募集設立は発起設立に比べて手続きが難しく、実務ではあまり扱われない株式会社の設立方法です。しかし、募集設立は発起人以外にも資金調達を募ることができるので、最初から大きな資金が必要な事業がある場合は大きな力を発揮します。今回は募集設立について詳しく解説します。
目次
募集設立とは
募集設立とは発起人が設立時発行株式(株式会社の設立に際して発行する株式のこと)の一部を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける人を募集して株式会社を設立する方法です。募集設立は手続きが煩雑であるため、新規に事業を立ち上げようとする株式会社の場合は発起設立を行うことがほとんどです。
募集設立のメリットは2つ
手続きが大変である募集設立ににもメリットがあります。
- 資本金を増やすことができる
- 出資者が多い場合や地方にいる場合に便利
メリット(1)資本金を増やすことができる
募集設立の募集とは、会社の資本金を外部から調達するという意味です。発起人以外からも資金を調達することができるので、上場企業が子会社を作る場合など、資金が多く必要な場合に向いています。
メリット(2)出資者が多い場合や地方にいる場合に便利
出資者が多く、全員が発起人になってしまうと、印鑑証明書を人数分用意しなくてはなりません。
また、出資者が地方にいる場合に実印を一枚の書類に順番に押してもらうとプライバシーの保護の問題にもなります。出資者が多い場合は、募集設立が向いています。
募集設立のデメリットは3つ
募集設立のデメリットは以下になります。
- 募集設立特有の手続きの手間がかかる
- 発起人以外の第三者が出てくる
- 登記申請における必要書類が増える
デメリット(1)募集設立特有の手続きの手間がかかる
募集設立は出資してくれる人を募集する必要があるため、その手続きの手間がかかります。
「出資者の募集→選定→払い込み」といった手順を決められた期日を設けなくてはなりません。
発起設立であれば簡単に準備できた「払込みがあったことを証する書面」などは銀行から手数料を支払って「払込金保管証明書」という書類を発行してもらう必要があります。
デメリット(2)発起人以外の第三者が出てくる
出資者は発起人とは異なる第三者です。出資をするということは、株主になるということなので、会社の経営について口出しをすることができます。
創立総会と呼ばれる総会を開いた際に定款の内容や役員の選定について説明と同意をもらう必要があります。第三者の存在がデメリットと一概にはいえませんが、新しく立ち上げた会社にとってメリットはあまりありません。
デメリット(3)登記申請における必要書類が増える
募集設立の場合、発起設立と比べて登記申請にかかる必要書類が増えます。主に株式の募集にかかる書類です。
募集設立で必要になる書類
発起設立で必要となる書類に加えて、募集株式にかかる書類が追加になります。同じ書類は発起設立のページを確認してください。
追加で必要となる書類
- 発起人全員の同意書
- 創立総会議事録
- 設立時募集株式の引き受けの申込を証する書面
- 払込金保管証明書
- 資本金の額の計上に関する書面
必要書類(1)定款
発起設立と同じです。定款の記載には必ず記載しなくてはならない「絶対的記載事項」のほかに「相対的記載事項」・「任意的記載事項」を入れます。
- 必要な印鑑:会社の実印
必要書類(2)発起人全員の同意書
発起人が引き受けたほかの設立時発行株式について、発起人が引受人を募集します。発起人の全員の同意により、株式を割り当てる人を決定します。その際に以下の事項を決めます。
- 設立時募集株式の数
- 設立時募集株式の払込金額
- 払込期日(例)7月1日)又は払込期間(例:7月1日~7月8日)
- 設立登記が行われなかった場合に株式の引き受けを取り消すことができる旨
- 必要な印鑑:発起人の実印
必要書類(3)就任承諾書
発起設立と同様です。取締役や監査役などの役員全員が就任を承諾するために、署名又は記名・押印が必要となります。
- 必要な印鑑:役員となる人の実印
必要書類(4)印鑑証明書
発起設立と同様です。取締役会を設置する場合と、しない場合によって印鑑証明書の有無が変わってきます。
必要書類(5)本人確認証明書
発起設立と同様です。印鑑証明書を用意する必要がない役員は本人確認証明書が必要となります。
必要書類(6)創立総会議事録
株式引受人の払込みが完了後、地帯なく創立総会を開かなければなりません。創立総会で決めることは設立時取締役などの選任です。
- 必要な印鑑:役員となる人の実印
必要書類(7)発起人決定書
発起設立と同様です。本店の所在地や設立日を決めます。
- 必要な印鑑:発起人の実印
必要書類(8)設立時募集株式の引受けの申込を証する書面
株式申込証とも呼ばれます。設立時募集株式の引受けを申込む人は「自分の氏名・名称及び住所」と「引受けを受けようとする設立時募集株式の数」を記載した書面を発起人に交付する必要があります。
- 必要な印鑑:出資者の認印
必要書類(9)払込金保管証明書
払込金保管証明書は金融機関に依頼することで2~3日程度で発行してもらえます。その際には、手数料を支払う必要があります。
2通発行され、1部は会社保管用、もう1部は設立登記に使用します。発起設立のように預金通帳のコピーは認められていません。
必要書類(10)資本金の額の計上に関する書面
設立時代表取締役が作成するもので、払込みがされた出資金をそのまま資本金とするのか、資本準備金とするのか決めます。そのほか、現物出資があった場合はその記載をします。
- 必要な印鑑:会社の実印
必要書類(11)印鑑届出書及び印鑑カード交付申請書
発起設立と同様です。会社の実印の登録と会社の印鑑証明書を取得するための印鑑カードを交付してもらうための書類です。
- 必要な印鑑:会社の実印および代表取締役の実印
必要書類(12)登記申請書
法務局に申請する際に、必要となる申請書です。法務局のホームページにひな形があるので、そちらを利用しましょう。
募集設立の手続きの流れ
募集設立の手続きの流れを説明します。大きく異なるのは創立総会と(5)募集株式の発行と(6)創立総会の部分です。以下の部分は発起設立と同じなので割愛します。
- (1)発起人の決定
- (2)会社の印鑑を作る
- (3)定款の作成
- (4)定款の認証
- (7)設立登記
手続き(5)募集株式の引受け
発起設立と変わってくるのが募集株式の引受けです。分かりやすいようにアイドルのオーディションに例えて流れを説明します。
- (1)発起人の設立時発行株式の引受け
- (2)設立時発行株式の引受人の募集
- (3)募集事項の通知(オーディション募集)
- (4)設立時募集株式の申込み(アイドルの履歴書)
- (5)設立時募集株式の割当て(オーディションの合否)
- (6)出資の履行(事務所の入会金を支払う)
(1)発起人の設立時発行株式の引受け
まず、発起人が設立時発行株式を引き受けます。設立時発行株式の一部を引き受ける点は発起設立と異なりますが、手順は同じく指定口座に振り込むだけです。
(2)設立時発行株式の引受人の募集
発起人が引き受けたほかに設立時発行株式について、発起人が引受人を募集します。発起人の全員の同意によって設立時発行株式を引き受ける人を募集することを決定します。
(3)募集事項の通知
設立時募集株式の引受けの申込みを考えている人に募集事項や所定の事項を通知します。アイドルの募集方法と同じく、基本的には事前にインターネットや広告などで自分の会社に投資したいと思っている人を募集し、希望者に対して、書面や伝媒体で通知します。
※中には「総数引受契約」と呼ばれるものがあります。こちらは会社側から株式を買ってほしい特定の人に直接契約をすることです。アイドルのオーディションでいえば、「スカウト」になります。
(4)設立時募集株式の申込み
設立時募集株式の引受けの申込みをする人は以下の事項を記載した書面を発起人に交付します。
- 申込みをする人の氏名・名称及び住所
- 引受けを行う設立時募集株式の数
(5)設立時募集株式の割当て
発起人は最も適当と認める人に対して自由に割り当てをすることができます。設立時募集株式の引受けの申込者は割当てを受けることにより、設立時募集株式の引受人となります。
設立したばかりの会社に出資をする投資家は発起人の知り合いや、話したことがある人であることが多いです。
最適な引受人は誰なのか判断することは難しいですが、基本的には性格など「人間性」をみます。あまりに経営に口を出してくる人は避けるようにしましょう。
※投資家はあくまで投資家です。アイドルのようにダンスや演技がよくて採用するわけではありません。発起人の手腕や会社の将来を見てくれる良い投資家を選ぶのがベストです。
(6)出資の履行
募集株式の引受人は割り当てられた設立時募集株式の数に応じて払込みをする義務を負います。払込みをすることによって引受人は株式会社の成立とともに株主になります。
手続き(6)創立総会
創立総会は募集設立において、設立時株主によって構成される設立中のみの決議機関です。株式会社が設立された場合は株主総会になります。
創立総会は募集株式の払込みが全て終わったあと、発起人が遅滞なく招集しなくてはなりません。創立総会で決議する内容は大きく分けて以下の2つです。
- 設立時取締役・設立時監査役など選任
- 定款の変更や設立自体の廃止
まとめ
今回は募集設立について詳しく解説しました。
募集設立は発起設立に比べて手続きが多く、煩雑なので、大手企業の子会社のように資金を重視する場合や出資者が多い場合がなければ発起設立を検討してみてはいかがでしょうか?