会社設立を行う上で、「資本金をいくらにするか」という点は、多くの方が悩まれると思います。当記事では、資本金を定める上で重要な6つの考え方を踏まえ、どのような事業では、どれくらいの資本金が必要かという観点から、解説します。
読者の方が自身の事業に適した資本金を決定するための一助になれば幸いです。
目次
会社設立時の資本金の決め方(1)税金面から考える
会社設立時の資本金の決め方として、税金面から考えるというのは一つの重要なポイントです。
目安として、株式会社であれば、税金面で優遇がある1,000万円以下、かつ少なくとも100万円、できれば旧有限会社の設立基準の300万円を超える額から950万円くらいまで、合同会社であれば850万円くらいまでが、多すぎず、少なすぎない額といえましょう。
資本金によって会社設立時の登録免許税が変わる
資本金の額により、会社設立時に法務局に納付する登録免許税が異なります。株式会社の場合、資本金×1,000分の7が15万円を超えない場合であれば、登録免許税は15万円となります。
資本金が2,140万円までは、15万円を超えることがないため、株式会社の場合は、1,000万円に極力近い出資金で問題ありません。
一方、合同会社も、資本金×1,000分の7をもとに計算します。すると、資本金が858万円を超えると、登録免許税が6万円のラインを超えます。
そのため、合同会社設立であれば、資本金は850万円までがちょうど良いところと思われます。
資本金が1,000万円未満だと税制上のメリットがある
資本金が1,000万円未満の場合、大きなメリットとして、「原則として」消費税が2年間免税、法人住民税が安くなるというメリットがあります。
消費税が原則2年間免除
例外のケースもありますが、原則として資本金が1,000万円未満の会社は、2年間消費税が免税になるというメリットがあります。
事業者が消費税の課税対象になるかは、2期前の売上を基準にして、「2期前の課税売上が1,000万円以上だったか」という観点で決まります。
2期前が課税対象であれば、その期の決算時の売上がいくら(800万円など、1,000万円以下)であろうと、消費税が課税されることになります。
逆に言うと、新設法人の場合は、2期前・前期が存在しないため、消費税自体が発生しないことになります。
ただし、注意点として、「前年の6ヶ月間(特定期間)の課税売上高または給与支払額が1,000万円を超えた場合」は、資本金が1,000万円未満であっても当年度から課税される、という点は留意する必要があります。
加えて、ここまで個人事業主として事業を行い、法人成りしたケースに関しても、「前々年度や前年度の売上が1,000万円を超えていようとも、消費税の課税タイミングはリセットされ、「法人としては、昨年・一昨年、事業を行っていなかった」という扱いになります。
つまり、個人事業主として売上が伸びて、一昨年は売上1,050万円、昨年は売上1,300万円、というケースでも、法人化すれば消費税の納税義務が原則2年分なくなるわけです。
売上などによっては、消費税の課税対象となるケースもあるため、少しわかりにくいかもしれませんが、「原則資本金1,000万円以下の会社を設立すると、消費税の免税事業者になる」という点はぜひ抑えておくとよいでしょう。
法人住民税が安くなる
法人住民税は、資本金1,000万円以下か、1,000万円超かで、額が大きく異なります。
例えば東京都特別区の場合、資本金1,000万円以下の均等割は70,000円ですが、資本金が1,000万円を超えると一気に180,000円に上昇します。
創業初期に、11万円という差は大きいといえます。
ちなみに、資本金が1億円超の場合の均等割は、290,000円となります。
特に事情がなければ、資本金を1,000万円以下にしておくことが無難といえます。
会社設立時の資本金の決め方(2)運転資金から考える
会社設立時の資本金を考える上では、運転資金を基準に考えるのも一つのやり方です。
資本金そのものは、お金だけでなく物の出資でも数値上増やすことはできますが、実際問題として口座から資金がなくなれば、支払いができなくなり、経営破綻してしまいます。
そのため、運転資金を口座に備える意味合いで、資本金を手厚くすることも一つの手段です。
運転資金=初期費用+3ヶ月~6ヶ月の運転資金
運転資金は、設立時の初期費用に加え、3~6ヶ月分の運転資金を用意すると良いでしょう。「初期費用」と「運転資金」って?と聞き慣れない言葉かもしれませんので、それぞれの言葉の意味をおさえておきます。
初期費用とは
初期費用は、「開業費」という、会社設立前や会社設立時にかかる費用、また直後にかかる費用を含めたもの全体を指して、初期費用と定義します。
運転資金とは
運転資金は、会社を運営する上で、毎月出ていくお金を指します。少しややこしい話ですが、経営にかかる出費では毎月確実に出ていくお金である「固定費」、毎月費用が変わる「変動費」の2種類が存在します。
- 固定費:家賃、光熱費、人件費(自身の給与も含め)、リース契約、サブスクリプション、専門家の顧問報酬など
- 変動費:外注費用、仕入れ費用、消耗品、専門家報酬、その他購入する物など
つまり、固定費は「毎月大体これくらい出ていくな、ということがわかるお金」であり、変動費は、「月ごとに出費が変わるので、その月が過ぎてみないと、どれくらいの支出になるかわからないお金」といえます。
一人社長でバーチャルオフィスで業務を行う場合
固定費を削減する上では、バーチャルオフィス(会社の住所と電話番号を借り、実際は自宅で業務を行う)という方法が、初期費用全体を抑える手段として有効です。(ただし、口座開設などがきちんと行えるか、バーチャルオフィス運営会社や金融機関への確認は必須です)
バーチャルオフィスの利用費用は、場所やサービス内容により異なりますが、5千円~2万円程度を見ておくと良いでしょう。
作業は自宅で行うとして、自身の給与は20万円に設定(給料は1年間変えられない)、水道光熱費・通信費などが2万円、その他消耗費が3万円程度とし、バーチャルオフィスは1万円のものを借りると仮定します。
費目 | 支出額 |
---|---|
バーチャルオフィス利用料 | 10,000円 |
役員報酬 | 200,000円 |
水道光熱費・通信費 | 20,000円 |
消耗品など雑費 | 30,000円 |
合計 | 260,000円 |
以上を踏まえ、最低限のランニングコストがかかる仕組みでも、毎月20万~30万の出費は織り込んでおく必要があります。そうすると、3ヶ月で78万円、半年で156万円という運転資金が必要になります。
一番コストが安価な起業の仕方でも、毎月これだけの固定費がかかり、半年単位で見ると百万単位になるということは踏まえておく必要があります。
オフィスを構えて一人社員を雇う場合
オフィスを構え、1人社員を雇用する場合だと、毎月の固定費は相当な物になります。オフィスの賃貸料として、都内の1Rの営業可能マンションを15万円で借り受けるとします。
社員は若い正社員を、年俸360万円で雇用すると仮定、本来は社会保険料・厚生年金保険などを折半する義務がありますが、ここでは簡略化のため省略します。
法人役員自身の給与は20万円で設定、水道光熱費・通信費などは増え4万円、その他消耗費が5万円程度とします。
費目 | 支出額 |
---|---|
家賃 | 150,000円 |
社員給与 | 300,000円 |
役員報酬 | 200,000円 |
水道光熱費・通信費 | 40,000円 |
消耗品など雑費 | 50,000円 |
合計 | 740,000円 |
以上のように、社員を雇用した場合は1ヶ月だけで、バーチャルオフィスを用いて1人社長で起業する場合の3ヶ月分の費用を超える額がかかることが想定されます。(社会保険料等は加えていないため、実際は更にかかります)
いずれにしても、会社の運転資金には、相当な金額がかかることを抑えておく必要があります。
会社設立時の資本金の決め方(3)資金調達から考える
会社設立時の資本金の決め方として、「資金調達」を起点に考えるという発想も一つの考えです。
特に、建設業・製造業・飲食業など、設備を要する産業や初期開業に費用がかかる業種は、外部からの資金調達を前提に、手厚い資本金や、自己資金を用意しておく必要があります。
資本金1円だと事業が安定するのか疑問視される
会社の資本金は、1円からというのが制度上は可能ですが、現実問題として「手元に1円しかない事業で大丈夫?」と思われます。
1円は極端な例にしても、数万・数十万円の資本金だと、よほど設備投資が不要な業態でない限り、事業の安定性という観点から疑問を持たれます。
その点を踏まえると、資本金は数百万円程度を確保しておくことが望ましいといえましょう。
さすがに、数百万円、例えば500万円の現預金を一気に用意するのは・・・という場合でも、車やパソコンなどを「現物」として出資する、「現物出資」という方法もあります。(ただし、実際のやり方については、税理士等専門家と相談することを強くお勧めします)
自己資金があれば資本金が少なくても審査は通る
会社設立時に事業資金を借り受ける先としてメジャーなのが、日本政策金融公庫です。日本政策金融公庫の場合、資本金もある程度は見ますが、さらに重視してくるのが自己資金です。
しかも、長年コツコツと貯めてきた、という自己資金であることが前提になります。これから会社を設立する人が日本政策金融公庫と取引する際は、通帳の半年~1年分の写しを提出させられるケースが多いです。
これは、これまできちんと毎月事業資金を貯めてきたか、公共料金の支払いなどで引き落とし漏れはないかなどを、日本政策金融公庫は重要視するためです。
そのため、会社設立前に、急に口座に数百万円が入っているケースでは「お金の出所はどこですか」ということをかなり高い確率で聞かれることを想定しておく必要があります。
日本政策金融公庫からすると、コツコツ貯めたお金ではなく、親族・金融機関などから一時的に借りた「見せ金」であっては、審査の上でプラスの評価はできないからです。
以上のように、資本金が少なくても、ある程度の自己資金があれば、日本政策金融公庫などの貸し出し審査は通る可能性がある、ただしお金の出所はきちんと確認されるものと想定しておいた方がよい、という点を抑えておく必要があります。
会社設立時の資本金の決め方(4)許認可から考える
業種によっては、許認可・届出を行う上で、資本金が一定額以上あることを前提としている業種もあります。代表的な業種をピックアップします。
建設業
建設業は、許可を得る上で、資本金を含めた500万円以上の自己資本か、500万円以上の預金証明が必要になります。
一般労働者派遣業
一般労働者派遣業の場合は、資本金1千万円以上が必要となります。より厳密に定義すると、資産総額-負債の総額>1千万円という定義となります。
このように、業種で、資本金が一定以上、あるいは資産から負債を差し引いた金額が一定額以上ということを求められる業種は少なからずあります。
事前に税理士・行政書士など、税務・許認可の専門家に相談することが重要です。
会社設立時の資本金の決め方(5)決算書の観点から考える
資本金を考える上で、債務超過にならない額の資本金を出資しておくことは重要です。資本金が少ないと、後ほど述べる「債務超過」などの問題が発生し、デメリットにつながります。
資本金が少ないとすぐに債務超過になる
資本金というのは、当然ながら会社の経営の元手となる資金です。創業初月から十分な売上を見込める可能性があるならばともかく、通常のケースでは、少ない資本金でスタートすると、すぐ債務超過となり、追加出資なり経営者などが貸付を行う必要が出てしまいます。
この債務超過は、経営面でもですが、融資に大きな影響を及ぼします。
債務超過になると融資も受けづらい
金融機関の職員の立場になって考えるとわかることですが、金融機関は資本より債務が多い会社には、お金を貸すことに関して及び腰になります。理由は2点です。
1つは、当然倒産されたり、民事再生などで、貸したお金が回収できなくなっては困ることです。もう1つは、金融機関ならではの「自己査定」という制度の存在があるからです。
自己査定に関して簡潔に説明すると、「融資先の格付け」を行い、格付けに応じ、低いランクの取引先ほど、多くのお金を積んでおく必要があります。
格付けに関しては、「正常先」「要注意先」「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の6段階があり、後者3段階は「もう経営は相当厳しい、もしくは破綻している」とみなし、貸し出し分の75%~100%を引当金として積む必要があります。
仮に債務超過の状態であれば、一時的なものでない限り、要注意先以下に格付けされる可能性も出てきます。
そうすると、金融機関は、「貸す」ではなく、「貸さない」「回収する」モードに入ることも、大いに考えられます。いずれにしても、金融機関から健全に見てもらうためにも、債務超過の状態になることは、極力避けるべきです。
会社設立時の資本金の決め方(6)信用面から考える
会社設立時の資本金を検討する際は、「信用を得られるか」という側面で考えることも重要でしょう。なぜなら、「資本金」というのは取引先・第三者が容易に知ることのできる、信用の指標だからです。
取引先によっては資本金の金額で信用力を測る
伝統的な会社、大手の会社ほど、事前に取引予定の法人の登記事項証明書(もしくは信用調査会社を通した調査)を行い、信用力があるかを調査する傾向があります。
信用会社を通した調査の場合、ある程度のコストと、取引先の情報が無い場合は時間がかかります。
そのため、代わりの手法として、登記事項証明書を取得し、資本金を調べることでおおよその規模を知ろうとするケースが想定されます。
ライバル企業の資本金を参考にするのもアリ
少し裏技的ですが、ライバル企業・同業種の企業の登記事項証明書を取得し、資本金を調べ、それにあわせる、もしくは少し上にするという方法もあります。
「いくら以上資本金・自己資本がないと、許可が取得できず事業が始められない」というケースを除き、どれくらいの資本金が適正なのかというのは、意外と決めにくいことです。
そうであれば、ライバル企業・同業種の資本金を参考にすると、基準があって決めやすくなります。
取引先が気にしないのであれば少なくても良い
業種によっては、取引先が資本金を気にしない、というケースもあります。特にITなど情報通信業、その他パソコンが一台あればできる仕事や、対象が消費者のため、お客様が資本金を気にすることはないだろう、というケースでは、資本金は少なめで良いといえます。
中小零細企業にオススメの資本金の決め方
以上、6つの決め方を提示しましたが、結局どうすればいいのか?という疑問を持つ方も少なくないと思います。資本金を決めるポイントが複数あるので、ポイントに合致する資本金額を検討してください。
- ランニングコストがかかる業種の場合は、初期費用+6ヶ月分の運転資金に当たる資本金
- ランニングコストがそこまでかからない業種だが、対外的な信用も重視したい場合、税負担の軽さ・信用のバランスを取り、900万円~950万円程度を出資できる場合は、1,000万円以下、900万円~950万円までの出資
- 許認可・届出の関係で資本金や自己資本が問われる業種は、基準と同じかそれ以上の資本金を確保(建設業であれば500万円)
- それ以外の業種で、対法人の取引がある場合、旧有限会社基準の300万円
- 自宅やバーチャルオフィス・レンタルオフィス利用で、既存取引先が既にあり、法人として一応の信用を確保したいという場合は100万円
これ以下の金額でも、会社設立はできますが、信用性・会社の継続性という面では心許ないので、できるだけ下限でも100万円は資本金を用意するのが望ましいといえます。
まとめ
以上、資本金を決める6つの考え方について言及し、状況に応じた資本金のラインも並べましたが、どうしても決められない方もいらっしゃるでしょう。
その場合は、税理士に相談し、取り組む事業・融資を受ける予定・用意できる資本・その他の情報も踏まえ、アドバイスをもらうことが確実といえます。
個別の状況により、適切な資本金は変わります。ぜひ、これから設立する会社に適した資本額を定められるよう、税務・会計のプロフェッショナルである税理士への相談をお勧めします。