法務局への申請・会社設立完了 | 1週間 | 1週間 | 1週間 | |
想定期間 | 10日~2週間(流れがスムースに行けば1週間ですむことも) | 1ヶ月~1ヶ月半程度(数ヶ月かかるパターンも) | 2週間程度(流れがスムースに行けば数日~1週間ですむことも) | 30日~40日程度(数ヶ月かかるパターンも) |
なお、上記の場合は、申請をする側が、最速で書類を用意したという想定です。
書類の取得に手間取ったり、発起人などが複数であったり、郵送で書類をやりとりをする必要がある遠隔地にいる場合は、上記よりどのケースでも時間がかかります。
(2)株式会社より合同会社のほうが設立期間が短い
合同会社は、株式会社のような定款認証手続がないため、「公証役場での定款認証」という手続が不要になります。
公証役場での定款認証手続は、会社設立の中でも時間がかかり、また定款のチェックも厳しく、個人が行うと何度も修正を用する可能性が高いです。
合同会社の場合は、定款認証手続が不要のため、定款認証手続の手順がそのままカットでき、結果設立期間が短くなります。
(3)自分でやるより専門家のほうが早く終わる
会社設立は、全体として手続や必要文章が「ともかく細かい」ため、自分でやろうとすると、様々なことで時間と労力を要してしまいます。
また、自分でやる際に問題なのは、自分で途中まで行っていて、「やっぱりわからないから専門家に任せる」となっても、最初からやり直しになるケースが多いことです。
まだ最初の部分ならともかく、後の部分で間違いに気づいては、修正することが非常に大変です。
万一を考えると、最初から専門家に任せることが確実です。
会社設立後から開業までの大まかな流れは5つ
会社設立が無事終了した場合、開業までの流れを5つのポイントでまとめてみましょう。
(1)登記事項証明書などを取得する
会社の設立登記が完了したら、登記事項証明書(様々な手続に使うため、3通以上取ると良い)・印鑑証明(2通以上)を法務局で取得します。
(2)法人口座を作る
会社名義の法人口座を作成します。
法人口座開設時には、必ず金融機関に必要書類を電話確認する必要がありますが、最低限
- 会社の登記事項証明書
- 会社印
- 設立した会社の定款の原本
- 代表者の実印+印鑑証明
- 代表者の免許証等身分証明書
- 社員など第三者が来る場合は、代表者が手続者に委任する委任状
- その他、業務に関して具体的な内容・事業実態や取引先など説明でき、金融機関が求める資料
などが必要になります。
また、この数年で、マネーロンダリングや、反社会的勢力との取引遮断のため、「反社チェック」という「反社会的勢力に関与していないか」が極めて厳しくチェックされます。
そのため、各種調査なども含め、口座開設には時間がかかるケースが多いので、注意した方が良いです。
多少裏技的ではありますが、経営者の信頼できる先輩や、税理士など「紹介を通す」ことで、ゼロから金融機関に手続をしようとするよりも、金融機関も素性がわかり、スムースに手続ができる可能性があります。
(3)各種届出を提出する
会社設立後に必要な、主な手続きは下記の通りです。
手続名 | どこに(それぞれ事業所を管轄する事務所) | 内容 |
法人税等の手続 | 税務署 | 会社設立届出等各種書類提出 |
地方税等の手続 | 都道府県税事務所及び市町村税事務所(23区の場合は都税事務所のみ) | 会社設立届等各種書類提出 |
健康保険・厚生年金加入 | 年金事務所 | 健康保険・厚生年金への加入は1人社長でも義務あり |
労災保険・雇用保険等各種従業員向け保険加入 | 労働基準監督署・ハローワーク | 従業員を雇用した際に、労災・雇用保険の義務あり |
(4)許認可・届出の手続きを進める
許認可・届出が必要な手続がある場合は、自身か行政書士に依頼し手続を行う必要があります。
各種許認可・届出も、最初は自分でやろうとしたけど、途中で・・・というケースがあったり、会社の定款に、許認可・届出に必要な目的を入れ忘れたり、資本金が必要額に足りないことに気づくという、後からの修正が大変なケースもあります。
そのため、会社設立時に許認可・届出が必要となる業種かも専門家に確認し、依頼できる場合は許認可・届出の手続代行も依頼する方がよいでしょう。
(5)その他、オフィスの準備などを行う
オフィスの準備では、主に下記の事項が必要になります。
- オフィスの賃貸
- 内装・備品などの整備
- 電話・ネット回線の敷設や水道・電気・ガスなどの開通
- PC等の設置
- 各種保険加入
- 必要に応じ、従業員・パートの雇用
会社設立後の流れで押さえるべき2つのポイント
会社設立が終わると、「一仕事終わった・・・という気分になりますが、2つのポイントがあるため、忘れず抑える必要があります。
(1)業種よっては許認可の手続前にオフィスの契約が必要
弁護士・税理士・宅地建物取引業等の士業系は、オフィス・もしくは独立し、セキュリティを備えた事務スペースが必要になります。
また、旅行業、人材派遣業などの特定の業種は、許認可を得る要件として、独立したオフィスを構える必要があるため、こちらも事前にしっかりと確認しておく必要があります。
一例として、宅地建物取引業(いわゆる不動産事業者)の場合、
- 独立した専用の出入り口
- 自宅の場合事務スペースと居住スペースの分離
- 事務所として、第三者が見ても納得できるもの
- 極力、セキュリティが確保できる、店舗のテナントが望ましい
など、事務所としての独立性が問われます。
会社設立の最初のところで、許認可・届出に関しても専門家(許認可・届出の場合は行政書士)に相談、手続を依頼し、その通りにやった方が確実で、負担が少ないです。
(2)社会保険の手続きの期限は会社設立後5日以内
健康保険・厚生年金保険などは、会社設立後5日以内に手続きが必要になります。
会社設立に加え、その後の手続を専門家に依頼していれば、スムースにいきますので、設立後の手続も、最初から全てお任せすることをお勧めします。
まとめ
会社設立において、自分でやった方が早いというケースは極めて少ないです。
また、苦労して会社を設立しても、売上には繋がりません。
会社設立に費やす苦労を、ぜひ会社の営業や商品開発、顧客へのサービスなど、生産的な方向に向けることがずっと望ましいです。
また、会社設立が自分でできたとして、その後も何でも自分でやろうとすると、思わぬところで手続ミスを起こし、つまづくこともあります。
餅は餅屋で専門家に任せ、経営者は「売上・利益を挙げる」という本来の業務に力を注ぐことが適切といえましょう。